牧場から御所平峠、高座岩、そして半対峠までの道は防火帯上によく整備されていて、道を誤ることはない。連続して緩やかな起伏が続く快適な山道である。
問題と言えば半対峠に下る道で、いつのころからか今は左手の急な斜面に落ちていく道が使われ、古い道は判然としない。敢えて古い道を下ったわれわれは、遠回りをしたようだ。
峠から川床まで下る道は一部かなり細かったり、崩れそうな個所もあり、同行の二人はかなり緊張する場面もあった。下方から聞こえてくる小黒川の流れの音に励まされるようにして、それでも幾つかの難所を乗り超えた。
川床に下ると、目印の巨岩が目前に見え、その向こうに狭隘な谷を造った小黒川の急な流れが見えるようになる。日本の中級山岳でよく目にする、清冽な渓相の典型と言えよう。
この大岩のすぐそばで昼飯を食べたこともあったが、今回はそのまま古道と思しき踏み跡をたどることにし、渓の中の秋の眺めは時々足を止めるくらいにした。それでも、歴史には殆ど関心を見せなかった同行者二人だったが、谷や周囲の景観は充分に楽しめただろう。
期待していた標識布はすでになかった。長い時間の流れの中で、旅人はその時々の歩きやすい道を選んだようで、同じ古道でも法華道のようにこの道がそれだと断定できるような所は少ない。
千年も続いたその微かで、頼りない道らしきであっても、甲斐(山梨県)の国から馬を曳いて、都までの遠い旅程の一部だと思えば、その苦労もそれとなく伝わってくる。
対岸の小黒川林道に出るには南沢の出会いの手前に2カ所ほど適当な登り口がある。場合によっては渡渉もあり得るし、倒木をまたいで流れを渡る場面もあるかも知れない。それでも、今回われわれが犯したような間違い、つまり先の見通せない崖に挑むよりか、河原を歩く方が賢明で、濡れることもあらかじめ想定しておいた方がいいだろう。
以上、いつもと変わらず思い出すままに呟いた。道案内としてはあまり役には立たないことを承知している。また、久しぶりの幻の古道を訪う遊歩行で、同行者を不安に陥らせたこともあった。
しかし、そのことを省けば、個人的には大いに満足できた。この秋には無理かもしれないが、川床の幻の古道を歩けるように、新たに標識府か簡単な石塚(ケルン)でも設けようと考えている。
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本日はこの辺で。