急に思い立って上に行ってきた。心配していた雪の状態は、きょうの写真からも分かるようにそれほどのことはなく、道中何事もなく小屋に着くことができた。
荊口を過ぎてから目に付き始めた道路に残る雪は多分昨夜降ったのだと思うが、芝平を過ぎ第1堰堤から先は車の通った跡はなく、峠に出ても変わらず、ついに上までずっと新雪の続く道に新しい轍を残してきた。
最も雪が深かった場所は牧場内の初の沢の大曲りを過ぎ、日の当たらない緩やかな登りとなる場所で、古い雪の上にさらに積雪を増やしたらしく15センチほどはあっただろうか。このまま大雪が降らなければ越年は車で行けそうだったが、こればかりはあまり楽観しないことにした。
やはり上に行くと冬の山の冷気に触れ、あるいは久しぶりの雪の山々や剣呑な雪空を眺め、気合が入る。緊張感が湧いてきて、それが快い。
人気はもちろん、鹿の姿すら目にしない。雪の上に残る足跡といったらせいぜいウサギぐらいで、他の動物たちは雪を避けもっと標高の低い場所へ移動したか、それとも穴倉の中でおとなしくしているのだろう。
雪の上に残るそんな足跡を目にすると、決まって思い出すことがある。あれは2匹の犬を連れて、第1堰堤から夜の雪道を歩いて登ろうとした時のことだった。
ド日蔭の少し手前、犬が目敏く鹿の死体を見付け、そうなったらそのうちの1頭キクはそこで後続することを止めてしまった。獲物のそばから離れようとしないのだ。そのうちに追いかけてくると思ったが、それがお転婆な彼女の姿を目にした最後となった。
いろいろな事情が重なって、本格的に犬の捜索を始めたのは翌々日になったが、今でも雪の上に残る動物の足跡を見ると、他の動物との判別に苦労しながらキクの足跡を探し歩いたことを思い出す。北原のお師匠が、「戻ってきたら肉を持って行ってやる」と言ってくれたその声も一緒に。
いろいろなことがあった。里と比較して上には良いことの方が多かった。帰りかけて、そんなことを車を停めて振り返っていると、起伏に富んだ雪の丘陵に、初の沢の流れるダケカンバの林に、そして視界に入る遠い吹雪の山々にも感謝の念が湧いてきた。
もし車で行くのが無理になったなら、法華道を歩いていくことも厭わないと思っていた。
本日はこの辺で。