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南アルプススーパー林道の発着地でもある仙流荘からしばらく行くと、スーパー林道入口まで行かぬうちに、右手から深い谷が入り込んでくる。谷の名前は「尾勝谷」という。かつてはこの谷から大量の木材が搬出され、地元の産業に大いに寄与したそうだが、それも今では昔語りとなってしまった。そんな谷だが、以前から気になっていた。この辺りの地理的な状況がよく分かっていなかったせいもあり、猟師から谷の名前を教えてもらって以来余計に、行ってみたくなった。
そもそも入笠牧場の管理人の身でありながら、小黒川が15キロばかり下って戸台川と合流し、「小」が取れて「黒川」になることも知らなかった。また仙流荘の風呂は気に入っていてよく行くが、スーパー林道はまだ一度も利用したことがない。仙丈へ登ったことも3回くらいだろう。
尾勝谷へは谷の出会いのすぐ上流にある鉄でできた橋を渡る。橋の手前に鎖が通せん坊していたが、その近くに入山届の箱もあり、歩いてなら構わないのだろうと判断した。谷を入ってしばらく行くと、やはり単独行らしい登山者の新しい足跡が雪の上に続いていた。それにしても、登山者届の箱の設置場所も不可解だったが、谷の行き着く先は仙丈の胸壁が待っているだけのはず、どういう登山者が、どこへ行こうとしたのかと気になった。
谷の中の林道は数センチ程度の積雪でもしっかりとした轍の跡があり、車の通行は頻繁にあるようだった。そう思っていたら後方から2台、森林組合と書いた車が追い抜いていった。今でも谷の奥では間伐作業が行われているのだろう。
水流はそれほどでもなかったが、巨岩がゴロゴロして流れを複雑にし、その淀みはかなり深いところでも水底がよく見えた。釣り人であれば思わず、棹を入れたくなるような渓相が曲がりくねって上流へと続き、狭い谷の奥には、真っ白い仙丈の頂きが青い空の一画を占めていた。
対岸の迫ってくるような急峻な斜面の上部は、治山工事の跡が山肌を荒々しく削り、林道らしきが山腹を横切っていたが、まさかそれが南アルプススーパー林道だったとは、その時は思いもよらなかった。(つづく)
<以上は2月8日の記。昨日はたくさんのアクセスを頂きながら、失礼してしまいました。>
写真は戸台川からの東駒ヶ岳。岩の上に置いて撮ってみたが、iPhonではやはりこんなもの。