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3月21日、午前7時半気温0度C。伊那の同時刻の予報は晴れ、気温マイナス1度Cとなっている。此処から眺める空は薄曇りだが、下は晴れているのだろう。
食欲はあまりなく、コーヒーとパンで済ます。これまでのように食べることに熱心ではなくなってしまった。断酒の影響もあるのだろうが、寒い台所で水を用意したり、料理するのが面倒なせいもある。もしかすればこんな自然の中では、腹をすかせていた方がかえって意識も澄んで、納得した時間を過ごすことができるのかも知れない。それに、格別何か食べたいものが思いつかない。
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HALを連れて近くを散策する。木の根の周囲は雪が融けて、よく見ればささやかな春の息吹を覗かせている。小入笠に至る防火帯の向こうの落葉松の林には、サルオガセが目立つようになった。まさかひと冬の間に、このレースのカーテンのような菌類(?)が精力的に育ったとは思えないが、それにしてもいままで意識したことはなかった。何だか森をバックにして、汚れて疲れた幾人かの老優が、佇んでいるようにも見える。
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5か月の休みも遂に1か月を切った。この仕事も、牛の相手と、牧場の管理だけに専念できれば何の不満もない。しかし、そういうわけにいかない。もちろん、キャンプ場や山小屋の利用者のことを言っているのではない。ここには何の用もない人間たちの常識のない振舞い、それと、牧草を食べる鹿に手を焼くのだ。