
牧を閉じ、山を下りる日が来た。7か月の大半をここで暮らし、それでも何から何まで思うようにできたわけではない。まだやり残したことや、気懸りなこともある。それらを考えると去りがたい思いもあるが、しかし何にでも終わりがあると決めて、きょうをもって一応の区切りとすることにした。
これからの5か月の長い巣ごもり、無聊の日々、先細りのこの先を思えば安穏と炬燵の虜囚を気取ってばかりはいられないが、越年も含めてここへはちょくちょく来る。雪の法華道を歩く日もあるだろう。すべてが終わったわけではない、まだ終章には綴られるべき余白が残されている。だから今は、あまり振り返えることなどしないでおく。
6頭が必ずしも納得のいく頭数ではないが、今朝、やっと鹿を捕獲した。罠の仕掛けが作動して、ゲートを吊っていたワイヤーが緩んでいるのも双眼鏡で確認できた。鹿たちも、囚われの身になったことをすでに知ったようで、どこかに脱出できる場所はないかと今は必至で探っている。いや、6頭でなく7頭、待て、9頭いる。
これで、下で捕獲を期待していた人たちには少しだけだが面目が立った。しかし、有害動物駆除の観点からはこの鹿たちを殺めたところで、増え続ける数にどれほどの効果があるというのだろうか。殆どない、と言って間違いないが、それでも雄鹿が3頭ほどいる。いかほどかの繁殖抑制の効果はあるとして、せめてそれをもって良しとするしかないだろう。
いい天気が続く。これだけ冷え込んでも、水道は凍結を免れることができた。牧を閉じるまで台所で水道の利用を試み、できたのは16年の間で初めてのことだった。これから外にある取水場の本管を開ければ、そこから凍結しない水がひと冬の間流れ続け、厳冬期であっても不自由することはない。
昨夜ささやかな一人酒をして、一応のけじめとした。労ってくれたのは、冴えわたる冬空に煌く崇高、気高い数えようもない感動の星々と、静寂だった。
里の暮らしが落ち着くまで4,5日沈黙します。有難うございました。