■群馬高専の電子情報工学科を舞台に発生した陰湿極まるアカデミックハラスメント(アカハラ)事件。この忌まわしい事件に関連する情報公開請求に対して、群馬高専側が存否応答拒否を含む完全不開示決定をしたため、当会は異議申立てを経て1年ほどかかってようやく群馬高専側の存否応答拒否を引っ込めさせました。そこで再度、群馬高専側にアカハラに関する情報開示請求をしたのですが、またもや全面不開示処分とされてしまいました。当会は現在、群馬高専の上級機関である国立高等専門学校機構を被告として、不開示処分取消請求のための行政訴訟を行っています。その第3回口頭弁論が、2017年4月14日(金)11:30に東京地裁5階の522号法廷で開かれました。その時の訴訟指揮に基づき、当会は4月21日付で次の内容の原告準備書面(2)を東京地裁と被告の国立高等専門学校機構=群馬高専に郵送で提出しました。
*****送付書兼受領書*****PDF ⇒ tei2j2017.x.xx.pdf
送付書・受領書
〒104-0061
東京都中央区銀座5丁目7番1号 江島屋ビル7階
被告訴訟代理人
弁護士 木 村 美 隆 殿
平成29年4月21日
〒371-0801
前橋市文京町一丁目15-10
原 告 市民オンブズマン群馬
代表 小川 賢
TEL 027-224-8567 / FAX 027-224-6624
送 付 書
事件の表示 : 御 庁 平成28年(行ウ)第499号
当 事 者 : 原 告 市民オンブズマン群馬
被 告 独立行政法人 国立高等専門学校機構
次回期日 : 平成29年5月26日(金)午後1時45分
下記書類を送付致します。
1 原告準備書面(2) 1通
2 証拠説明書(甲8~13) 1通
3 甲号証(8~13) 各1通
以 上
--------------------切らずにこのままでお送り下さい--------------------
受 領 書
上記書類、本日受領致しました。
平成29年 月 日
被 告 独立行政法人 国立高等専門学校機構
被告訴訟代理人
弁護士
東京地方裁判所民事第3部B2係(佐藤春徳書記官殿)御中 :FAX 03-3580-5706
市民オンブズマン群馬事務局(事務局長 鈴木庸)あて :FAX 027-224-6624
*****原告準備書面(2)*****PDF ⇒ 20170421o2.pdf
事件番号 平成28年(行ウ)第499号 法人文書不開示処分取消請求事件
原告 市民オンブズマン群馬
被告 独立行政法人国立高等専門学校機構
平成29年4月21日
東京地方裁判所民事第3部B2係 御中
原告準備書面(2)
原告 市民オンブズマン群馬
代表 小川 賢
平成29年4月14日の第3回口頭弁論を踏まえて、平成29年4月7日付の被告の準備書面に対する反論を次のとおり陳述する。
第1 被告の「準備書面」の中の「1 法第5条1号ロについて」について
本事案に関わる文書の開示は、アカデミックハラスメントによる被害者の権利・利益保護のために必要であると認められるため、法第5条1号ロによって被告はかかる文書を開示すべきであるという原告の主張に対し、被告は1の(2)および(3)において後述する反論を行った。よって原告はこれに対し以下のとおり、あらためて反論を行う。
1 被告準備書面1の(2)について
被告は「しかし原告の上記指摘は、一般論にすぎず、その内容が当をえているかどうかにも議論の余地があろう。これに対し、本件開示請求にかかる文書が、法5条1号ロの『人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報』が不開示の除外理由に当たるかどうかの判断は、当該情報にかかる個人の権利利益よりも、人の生命、健康、生活又は財産の保護の必要性が上回るかどうか、という比較衡量・・・(中略)・・・となることは、きわめて当然である。ハラスメントに係る事実の有無が、加害者とされる側、被害者とされる側双方にとってプライバシーのなかでも秘匿性の高い情報であること、これに対して、ハラスメントの事実の有無の調査等は人事管理に関する事項として被告ないし群馬高専が対応すべき事柄であり、文書開示と生命等の保護に関連性がないか、きわめて低いことは、上記の具体的な比較衡量にもとづく主張であり、文書を非開示とすることによりハラスメント事案を隠蔽しようとしているとの原告の指摘は、まったく当たらない。」と主張する。
この箇所について、原告は次の通り反論する。
被告は「原告の主張は一般論であり、具体的事柄ではない」ことを理由に法第5条1号ロの適用は受けないと主張する。しかし、原告準備書面(1)に示した通り、ハラスメントの被害者らが被告に対し直訴を行った際の告発文書はすでに被害者側関係者の手により原告に提供されたうえでインターネット上にもアップロードされており、原告はこの告発文書の内容について容易に確認することができる。これらの文書については、具体的な個人情報に関わる箇所を原告により削除したうえで、甲11号証、甲12号証として提出する。これらが作成され、被害者らから被告に提出された経緯は、準備書面(1)の第4にて説明した通りである。
そして当該告発文書上には、全頁にわたって、被害者らがアカデミックハラスメントによって学校に通うことができなくなったり、精神に異常をきたし精神科通いを余儀なくされたり、自殺未遂にすら至っているという状況が生生しく記載されており、これは一般論でも想像でもなく、厳然たる具体的事実である。
また、原告準備書面(1)にて反論した通り、開示請求から1年半が経過してしまったことに対しては被告側が行政手続きにかかる時間を利用して幾度にもわたる時間稼ぎを繰り返した結果であり、仮に被告がそれを意図していなかったとしても、ハラスメント事案からすぐに開示請求を行っている原告側には何ら落ち度は無いうえ、このような状態にまで至った被害者らの精神的な損害は1年半程度で消えて無くなるような性質のものでは決してなく、直ちに回復されなければならない。
これに加えて重要なのは、ハラスメントによって生じた社会的・金銭的なものを含めた損害や逸失利益については、被告から一切の補填が為されておらず、現在も損害が与えられたままになっていることであり、これらも直ちに補償・回復されなければならない。
そもそも、「1年半が経過したから問題は風化している」ということを、ハラスメント事件の発生を許し何の対策も行わず放置した被告が主張すること自体、一切の説得力を持ち得ず、被告のその主張は、時効を待って逃亡生活を続けた犯罪者のそれと何一つ本質的に変わるところはない。人を教え導く機関であるはずの被告ないしは群馬高専から、そのような非倫理的な主張が発せられること自体が極めて異質である、ということをこの際、強く指摘しておかなければならない。
さらに、当然ながら、被告である群馬高専、および被告代理人は開示請求対象文書の内容をすべて把握しているはずであり、熟読したうえでその内容について検討を加えているはずなのであって、その上でなお「被害者の生命・健康や社会的・金銭的利益が脅かされているという原告の主張は一般論である」などという旨の主張をするのは審理に対する著しく不誠実な態度であると言わざるを得ず、明らかに失当である。
2 被告準備書面1の(3)について
被告は「なお、被告および群馬高専では、教職員を懲戒処分にした場合にはその旨の情報を提供することとなっているところ、平成26年4月以降に、群馬高専のハラスメント事案に関して情報提供を実施した事実はない。このことからも、開示請求①から③に係る書面には、懲戒処分となりうるようなハラスメントの事実は記載されていないことが伺われるのであり、同書面には『人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報』は記載されていないことは、この点からも明らかである。」と主張する。
この箇所について、原告は次の通り反論する。
「懲戒処分が行われなかった」から「懲戒処分となり得るようなハラスメントの事実が記載されていない」という被告の主張は、甚だしい論理の飛躍である。処分の決定が被告ないしは群馬高専の恣意的な判断に委ねられる以上、当時加害者と目される人物によって、一般的に懲戒免職に値するような極めて悪質な行為が行われたとしても、懲戒処分が一切行われないという場合の存在も十分に想定され得るのであり、実際にそうであっただけの話である。つまり懲戒処分が行われなかったことをもって、当該ハラスメントが常識的観点に照らして無害であったと結論付けることはできないのである。
そもそも、懲戒処分の有無は当時被告ないし群馬高専が主観的に判断したものであり、他方で「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」かどうかは被告ないし群馬高専の価値観から離れて客観的に評価されなければならないのであって、この二者を同種であるかのように論ずるのは誤謬も甚だしい、と断じてよい。それにも関わらず、被告の主張は「懲戒処分が行われなかったから、人の利益権利を著しく侵害するようなハラスメントの事実はなかった」と言うに等しく、詭弁と断じてよいと言える。したがって、ここで被告が言う主張は、著しく失当であると言わざるを得ない。
さらに、原告が確認できる限りにおいて、ハラスメントの加害教員は著しく倫理に反した非行行為を幾度にもわたって為しただけでなく、違法行為すら行っていると考えられる。
具体例をいくつか抜き出して挙げると、パワーハラスメントによって同僚や学生を精神科通いに追い込み、自殺未遂すら発生させた(甲11号7頁、同11~14頁など)ことは明らかに暴行あるいは傷害罪の構成要件を満たすものである。また、職務に関して知り得た女子学生の住所と言った個人情報を、その女子学生との個人的関係を作るために私的利用した行為(甲12号7頁)は、明らかに独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「保護法」)52条に違反している。(甲第8号証)
これらの違法行為は、親告罪でないものも含まれ、加害教員に懲役や罰金刑といった刑事罰が与えられてしかるべきほどの悪質な行為である。こうした違法行為、および加害教員がなした非常に悪質な非行行為は、人事院が定めた懲戒処分に対するガイドライン(甲第9号証)と照らし合わせても、最低でも停職・減給・戒告処分に相当する。にも関わらず、被告はこうしたガイドラインが義務ではないことを利用し一切の懲戒処分を科さなかった。また、甲11号証10頁からも、加害教員の行為が明白にハラスメントであると客観的に十分認識されうるほど悪質なものだったにも関わらず、被告が一切実効的な対応を取らなかったことがうかがえる。このように具体的事実と照らし合わせても、「懲戒処分がなされていないから加害教員の行為に問題はない」とする被告の主張には何一つとして正当性は認められない。
第2 被告の「準備書面」の中の「2 法第5条1号ハについて」について
被告は、「しかし、開示請求の対象文書が公務員が職務上作成したものであり、その内容が公務員の公務に関連する情報であったとしても、当該情報の内容によっては、『個人に関する情報』に該当することは、前記裁判例のとおりであり(乙4)、この裁判例の判断は独立行政法人の職員が職務上作成した文書についてもそのまま当てはまるものである。開示請求①から③にかかる文書が、個人に関する情報としての不開示情報(法5条1号柱書)が記載されたものであり、被告がこれを理由として不開示決定処分をしたことは前記のとおりである。原告は開示請求①から③にかかる文書が、公務員が職務上作成した文書であることを主張するが、公務員が職務上作成した文書であることと、当該文書に個人に関する情報としての不開示情報が含まれることは両立しうるのであり、原告の主張は失当と言うほかない。」と主張する。
原告はこの項について、4月14日の第3回口頭弁論に基づき、被告からの「公務の遂行に係る情報」についての追加反論を踏まえたうえで、反論することとしたい。ただし、審理の参考として、被告の追加反論を踏まえない状態での反論を二重線処理のうえ以下に示しておく。
公務員あるいはそれに準ずる立場の者が公務中になした行為について、公務員のプライバシーとして不開示が認められるのは、プライバシーの保護の必要性が開示することによる公益上の必要性を上回る場合のみである。被告の提示した乙4号証においても、東京地裁は「したがって、本件条例九条二号本文の定める個人情報が同号ただし書ハに該当するか否かについては、個人のプライバシー保護の必要性と当該情報が記録された公文書を開示する公益上の必要性を比較衡量することによって、これを決すべきものである。」(乙4号証13頁)としている。そして、東京地裁がこの事件に関して当時不開示という判決を下したのは、かかる非違行為を行った者に関する情報を開示することによる明白な公共的利益が認められなかったためである。
しかし本事件の場合、明白な被害者が存在し、事件については一切の実効的解決をみておらず、上述の通り被害者の権利・利益は今も侵害され続けているという点において、水道局職員による談合などとは明らかに性質が異なる。
被告は、「ハラスメントの事実の有無の調査等は人事管理に関する事項として被告ないし群馬高専が対応すべき事柄である」と繰り返し主張している。一次的には被告の言う通り、調査から対応、処分までを被告ないし群馬高専が対応すべきであるかもしれないが、一連の対応は被告ないし群馬高専の良心に委ねられているということを忘れてはならない。
被告ないし群馬高専の良心に任せた結果、明らかに間違った裁定がなされ、特定個人らの人権が蹂躙されているのであり、さらに、「群馬高専と被害者」という二項対立の図式のままでは事態の解決が一切見込めないのであるから、二次的な対応として第三者の目が入れられなければならないことは自明の理である。前述の第1の2に次いで繰り返すが、被害者に関しては重大な精神的苦痛・経済的損害が生じていたし、生じているのであり、これらは直ちに回復されなければならない。
回復されるためには、被告ないし群馬高専がその自浄作用によってかつての対応や処分を再検討せねばならないが、その自浄作用の発動が現時点で認められず、期待されない以上、第三者により問題点が把握され、整理された上で、被害者の同意のもと世間一般に広く事件の問題点が認知され、被告ないし群馬高専に働きかけが行われなければならない。そして、それを行うにあたって、被告の情報開示が必要とされるのである。
さらにハラスメントの加害者は、極めて悪質な非行行為のみならず、重大な違法行為にまで手を染め、さらに一切の処罰を受けていないのであるから、この事件に関してはすでに群馬高専という一機関が対応できる範囲を大きく逸脱しており、場合によってはしかるべき法務機関が対応する必要があるのは明らかである。しかるに被告ないし群馬高専が、事件に関する情報の一切を不開示とし、事件の存在自体を公的に認めないことにより、市民の手による刑事告訴が困難となっているのであるから、隠された犯罪の追及という面でも、開示の公益上の必要性は明らかである。
また、重大な非違行為をなし、しかも何ら処罰を受けなかった人間が教鞭を取り、学生たちを教え導く立場にあるという今の状況自体が、それこそ青少年の育成に極めて有害であると言わざるをえず、この状況を是正することが、公益にかなっているのは言うまでもない。
加えて言えば、被告ないし群馬高専は、そもそも日本全国から来た15歳の少年・少女たちが5年、あるいは7年もの期間、人生を預けることとなる「教育機関」であることを忘れてはならない。その公共性およびそれに要求されるハラスメント事案への厳しさは、公務員である職員しか所属し得ない水道局などとは比較にならないほど異なるのであって、ゆえに決して他の公共機関や行政法人と同列にその性質が語られ得るものではない。
ハラスメントなどの存在を一切外部に見せない上に改善もなく、一方で「綺麗な群馬高専」しか見せずに入学を促すというのは、15歳の中学生たちやその保護者たちをあまりに愚弄しているというほかない。
被告ないしは群馬高専のハラスメント問題が何一つ解決をみておらず、再発防止が一切保証されていないこの状況下では、何も判断の機会が与えられないまま入学した新入生が次なるアカデミックハラスメントの被害に遭う可能性は十二分に想定され得ることである(この「可能性」は、特定人物を対象とするものではないが、「公益性の証明」という点では十分である)。
そのような悲劇が起こらないようにするためにも、最低限ハラスメントの実態が開示され、入学を検討している中学生とその保護者、あるいは進学指導を行う学校関係者・塾関係者の判断材料とされなければならない。この観点からも、開示は公益にかなっているとみることができる。
第3 被告の「準備書面」の中の「2(ママ) 部分開示について」について
1 被告による関係者らに対する開示への意思確認連絡の義務
被告の主張を検討する前に、本事件に関しては、被害者から見た自己に関する情報のコントロール権について論ずる必要がある。プライバシーに関する権利とは、一般的にみだりに自己に関する情報を公開されない権利と捉えられるが、逆の側面から見れば、自己に関する情報の公開を自分で決定する権利でもある。つまり、「公開されない自由」があれば「公開する自由」もあるということであり、この自己情報コントロール権の考え方は、保護法9条2項の1にも反映されている。当該項においては、独立行政法人等は個人情報についてその「本人の同意があるとき、又は本人に提供するとき」において外部に提供ができることになっている。(甲第8号証)原告の求める開示は外部への提供の一種であるから、当然、開示に際して、個人情報の属する本人の同意があれば開示可能であるということになる。
これに関して、原告は準備書面(1)において、不開示処分にプライバシーの属する関係者ら、特に被害者らの意思が反映されているのか甚だ疑問であること、開示に同意ないしは開示を希望する関係者が存在した場合、全面不開示処分は自己に関する情報のコントロール権の侵害であり、プライバシーの属する当人の意思を完全に無視した「プライバシー保護」は詭弁以外の何物でもないことを指摘した。この点は不開示決定処分の妥当性を考えるうえで最重要の論点のひとつであるはずだが、被告は準備書面において一切触れていない。
また、群馬高専にて発生した「寮生連続不審死事件(原告側呼称)」についての情報開示を原告が被告に求めた際は、原告から特段の要求がなくとも被告はプライバシーの属する3遺族に対しそれぞれ開示の意志と範囲を確認する作業を行っていることから、被告は法人文書開示にあたってのプライバシーの帰属者への意思確認義務の重要性を理解しており、それが実行可能であることを理解しているはずである。にも関わらず、本件については意図的にプライバシーの帰属者へのコンタクトの必要性を無視している。
この点を考えれば、被告はまず、開示請求対象となっている文書にプライバシーの記載されている関係者ないしは被害者らに対し、氏名等といった核心的な個人情報を除いた自身に関わる記載について、開示してよいか、どの程度まで開示してよいかを確認する作業を行わなければならない。特に開示の意志を確認しなければならないであろう関係者の数は当会の調べによって確認されている限りでは30~40人に満たず、その全員に対して被告は連絡先を保有しているのだから、ヒアリング調査は全く不可能なことではなく、被告の業務に深刻な影響を与えるものではないと断言できる。
そのうえで、かかる関係者が全員、開示を全面拒否すると発言したのであれば、被告の行った開示請求②対象文書の全面不開示処分にも正当性が認められるかもしれないが、1人でも開示に同意する関係者が存在したのであれば、その人物にかかる箇所は開示されなければならない。不特定多数の、あるいは調査不能なほど膨大な数の対象について調査を行うわけではなく、多く見積もって1学級程度の人数を対象に意思確認を行えばよいのだから、原告の主張は被告に悪魔の証明を強いているわけでも何でもない。
加えて、行政機関個人情報保護法第8条第2項第1号あるいは保護法第9条第2項第1号に規定される本人同意の確認は、本人が当該保有個人情報の利用目的以外の利用・提供の内容について認識することができるよう適切に行われるのであれば口頭で行ってもよいことになっている(甲第13号証)。つまり極端な話、電話連絡のみでも本人の意思確認を行うという目的は達成され得るのであり、それすら意図的になしていない被告の行動は、著しく道義的責任を無視したものと言わざるを得ない。
なお、原告の調べによって、すでにハラスメント被害者である元教員・学生らのうち複数名が、すでに氏名等といった核心的な個人情報を除いた自身に関わる記載についての開示に同意ないしは開示を希望していることが確認されている。なお、この事実については、それこそ「プライバシー」の観点からそれを証明する署名捺印の類を法廷に提出することは不可能であり、したがって原告は具体的に誰が同意しているのかを被告に示すことはできない。しかし開示請求対象となっている文書や関係者の連絡先は当然のことながらことごとく被告が保有し、自由に閲覧できる立場にあるのだから、被害者・関係者への意志の確認義務・証明義務はむしろ被告の側にある。
また、保護法9条2項の1の例外但書として、本人または第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがあると認められる場合が定められている。これについては、どのような場合が「不当な侵害」にあたるのかを考える必要がある。「不当」というのは、この場合、「本人が予期していない、理不尽な事象であること」を指すと解してよい。しかし、本人が自身に関する情報の提供に同意した時点で、そのリスクについても承知している、と考えるのが妥当である。つまり、被害者らあるいは関係者らがすでに全員成年であり、自己に関する健全な判断力はすでに備わっていると見做される以上、その判断は行為の意味と生じ得る結果を理解したうえでなされたものとして尊重されなければならない。もし妥当でないにしても、意思確認連絡の際に、想定され得るリスクに関する説明を挟めばそれでよいのであるから、いずれにせよ、プライバシーの帰属者に対する「不当な」権利侵害は回避され得ると考えてよい。またこのことから、当該但書は2項の1よりは2~4を主眼に置いたものであると解される。
一方で、第三者に対しても、この場合特定の第三者に具体的な被害が生じる場合を想定していると解するのが妥当である(例えば、日本のどこかに居住する市井の個人であり第三者が、偶然開示情報を見て不愉快な気分になる、という可能性も完全に否定され得るものではないが、そのような場合についてまで考慮するのは明らかに無意味である)。そして本件開示請求対象文書について見ると、後述の通り、プライバシーが帰属し、開示に同意する当人以外の関係者を特定不能にする形で情報を明らかにするのであれば特定個人に具体的損害は起こりえないこと、また百歩譲って特定の第三者の利益が具体的な形で侵害されるとしても、それはプライバシーの属する本人あるいは公共の利益と比較衡量されるべきであることを考えれば、やはりこの但書によって被害者らの自己情報コントロール権は制限され得ないのである。
ここで、当事件との比較対象となる事例として、長崎地裁平成18年2月21日(公文書不開示処分取消請求事件)の判例がある(甲第10号証)。この事件における原告A(第三者のNPO法人)は、この事件における被告のB高等専門学校に対し、学内でのセクシュアルハラスメントに関する内部調査報告の開示を求めた。しかしここで長崎地裁は原告Aの請求を棄却した。この判断のポイントとなったのは「1、原告Aの行動はセクシュアルハラスメント被害者の了解を得ておらず、この事件の被害学生Cは原告Aの行動や報道を不快に感じており、開示を望んでいない旨を被告Bが聴取済みであったこと」および「2、個人情報審査会により、当該文書に記載された情報は『全体として』権利利益侵害情報であって,不開示とすることが相当であり、部分開示を行うことができないという答申書が発行済みであったこと」の2点である。長崎地裁は、記載内容から被害者Cを特定可能であることから、個人利益侵害情報にあたると認定して法第7条に関わる請求を退け、続いて審査会答申書と被害学生Cのプライバシーの観点から法第6条に関わる請求を退けた。この判例で重要なのは、あくまで被害学生Cの意志と権利を尊重し、全面不開示としている点である。つまり、情報を開示すること自体がプライバシーの帰属する当人の了解を得ておらず、不快の念を生じさせその利益を侵害させる可能性があるからこそ、長崎地裁は比較衡量の上でこの判決を下したのであり、これができたのは、被告Bが被害学生Cの意志を確認し、それが開示を一切望まないものだと聴取するというプロセスをしっかりと経たからである。また、この判例において、長崎地裁は、行政法人の職員である加害者に関わる情報開示の可能性については認めているものの、あくまで開示を拒否する被害者とのプライバシーの兼ね合いを考慮し不開示が妥当としているのであって、公務員あるいはそれに準ずる立場の者である加害者のプライバシー保護はこの判決に一切影響を与えていないことも特筆すべき点である。
翻って当事件に関する状況を見れば、原告が確認している限り、被告は本準備書面提出日に至るまで被害者や関係者に対し何ら確認の連絡を取っていない上、開示に同意する関係者の存在までもが確認されており、全面不開示処分は著しく不合理であると言わざるを得ない。不開示が認められた類似事例においてですら、被告Bはプライバシーの帰属者への意思確認という極めて当たり前の道義的責任を果たしているのであって、当然本事件の場合もこれは被告の義務であると解されることができ、被告はただちにこれを行うべきである。加えて言えば、本件対象文書に関しては、個人情報審査会から部分開示を行うことができないという答申書が発行されてもいない。
2 被告準備書面2の(2)について
(1)開示請求②に係る文書についての全面不開示処分の妥当性の検討
被告は、「しかし、開示請求②にかかる文書は、申告者が(ママ)、被申告者のハラスメント行為とされる行為の内容やその経緯、申告者の説明する被害内容や、他の当事者に関するハラスメントとされる行為の内容が記載されており、個人に関する情報に関わらない部分の記載はない。」と主張する。
原告は次の通り反論する。
被告の提出した判例(乙4号証)において、公務員あるいはそれに準ずる行政法人の職員がなした非違行為そのものも不開示情報に該当する理由として、東京地裁は「たとえ、その職員の氏名、住所等を秘密にしたとしても、開示された情報内容そのものから、あるいは右情報内容と水道局の組織規定や職員録等の他の情報とを組み合わせることにより、特定の個人が識別される可能性があるのであるから、原告が本件開示請求により求めた情報であると主張する右の情報は、本件条例九条二号本文の定める個人情報に該当するものというべきであり、被告としてはこれを開示しないことができるものである。」(乙4号証16頁)と説明している。
つまり、行為についての記載そのもの、あるいは行為についての記載と当該機関が発行した他の公的書類を組み合わせて特定個人を識別可能である場合に、行為についての記載は個人識別情報と見做され得るのである。
しかし、原告が開示請求②に係る文書を確認する限りでは、記載されている行為自体は被告ないしは群馬高専のどこでも起こりうる、またどの教員も起こしうるものであると解される。つまり、「研究室に監禁し、長時間にわたる罵倒を行った」「指導学生に対し、人格否定を行った」「同僚に対して脅迫・強要をなした」といった情報が記載されていたと仮定して、それは被告ないしは群馬高専の全学科・全教員に当てはまり得る事柄である。つまり、加害教員に関してその氏名と役職、加害教員と被害者に関してその所属学科を墨塗りした場合、行為者についてはすでに特定個人として識別不能であるということを指摘しなければならない。このことは、原告が自ら個人情報に関する墨塗り処理を行っている甲11号、甲12号証を見ても明らかである。
もちろん、開示請求②に関わる文書の中には、特定人物でなければあり得ないような特徴・行為についての記述がある可能性もあるが(例えば、特定学科や特定人物しか参加・関与し得ない事柄に関連してハラスメントが起こった場合など)、それらについては、該当記述箇所ごとに個別に判定され、特定を防ぐ範囲で最小限削除されればそれでよいのであり、一概に個人識別情報であるとする被告の主張は失当であると言わざるを得ない。
また、ハラスメント行為の具体的内容については、それを受けた被害者側にとってもプライバシーであると認定される可能性もあるが、上述の通り、プライバシーであるならば被害者の自己情報コントロール権の下に置かれるという解釈が妥当であるから、当然、被告は被害者に対し該当箇所の開示への同意の意志を確認し、かかる人物が開示を全面的に拒否した場合にのみ、不開示とすることが妥当であると解される。よって、被害者の意志を一切確認せずに、帰属者とその意志から切り離された「プライバシー」を振りかざし全面不開示とする被告の行為は明らかに失当である。
さらに、告発文書は、被告の陳述する通り、基本的に「加害教員がなした行為」と「被害者の被害状況」が記載されているが、特に、被害者の被害状況は別個に章立てされている箇所もあり、その箇所においては加害教員の具体的な行為については言及されていない。
すなわち、百歩譲って加害教員がなした行為を開示することが加害教員の個人利益を害するがゆえに不開示情報にあたるとして、それでもなお、氏名・生年月日等の核心的な個人情報を除いた被害者の被害状況を記した箇所については、加害者のプライバシーの及ばぬ範囲であると認定され、かかる人物の同意あるいは希望がある場合には開示されなければならない。
なお、被害者の被害状況までもが加害教員のプライバシーと見做された場合、例えば個人Aが個人Bを殴り、怪我をした個人Bが病院に行ったという事例があったとして、個人Aが個人Bに「病院に行ったという事実単体でも私個人のプライバシーだから他人には言うな」と命令するようなものであり、このような明らかに不当な事例が正当に成り得てしまう。類似の拡大解釈はいくらでも成り立ち得ることから、これは現代日本の法制に対する重大な挑戦ですらあり、被害者の被害状況単体の開示はあくまで被害者の一存によるものと解されざるをえない。
(2)開示請求③に係る文書についての全面不開示処分についての妥当性の検討
被告は、「開示請求③にかかる文書も、関係者から聴取した結果として、ハラスメントとされる行為の経過や当事者が記載されていることは、上記開示請求②にかかる文書と同様である。開示請求③にかかる文書には、このほか調査に至った経緯や調査担当者、調査方法と調査結果に関する記載があるが、これらにも関係当事者の氏名や具体的な聴取内容が記載されており、個人に関する情報が渾然一体となって記載されているので、不開示情報が記録されている部分を容易に区分することはできない。また、開示請求③に係る文書は、法5条4号へ『人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ』のある情報が記載された文書であり、その記載はいずれも人事管理に関する事項として一体の内容をなすものであるから、記載内容はいずれも人事管理に関する不開示情報に該当すると解すべきである。」と主張する。
原告は次の通り反論する。
そもそも開示請求③にかかるようないわゆる内部調査書類が「公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれのある文書」とされる理由は、乙4号証も踏まえて噛み砕いて言えば「外部に開示しないことを条件の1つとして調査に同意し、情報提供を行った内部の調査協力者にとって、その具体的な提供情報が無断で外部に明らかにされてしまうことは横紙破り以外の何物でもなく、また、このような前例を作りあげてしまうと、以後類似の事件が起こった場合に調査へ協力する人間が減ってしまうことになりかねず、内部調査すなわち人事に支障をきたすことになってしまうから」である。
具体的な提供情報の開示の可否については後で論ずるとして、この事実を踏まえたうえで開示請求②に係る文書の各要素について検証していくと、まず「調査方法」については、対象者の具体的な個人情報を除けば事件の経緯に関する情報の中でも極めて一般的なものであり、開示によって人事に影響をきたすとは解されない。例えば、「何月何日から何月何日まで、教員X名、学生Y名に~といった方法で聞き取りを行った」という情報は、開示により特定個人を識別可能にする情報あるいは特定個人の権利・利益を害する情報とは認められず、また、聞き取り対象者がその開示の可否について主導権を有する性質の情報ではないことは明らかである。
「調査に至った経緯」も、要約すれば「開示請求②にかかる文書が何月何日に被告ないしは群馬高専に提出されたことにより告発がなされたから」という以上の情報ではないと考えられ、該当文書が提出された事実についてはすでに存否応答で明らかにされており、残る該当文書の提出日時については特定個人を識別可能にする情報あるいは特定個人の権利・利益を害する情報、あるいは人事に関わる情報であるとはもちろん認められない。
また、「調査結果」に関しては、具体的な聴取内容のほかに、被告ないしは群馬高専が導き出した結論があるはずであり、その箇所については開示されなければならない。つまり、被告ないし群馬高専は聴取内容という個々の資料を踏まえて、「個々の聴取内容を離れた総合的な判断理由」および「アカデミックハラスメントが存在したかどうかの、存在したとしてどれほど悪質かの判断」をかかる文書に記しているはずであり、これらの箇所については、前項(1)において分析したのと同じく、氏名・所属(つまり学科)・職位等といった情報を伏せれば特定個人を識別可能にする情報あるいは特定個人の権利・利益を害する情報であるとは認められないし、また開示することによって調査協力者との約束が履行されなくなることもないから、人事に関わる情報であるとは解されない。
最後に、具体的な提供情報の開示の可否に関してであるが、この提供情報については、提供者および当該情報により言及される人物にプライバシーが帰属すると解するのが妥当であり、(1)によって説示したことに準じて、まず提供者に開示の意志を確認し、許諾した場合、次いでかかる人物に開示の意志を確認するという2段階の手順を踏めば開示可能であると解されるから、関係者の意志を一切確認していない現段階では、被告はその開示の可否を断言する立場にはないはずである。
さらに言えば、準備書面(1)において示した通り、開示請求②にかかる文書は平成26年12月下旬と平成27年2月下旬に、2か月の間隔をあけて被害者側から被告に提出されている。一方で、開示請求③にかかる文書は1通しかないのであるから、これは暗に、被告がどちらかの告発に対しては調査すら行わなかったということを示唆している。この意味では、開示請求③にかかる文書は、たとえその作成日時や調査の実行期間だけでもハラスメントに関する被告ないしは群馬高専の対応を推し量ることができるのであり、原告にとっては重要な情報のひとつである。
また、調査担当者に関わる個人情報の開示については原告の開示請求の趣旨にないため、その不開示の妥当性の検討は割愛する。
(3)開示請求①に係る文書についての全面不開示処分についての妥当性の検討
被告は、「他方、開示請求①にかかる文書には、ハラスメントの加害者及び被害者とされる者の属性(所属)や、群馬高専において行った調査の機関及び概要と、学校としての対象者への対応状況が明記されているが、他に一般論として、学校としてのハラスメントに対する対応方針が記載された部分もある。後者については、個人に関する情報に関わらないものと解されるものの、『アカデミックハラスメント事件の存在及び経緯に関する情報』に関する情報公開という、原告の開示請求の趣旨からすれば、上記の後者の部分のみの開示で有意性(法6条1項但書)があるか疑問であるが、念のため不開示情報に該当する部分を抹消して、書証として提出する(乙5の1から3)。」と主張する。
原告はこの項について、4月14日の第3回口頭弁論で裁判所によって留保となった被告の「予備的に請求の却下を求める」として部分に関連して、被告からの「予備的に請求の却下を求める」との主張を援用する追加説明を踏まえたうえで、反論することとしたい。ただし、審理の参考として、追加説明を踏まえない状態での反論を二重線処理のうえ以下に示しておく。
被告は開示請求①に係る文書の内容を分析したうえで、不開示情報となるべき情報とそうでない情報を恣意的に区分し、さらに書証として提出することでその分類を既成事実としようとしている。しかし、まず、「群馬高専において行った調査の期間及び概要」が特定個人のプライバシーに関わるとは解されないのは明らかである。そもそも、アカデミックハラスメントないしはそうと見做され得る行為が被告ないしは群馬高専内にて行われ、それに対しての何らかの告発がなされたという事実はすでに存否応答から公的に明らかであり、何らかの調査が行われたという事実の存在も当然そこから判明し得るものであり、実際に被告ないしは群馬高専が「調査」と認識している行為が行われた事実自体は存否応答より公的に明らかである。そして具体的な聞き取り内容、聞き取り対象者の具体的氏名や所属はともかく、まず調査がいつからいつまで行われたかという情報は誰のプライバシーでもないし、さらに調査の概要についても、教員・学生何名に聞き取りを行ったか、どのような手法で聞き取りを行ったかという情報は本事件に対する極めて一般的な話であり、特定個人のプライバシーであるとは到底解されない。
さらに、「学校としての対象者への対応状況」についても同様に不開示情報とは解されない。「対象者」が加害教員と被害者のどちらを指しているのか、あるいは両方を指しているのかについては判然としないため、以下両方の場合について検討を加えることとする。
まず、加害教員への対応についてであるが、被告自身が説明した通り、これまでに懲戒処分は一切行われていないことから、かかる文書には人事にかかる重要情報は特に記載などされていないことになる。とすればそれ以外の非公式な形で対応がなされたことになるが、その対応の内容自体から特定の個人を識別することなど不可能であり、そもそも対応の内容自体が被告ないしは群馬高専に通う学生およびその保護者にはすでに認知されているのだから、その対応の内容を開示したところで、かかる人物に特段の不利益が生じるとは認められない。
また、被害者についての対応についても、例えば「被害者らに学生相談室を用いたメンタルケアを行った」程度の内容であれば、本事件について行われた学校の対応の中でも極めて一般的な話をしているに過ぎず、開示することにより特定個人を識別可能にしたり、あるいは特定個人に特段の不利益が生じる性質の情報であるとは解されない。あるいは、特定人物に対し特別な対応が行われ、それが開示請求①対象文書に記載されているのであれば話は別であるのかもしれないが、原告が認知している限りでは、準備書面(1)に示した通り特定個人のプライバシーと見做され得るほどの特別な対応が行われたという事実はないし、ましてそのことが保護者に通知されたという事実もない。
このように、被告が一方的かつ恣意的に行った開示請求①対象文書についての分析は明らかに当を得ておらず、したがって被告の「この乙5号証の1から3により、原告が開示請求①について部分開示を請求する点については、原告は訴えの利益を喪失すると考えられるので、原告の訴状、請求の趣旨1項①に関して、予備的に請求の却下を求める。」という主張は失当であるというほかない。
また、原告の請求の趣旨は原告が提出した訴状あるいは準備書面(1)によって示されたものであり、甲1に示す情報公開請求によってはもちろん原告の請求の趣旨は示されていないわけだから、つまりそもそもの全面不開示処分に原告の請求の趣旨は加味されていないのであり、そこに今回被告が自ら乙5号証1から3を提出したことで、少なくとも情報公開請求に対し「全面」不開示が妥当であるとした被告の判断は失当であったことがすでに被告自らの手によって証明されたのである。一方で、原告は第一に全面不開示処分自体が不服であるとしていたのだから、この時点で原告がその訴えを提起したことに対して全面的に被告に対して責任を負わなければならない可能性は無くなったのであり、よって原告が被告の訴訟費用を負担せねばならない理由はすでに無くなっているとみることができる。よって、被告の答弁書における「請求の趣旨に対する答弁」の2について、却下を求める。
以上
*****証拠説明書*****PDF ⇒ ib813jq.pdf
事件番号 平成28年(行ウ)第499号 法人文書不開示処分取消請求事件
原告 市民オンブズマン群馬
被告 独立行政法人国立高等専門学校機構
平成29年4月21日
東京地方裁判所民事第3部B2係 御中
証 拠 説 明 書(甲8~13)
原告 市民オンブズマン群馬
代表 小 川 賢 ㊞
●号証:甲8
○標目:独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(抜粋)
○原本・写しの別:写し
○作成年月日:平成28年5月27日
○作成者:国
○立証趣旨:開示の可否は被害者本人の同意の有無の確認が前提であること(第9条)。
●号証:甲9
○標目:義務違反防止ハンドブック―服務規律の保持のために―(抜粋)
○現本・写しの別:写し
○作成年月日:平成29年3月
○作成者:国(人事院)
○立証趣旨:職場内秩序を乱す行為として、他の者に不適切な言動等を行ったり、セクハラやパワハラなどを行ったりした場合に与えられる懲戒処分について詳説しているもの。
●号証:甲10
○標目:公文書不開示処分取消請求事件の判決文
○原本:写しの別:写し
○作成年月日:平成18年2月21日
○作成者:長崎地方裁判所民事部
○立証趣旨:同種の事件で不開示が認められた判例においては、被害者の開示に対する同意の有無が最大の判決理由になっており、被告が被害者へ開示に対する意思の確認連絡を行う必要性を示すもの。
●号証:甲11
○標目:ハラスメントに関する申立書
○原本・写しの別:写し
○作成年月日:平成26年12月24日
○作成者:被害職員
○立証趣旨:原告が入手した告発文書のひとつで、加害教師からハラスメントを受けた職員が、群馬高専の校長ら幹部及び担当部署にあてた申立書。加害教員が懲戒処分に相当する行為を行っていた事実関係、および被告がハラスメント事案に実効的な対応を一切取らなかった事実関係を示すもの。
●号証:甲12
○標目:人権・被害救済の申し立て
○原本・写しの別:写し
○作成年月日:平成27年2月25日
○作成者:被害学生一同
○立証趣旨:原告が入手した告発文書のひとつで、加害教員からハラスメントを受けた学生らが校長あてに勇気を奮って提出した申し立て文書。加害教師が大勢の学生に対して懲戒処分に相当する行為を行っていた事実関係を示すもの。
●号証:甲13
○標目:個人情報の適正な取扱いに関するQ&A
○原本・写しの別:写し
○作成年月日:平成29年4月12日以前
○作成者:総務省
○立証趣旨:行政機関個人情報保護法第8条第2項第1号あるいは独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律第9条第2項第1号に規定される本人同意の確認は、本人が当該保有個人情報の利用目的以外の利用・提供の内容について認識することができるよう適切に行われるのであれば口頭で行ってもよいことを示すもの。
以上
*****甲8*****
PDF ⇒ b8llij.pdf
*****甲9*****
PDF ⇒ b9hnhubnijrev1.pdf
*****甲10*****
PDF ⇒ b10.pdf
*****甲11*****
PDF ⇒ b111.pdf
b112.pdf
*****甲12*****
PDF ⇒ b121.pdf
b122.pdf
*****甲13*****
PDF ⇒ b13lk.pdf
**********
■注目の第4回口頭弁論は平成29年5月26日(金)午後1時45分に東京地裁5階第522号法廷で開かれます。
【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】
*****送付書兼受領書*****PDF ⇒ tei2j2017.x.xx.pdf
送付書・受領書
〒104-0061
東京都中央区銀座5丁目7番1号 江島屋ビル7階
被告訴訟代理人
弁護士 木 村 美 隆 殿
平成29年4月21日
〒371-0801
前橋市文京町一丁目15-10
原 告 市民オンブズマン群馬
代表 小川 賢
TEL 027-224-8567 / FAX 027-224-6624
送 付 書
事件の表示 : 御 庁 平成28年(行ウ)第499号
当 事 者 : 原 告 市民オンブズマン群馬
被 告 独立行政法人 国立高等専門学校機構
次回期日 : 平成29年5月26日(金)午後1時45分
下記書類を送付致します。
1 原告準備書面(2) 1通
2 証拠説明書(甲8~13) 1通
3 甲号証(8~13) 各1通
以 上
--------------------切らずにこのままでお送り下さい--------------------
受 領 書
上記書類、本日受領致しました。
平成29年 月 日
被 告 独立行政法人 国立高等専門学校機構
被告訴訟代理人
弁護士
東京地方裁判所民事第3部B2係(佐藤春徳書記官殿)御中 :FAX 03-3580-5706
市民オンブズマン群馬事務局(事務局長 鈴木庸)あて :FAX 027-224-6624
*****原告準備書面(2)*****PDF ⇒ 20170421o2.pdf
事件番号 平成28年(行ウ)第499号 法人文書不開示処分取消請求事件
原告 市民オンブズマン群馬
被告 独立行政法人国立高等専門学校機構
平成29年4月21日
東京地方裁判所民事第3部B2係 御中
原告準備書面(2)
原告 市民オンブズマン群馬
代表 小川 賢
平成29年4月14日の第3回口頭弁論を踏まえて、平成29年4月7日付の被告の準備書面に対する反論を次のとおり陳述する。
第1 被告の「準備書面」の中の「1 法第5条1号ロについて」について
本事案に関わる文書の開示は、アカデミックハラスメントによる被害者の権利・利益保護のために必要であると認められるため、法第5条1号ロによって被告はかかる文書を開示すべきであるという原告の主張に対し、被告は1の(2)および(3)において後述する反論を行った。よって原告はこれに対し以下のとおり、あらためて反論を行う。
1 被告準備書面1の(2)について
被告は「しかし原告の上記指摘は、一般論にすぎず、その内容が当をえているかどうかにも議論の余地があろう。これに対し、本件開示請求にかかる文書が、法5条1号ロの『人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報』が不開示の除外理由に当たるかどうかの判断は、当該情報にかかる個人の権利利益よりも、人の生命、健康、生活又は財産の保護の必要性が上回るかどうか、という比較衡量・・・(中略)・・・となることは、きわめて当然である。ハラスメントに係る事実の有無が、加害者とされる側、被害者とされる側双方にとってプライバシーのなかでも秘匿性の高い情報であること、これに対して、ハラスメントの事実の有無の調査等は人事管理に関する事項として被告ないし群馬高専が対応すべき事柄であり、文書開示と生命等の保護に関連性がないか、きわめて低いことは、上記の具体的な比較衡量にもとづく主張であり、文書を非開示とすることによりハラスメント事案を隠蔽しようとしているとの原告の指摘は、まったく当たらない。」と主張する。
この箇所について、原告は次の通り反論する。
被告は「原告の主張は一般論であり、具体的事柄ではない」ことを理由に法第5条1号ロの適用は受けないと主張する。しかし、原告準備書面(1)に示した通り、ハラスメントの被害者らが被告に対し直訴を行った際の告発文書はすでに被害者側関係者の手により原告に提供されたうえでインターネット上にもアップロードされており、原告はこの告発文書の内容について容易に確認することができる。これらの文書については、具体的な個人情報に関わる箇所を原告により削除したうえで、甲11号証、甲12号証として提出する。これらが作成され、被害者らから被告に提出された経緯は、準備書面(1)の第4にて説明した通りである。
そして当該告発文書上には、全頁にわたって、被害者らがアカデミックハラスメントによって学校に通うことができなくなったり、精神に異常をきたし精神科通いを余儀なくされたり、自殺未遂にすら至っているという状況が生生しく記載されており、これは一般論でも想像でもなく、厳然たる具体的事実である。
また、原告準備書面(1)にて反論した通り、開示請求から1年半が経過してしまったことに対しては被告側が行政手続きにかかる時間を利用して幾度にもわたる時間稼ぎを繰り返した結果であり、仮に被告がそれを意図していなかったとしても、ハラスメント事案からすぐに開示請求を行っている原告側には何ら落ち度は無いうえ、このような状態にまで至った被害者らの精神的な損害は1年半程度で消えて無くなるような性質のものでは決してなく、直ちに回復されなければならない。
これに加えて重要なのは、ハラスメントによって生じた社会的・金銭的なものを含めた損害や逸失利益については、被告から一切の補填が為されておらず、現在も損害が与えられたままになっていることであり、これらも直ちに補償・回復されなければならない。
そもそも、「1年半が経過したから問題は風化している」ということを、ハラスメント事件の発生を許し何の対策も行わず放置した被告が主張すること自体、一切の説得力を持ち得ず、被告のその主張は、時効を待って逃亡生活を続けた犯罪者のそれと何一つ本質的に変わるところはない。人を教え導く機関であるはずの被告ないしは群馬高専から、そのような非倫理的な主張が発せられること自体が極めて異質である、ということをこの際、強く指摘しておかなければならない。
さらに、当然ながら、被告である群馬高専、および被告代理人は開示請求対象文書の内容をすべて把握しているはずであり、熟読したうえでその内容について検討を加えているはずなのであって、その上でなお「被害者の生命・健康や社会的・金銭的利益が脅かされているという原告の主張は一般論である」などという旨の主張をするのは審理に対する著しく不誠実な態度であると言わざるを得ず、明らかに失当である。
2 被告準備書面1の(3)について
被告は「なお、被告および群馬高専では、教職員を懲戒処分にした場合にはその旨の情報を提供することとなっているところ、平成26年4月以降に、群馬高専のハラスメント事案に関して情報提供を実施した事実はない。このことからも、開示請求①から③に係る書面には、懲戒処分となりうるようなハラスメントの事実は記載されていないことが伺われるのであり、同書面には『人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報』は記載されていないことは、この点からも明らかである。」と主張する。
この箇所について、原告は次の通り反論する。
「懲戒処分が行われなかった」から「懲戒処分となり得るようなハラスメントの事実が記載されていない」という被告の主張は、甚だしい論理の飛躍である。処分の決定が被告ないしは群馬高専の恣意的な判断に委ねられる以上、当時加害者と目される人物によって、一般的に懲戒免職に値するような極めて悪質な行為が行われたとしても、懲戒処分が一切行われないという場合の存在も十分に想定され得るのであり、実際にそうであっただけの話である。つまり懲戒処分が行われなかったことをもって、当該ハラスメントが常識的観点に照らして無害であったと結論付けることはできないのである。
そもそも、懲戒処分の有無は当時被告ないし群馬高専が主観的に判断したものであり、他方で「人の生命、健康、生活又は財産を保護するため、公にすることが必要であると認められる情報」かどうかは被告ないし群馬高専の価値観から離れて客観的に評価されなければならないのであって、この二者を同種であるかのように論ずるのは誤謬も甚だしい、と断じてよい。それにも関わらず、被告の主張は「懲戒処分が行われなかったから、人の利益権利を著しく侵害するようなハラスメントの事実はなかった」と言うに等しく、詭弁と断じてよいと言える。したがって、ここで被告が言う主張は、著しく失当であると言わざるを得ない。
さらに、原告が確認できる限りにおいて、ハラスメントの加害教員は著しく倫理に反した非行行為を幾度にもわたって為しただけでなく、違法行為すら行っていると考えられる。
具体例をいくつか抜き出して挙げると、パワーハラスメントによって同僚や学生を精神科通いに追い込み、自殺未遂すら発生させた(甲11号7頁、同11~14頁など)ことは明らかに暴行あるいは傷害罪の構成要件を満たすものである。また、職務に関して知り得た女子学生の住所と言った個人情報を、その女子学生との個人的関係を作るために私的利用した行為(甲12号7頁)は、明らかに独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「保護法」)52条に違反している。(甲第8号証)
これらの違法行為は、親告罪でないものも含まれ、加害教員に懲役や罰金刑といった刑事罰が与えられてしかるべきほどの悪質な行為である。こうした違法行為、および加害教員がなした非常に悪質な非行行為は、人事院が定めた懲戒処分に対するガイドライン(甲第9号証)と照らし合わせても、最低でも停職・減給・戒告処分に相当する。にも関わらず、被告はこうしたガイドラインが義務ではないことを利用し一切の懲戒処分を科さなかった。また、甲11号証10頁からも、加害教員の行為が明白にハラスメントであると客観的に十分認識されうるほど悪質なものだったにも関わらず、被告が一切実効的な対応を取らなかったことがうかがえる。このように具体的事実と照らし合わせても、「懲戒処分がなされていないから加害教員の行為に問題はない」とする被告の主張には何一つとして正当性は認められない。
第2 被告の「準備書面」の中の「2 法第5条1号ハについて」について
被告は、「しかし、開示請求の対象文書が公務員が職務上作成したものであり、その内容が公務員の公務に関連する情報であったとしても、当該情報の内容によっては、『個人に関する情報』に該当することは、前記裁判例のとおりであり(乙4)、この裁判例の判断は独立行政法人の職員が職務上作成した文書についてもそのまま当てはまるものである。開示請求①から③にかかる文書が、個人に関する情報としての不開示情報(法5条1号柱書)が記載されたものであり、被告がこれを理由として不開示決定処分をしたことは前記のとおりである。原告は開示請求①から③にかかる文書が、公務員が職務上作成した文書であることを主張するが、公務員が職務上作成した文書であることと、当該文書に個人に関する情報としての不開示情報が含まれることは両立しうるのであり、原告の主張は失当と言うほかない。」と主張する。
原告はこの項について、4月14日の第3回口頭弁論に基づき、被告からの「公務の遂行に係る情報」についての追加反論を踏まえたうえで、反論することとしたい。ただし、審理の参考として、被告の追加反論を踏まえない状態での反論を二重線処理のうえ以下に示しておく。
公務員あるいはそれに準ずる立場の者が公務中になした行為について、公務員のプライバシーとして不開示が認められるのは、プライバシーの保護の必要性が開示することによる公益上の必要性を上回る場合のみである。被告の提示した乙4号証においても、東京地裁は「したがって、本件条例九条二号本文の定める個人情報が同号ただし書ハに該当するか否かについては、個人のプライバシー保護の必要性と当該情報が記録された公文書を開示する公益上の必要性を比較衡量することによって、これを決すべきものである。」(乙4号証13頁)としている。そして、東京地裁がこの事件に関して当時不開示という判決を下したのは、かかる非違行為を行った者に関する情報を開示することによる明白な公共的利益が認められなかったためである。
しかし本事件の場合、明白な被害者が存在し、事件については一切の実効的解決をみておらず、上述の通り被害者の権利・利益は今も侵害され続けているという点において、水道局職員による談合などとは明らかに性質が異なる。
被告は、「ハラスメントの事実の有無の調査等は人事管理に関する事項として被告ないし群馬高専が対応すべき事柄である」と繰り返し主張している。一次的には被告の言う通り、調査から対応、処分までを被告ないし群馬高専が対応すべきであるかもしれないが、一連の対応は被告ないし群馬高専の良心に委ねられているということを忘れてはならない。
被告ないし群馬高専の良心に任せた結果、明らかに間違った裁定がなされ、特定個人らの人権が蹂躙されているのであり、さらに、「群馬高専と被害者」という二項対立の図式のままでは事態の解決が一切見込めないのであるから、二次的な対応として第三者の目が入れられなければならないことは自明の理である。前述の第1の2に次いで繰り返すが、被害者に関しては重大な精神的苦痛・経済的損害が生じていたし、生じているのであり、これらは直ちに回復されなければならない。
回復されるためには、被告ないし群馬高専がその自浄作用によってかつての対応や処分を再検討せねばならないが、その自浄作用の発動が現時点で認められず、期待されない以上、第三者により問題点が把握され、整理された上で、被害者の同意のもと世間一般に広く事件の問題点が認知され、被告ないし群馬高専に働きかけが行われなければならない。そして、それを行うにあたって、被告の情報開示が必要とされるのである。
さらにハラスメントの加害者は、極めて悪質な非行行為のみならず、重大な違法行為にまで手を染め、さらに一切の処罰を受けていないのであるから、この事件に関してはすでに群馬高専という一機関が対応できる範囲を大きく逸脱しており、場合によってはしかるべき法務機関が対応する必要があるのは明らかである。しかるに被告ないし群馬高専が、事件に関する情報の一切を不開示とし、事件の存在自体を公的に認めないことにより、市民の手による刑事告訴が困難となっているのであるから、隠された犯罪の追及という面でも、開示の公益上の必要性は明らかである。
また、重大な非違行為をなし、しかも何ら処罰を受けなかった人間が教鞭を取り、学生たちを教え導く立場にあるという今の状況自体が、それこそ青少年の育成に極めて有害であると言わざるをえず、この状況を是正することが、公益にかなっているのは言うまでもない。
加えて言えば、被告ないし群馬高専は、そもそも日本全国から来た15歳の少年・少女たちが5年、あるいは7年もの期間、人生を預けることとなる「教育機関」であることを忘れてはならない。その公共性およびそれに要求されるハラスメント事案への厳しさは、公務員である職員しか所属し得ない水道局などとは比較にならないほど異なるのであって、ゆえに決して他の公共機関や行政法人と同列にその性質が語られ得るものではない。
ハラスメントなどの存在を一切外部に見せない上に改善もなく、一方で「綺麗な群馬高専」しか見せずに入学を促すというのは、15歳の中学生たちやその保護者たちをあまりに愚弄しているというほかない。
被告ないしは群馬高専のハラスメント問題が何一つ解決をみておらず、再発防止が一切保証されていないこの状況下では、何も判断の機会が与えられないまま入学した新入生が次なるアカデミックハラスメントの被害に遭う可能性は十二分に想定され得ることである(この「可能性」は、特定人物を対象とするものではないが、「公益性の証明」という点では十分である)。
そのような悲劇が起こらないようにするためにも、最低限ハラスメントの実態が開示され、入学を検討している中学生とその保護者、あるいは進学指導を行う学校関係者・塾関係者の判断材料とされなければならない。この観点からも、開示は公益にかなっているとみることができる。
第3 被告の「準備書面」の中の「2(ママ) 部分開示について」について
1 被告による関係者らに対する開示への意思確認連絡の義務
被告の主張を検討する前に、本事件に関しては、被害者から見た自己に関する情報のコントロール権について論ずる必要がある。プライバシーに関する権利とは、一般的にみだりに自己に関する情報を公開されない権利と捉えられるが、逆の側面から見れば、自己に関する情報の公開を自分で決定する権利でもある。つまり、「公開されない自由」があれば「公開する自由」もあるということであり、この自己情報コントロール権の考え方は、保護法9条2項の1にも反映されている。当該項においては、独立行政法人等は個人情報についてその「本人の同意があるとき、又は本人に提供するとき」において外部に提供ができることになっている。(甲第8号証)原告の求める開示は外部への提供の一種であるから、当然、開示に際して、個人情報の属する本人の同意があれば開示可能であるということになる。
これに関して、原告は準備書面(1)において、不開示処分にプライバシーの属する関係者ら、特に被害者らの意思が反映されているのか甚だ疑問であること、開示に同意ないしは開示を希望する関係者が存在した場合、全面不開示処分は自己に関する情報のコントロール権の侵害であり、プライバシーの属する当人の意思を完全に無視した「プライバシー保護」は詭弁以外の何物でもないことを指摘した。この点は不開示決定処分の妥当性を考えるうえで最重要の論点のひとつであるはずだが、被告は準備書面において一切触れていない。
また、群馬高専にて発生した「寮生連続不審死事件(原告側呼称)」についての情報開示を原告が被告に求めた際は、原告から特段の要求がなくとも被告はプライバシーの属する3遺族に対しそれぞれ開示の意志と範囲を確認する作業を行っていることから、被告は法人文書開示にあたってのプライバシーの帰属者への意思確認義務の重要性を理解しており、それが実行可能であることを理解しているはずである。にも関わらず、本件については意図的にプライバシーの帰属者へのコンタクトの必要性を無視している。
この点を考えれば、被告はまず、開示請求対象となっている文書にプライバシーの記載されている関係者ないしは被害者らに対し、氏名等といった核心的な個人情報を除いた自身に関わる記載について、開示してよいか、どの程度まで開示してよいかを確認する作業を行わなければならない。特に開示の意志を確認しなければならないであろう関係者の数は当会の調べによって確認されている限りでは30~40人に満たず、その全員に対して被告は連絡先を保有しているのだから、ヒアリング調査は全く不可能なことではなく、被告の業務に深刻な影響を与えるものではないと断言できる。
そのうえで、かかる関係者が全員、開示を全面拒否すると発言したのであれば、被告の行った開示請求②対象文書の全面不開示処分にも正当性が認められるかもしれないが、1人でも開示に同意する関係者が存在したのであれば、その人物にかかる箇所は開示されなければならない。不特定多数の、あるいは調査不能なほど膨大な数の対象について調査を行うわけではなく、多く見積もって1学級程度の人数を対象に意思確認を行えばよいのだから、原告の主張は被告に悪魔の証明を強いているわけでも何でもない。
加えて、行政機関個人情報保護法第8条第2項第1号あるいは保護法第9条第2項第1号に規定される本人同意の確認は、本人が当該保有個人情報の利用目的以外の利用・提供の内容について認識することができるよう適切に行われるのであれば口頭で行ってもよいことになっている(甲第13号証)。つまり極端な話、電話連絡のみでも本人の意思確認を行うという目的は達成され得るのであり、それすら意図的になしていない被告の行動は、著しく道義的責任を無視したものと言わざるを得ない。
なお、原告の調べによって、すでにハラスメント被害者である元教員・学生らのうち複数名が、すでに氏名等といった核心的な個人情報を除いた自身に関わる記載についての開示に同意ないしは開示を希望していることが確認されている。なお、この事実については、それこそ「プライバシー」の観点からそれを証明する署名捺印の類を法廷に提出することは不可能であり、したがって原告は具体的に誰が同意しているのかを被告に示すことはできない。しかし開示請求対象となっている文書や関係者の連絡先は当然のことながらことごとく被告が保有し、自由に閲覧できる立場にあるのだから、被害者・関係者への意志の確認義務・証明義務はむしろ被告の側にある。
また、保護法9条2項の1の例外但書として、本人または第三者の権利利益を不当に侵害するおそれがあると認められる場合が定められている。これについては、どのような場合が「不当な侵害」にあたるのかを考える必要がある。「不当」というのは、この場合、「本人が予期していない、理不尽な事象であること」を指すと解してよい。しかし、本人が自身に関する情報の提供に同意した時点で、そのリスクについても承知している、と考えるのが妥当である。つまり、被害者らあるいは関係者らがすでに全員成年であり、自己に関する健全な判断力はすでに備わっていると見做される以上、その判断は行為の意味と生じ得る結果を理解したうえでなされたものとして尊重されなければならない。もし妥当でないにしても、意思確認連絡の際に、想定され得るリスクに関する説明を挟めばそれでよいのであるから、いずれにせよ、プライバシーの帰属者に対する「不当な」権利侵害は回避され得ると考えてよい。またこのことから、当該但書は2項の1よりは2~4を主眼に置いたものであると解される。
一方で、第三者に対しても、この場合特定の第三者に具体的な被害が生じる場合を想定していると解するのが妥当である(例えば、日本のどこかに居住する市井の個人であり第三者が、偶然開示情報を見て不愉快な気分になる、という可能性も完全に否定され得るものではないが、そのような場合についてまで考慮するのは明らかに無意味である)。そして本件開示請求対象文書について見ると、後述の通り、プライバシーが帰属し、開示に同意する当人以外の関係者を特定不能にする形で情報を明らかにするのであれば特定個人に具体的損害は起こりえないこと、また百歩譲って特定の第三者の利益が具体的な形で侵害されるとしても、それはプライバシーの属する本人あるいは公共の利益と比較衡量されるべきであることを考えれば、やはりこの但書によって被害者らの自己情報コントロール権は制限され得ないのである。
ここで、当事件との比較対象となる事例として、長崎地裁平成18年2月21日(公文書不開示処分取消請求事件)の判例がある(甲第10号証)。この事件における原告A(第三者のNPO法人)は、この事件における被告のB高等専門学校に対し、学内でのセクシュアルハラスメントに関する内部調査報告の開示を求めた。しかしここで長崎地裁は原告Aの請求を棄却した。この判断のポイントとなったのは「1、原告Aの行動はセクシュアルハラスメント被害者の了解を得ておらず、この事件の被害学生Cは原告Aの行動や報道を不快に感じており、開示を望んでいない旨を被告Bが聴取済みであったこと」および「2、個人情報審査会により、当該文書に記載された情報は『全体として』権利利益侵害情報であって,不開示とすることが相当であり、部分開示を行うことができないという答申書が発行済みであったこと」の2点である。長崎地裁は、記載内容から被害者Cを特定可能であることから、個人利益侵害情報にあたると認定して法第7条に関わる請求を退け、続いて審査会答申書と被害学生Cのプライバシーの観点から法第6条に関わる請求を退けた。この判例で重要なのは、あくまで被害学生Cの意志と権利を尊重し、全面不開示としている点である。つまり、情報を開示すること自体がプライバシーの帰属する当人の了解を得ておらず、不快の念を生じさせその利益を侵害させる可能性があるからこそ、長崎地裁は比較衡量の上でこの判決を下したのであり、これができたのは、被告Bが被害学生Cの意志を確認し、それが開示を一切望まないものだと聴取するというプロセスをしっかりと経たからである。また、この判例において、長崎地裁は、行政法人の職員である加害者に関わる情報開示の可能性については認めているものの、あくまで開示を拒否する被害者とのプライバシーの兼ね合いを考慮し不開示が妥当としているのであって、公務員あるいはそれに準ずる立場の者である加害者のプライバシー保護はこの判決に一切影響を与えていないことも特筆すべき点である。
翻って当事件に関する状況を見れば、原告が確認している限り、被告は本準備書面提出日に至るまで被害者や関係者に対し何ら確認の連絡を取っていない上、開示に同意する関係者の存在までもが確認されており、全面不開示処分は著しく不合理であると言わざるを得ない。不開示が認められた類似事例においてですら、被告Bはプライバシーの帰属者への意思確認という極めて当たり前の道義的責任を果たしているのであって、当然本事件の場合もこれは被告の義務であると解されることができ、被告はただちにこれを行うべきである。加えて言えば、本件対象文書に関しては、個人情報審査会から部分開示を行うことができないという答申書が発行されてもいない。
2 被告準備書面2の(2)について
(1)開示請求②に係る文書についての全面不開示処分の妥当性の検討
被告は、「しかし、開示請求②にかかる文書は、申告者が(ママ)、被申告者のハラスメント行為とされる行為の内容やその経緯、申告者の説明する被害内容や、他の当事者に関するハラスメントとされる行為の内容が記載されており、個人に関する情報に関わらない部分の記載はない。」と主張する。
原告は次の通り反論する。
被告の提出した判例(乙4号証)において、公務員あるいはそれに準ずる行政法人の職員がなした非違行為そのものも不開示情報に該当する理由として、東京地裁は「たとえ、その職員の氏名、住所等を秘密にしたとしても、開示された情報内容そのものから、あるいは右情報内容と水道局の組織規定や職員録等の他の情報とを組み合わせることにより、特定の個人が識別される可能性があるのであるから、原告が本件開示請求により求めた情報であると主張する右の情報は、本件条例九条二号本文の定める個人情報に該当するものというべきであり、被告としてはこれを開示しないことができるものである。」(乙4号証16頁)と説明している。
つまり、行為についての記載そのもの、あるいは行為についての記載と当該機関が発行した他の公的書類を組み合わせて特定個人を識別可能である場合に、行為についての記載は個人識別情報と見做され得るのである。
しかし、原告が開示請求②に係る文書を確認する限りでは、記載されている行為自体は被告ないしは群馬高専のどこでも起こりうる、またどの教員も起こしうるものであると解される。つまり、「研究室に監禁し、長時間にわたる罵倒を行った」「指導学生に対し、人格否定を行った」「同僚に対して脅迫・強要をなした」といった情報が記載されていたと仮定して、それは被告ないしは群馬高専の全学科・全教員に当てはまり得る事柄である。つまり、加害教員に関してその氏名と役職、加害教員と被害者に関してその所属学科を墨塗りした場合、行為者についてはすでに特定個人として識別不能であるということを指摘しなければならない。このことは、原告が自ら個人情報に関する墨塗り処理を行っている甲11号、甲12号証を見ても明らかである。
もちろん、開示請求②に関わる文書の中には、特定人物でなければあり得ないような特徴・行為についての記述がある可能性もあるが(例えば、特定学科や特定人物しか参加・関与し得ない事柄に関連してハラスメントが起こった場合など)、それらについては、該当記述箇所ごとに個別に判定され、特定を防ぐ範囲で最小限削除されればそれでよいのであり、一概に個人識別情報であるとする被告の主張は失当であると言わざるを得ない。
また、ハラスメント行為の具体的内容については、それを受けた被害者側にとってもプライバシーであると認定される可能性もあるが、上述の通り、プライバシーであるならば被害者の自己情報コントロール権の下に置かれるという解釈が妥当であるから、当然、被告は被害者に対し該当箇所の開示への同意の意志を確認し、かかる人物が開示を全面的に拒否した場合にのみ、不開示とすることが妥当であると解される。よって、被害者の意志を一切確認せずに、帰属者とその意志から切り離された「プライバシー」を振りかざし全面不開示とする被告の行為は明らかに失当である。
さらに、告発文書は、被告の陳述する通り、基本的に「加害教員がなした行為」と「被害者の被害状況」が記載されているが、特に、被害者の被害状況は別個に章立てされている箇所もあり、その箇所においては加害教員の具体的な行為については言及されていない。
すなわち、百歩譲って加害教員がなした行為を開示することが加害教員の個人利益を害するがゆえに不開示情報にあたるとして、それでもなお、氏名・生年月日等の核心的な個人情報を除いた被害者の被害状況を記した箇所については、加害者のプライバシーの及ばぬ範囲であると認定され、かかる人物の同意あるいは希望がある場合には開示されなければならない。
なお、被害者の被害状況までもが加害教員のプライバシーと見做された場合、例えば個人Aが個人Bを殴り、怪我をした個人Bが病院に行ったという事例があったとして、個人Aが個人Bに「病院に行ったという事実単体でも私個人のプライバシーだから他人には言うな」と命令するようなものであり、このような明らかに不当な事例が正当に成り得てしまう。類似の拡大解釈はいくらでも成り立ち得ることから、これは現代日本の法制に対する重大な挑戦ですらあり、被害者の被害状況単体の開示はあくまで被害者の一存によるものと解されざるをえない。
(2)開示請求③に係る文書についての全面不開示処分についての妥当性の検討
被告は、「開示請求③にかかる文書も、関係者から聴取した結果として、ハラスメントとされる行為の経過や当事者が記載されていることは、上記開示請求②にかかる文書と同様である。開示請求③にかかる文書には、このほか調査に至った経緯や調査担当者、調査方法と調査結果に関する記載があるが、これらにも関係当事者の氏名や具体的な聴取内容が記載されており、個人に関する情報が渾然一体となって記載されているので、不開示情報が記録されている部分を容易に区分することはできない。また、開示請求③に係る文書は、法5条4号へ『人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ』のある情報が記載された文書であり、その記載はいずれも人事管理に関する事項として一体の内容をなすものであるから、記載内容はいずれも人事管理に関する不開示情報に該当すると解すべきである。」と主張する。
原告は次の通り反論する。
そもそも開示請求③にかかるようないわゆる内部調査書類が「公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれのある文書」とされる理由は、乙4号証も踏まえて噛み砕いて言えば「外部に開示しないことを条件の1つとして調査に同意し、情報提供を行った内部の調査協力者にとって、その具体的な提供情報が無断で外部に明らかにされてしまうことは横紙破り以外の何物でもなく、また、このような前例を作りあげてしまうと、以後類似の事件が起こった場合に調査へ協力する人間が減ってしまうことになりかねず、内部調査すなわち人事に支障をきたすことになってしまうから」である。
具体的な提供情報の開示の可否については後で論ずるとして、この事実を踏まえたうえで開示請求②に係る文書の各要素について検証していくと、まず「調査方法」については、対象者の具体的な個人情報を除けば事件の経緯に関する情報の中でも極めて一般的なものであり、開示によって人事に影響をきたすとは解されない。例えば、「何月何日から何月何日まで、教員X名、学生Y名に~といった方法で聞き取りを行った」という情報は、開示により特定個人を識別可能にする情報あるいは特定個人の権利・利益を害する情報とは認められず、また、聞き取り対象者がその開示の可否について主導権を有する性質の情報ではないことは明らかである。
「調査に至った経緯」も、要約すれば「開示請求②にかかる文書が何月何日に被告ないしは群馬高専に提出されたことにより告発がなされたから」という以上の情報ではないと考えられ、該当文書が提出された事実についてはすでに存否応答で明らかにされており、残る該当文書の提出日時については特定個人を識別可能にする情報あるいは特定個人の権利・利益を害する情報、あるいは人事に関わる情報であるとはもちろん認められない。
また、「調査結果」に関しては、具体的な聴取内容のほかに、被告ないしは群馬高専が導き出した結論があるはずであり、その箇所については開示されなければならない。つまり、被告ないし群馬高専は聴取内容という個々の資料を踏まえて、「個々の聴取内容を離れた総合的な判断理由」および「アカデミックハラスメントが存在したかどうかの、存在したとしてどれほど悪質かの判断」をかかる文書に記しているはずであり、これらの箇所については、前項(1)において分析したのと同じく、氏名・所属(つまり学科)・職位等といった情報を伏せれば特定個人を識別可能にする情報あるいは特定個人の権利・利益を害する情報であるとは認められないし、また開示することによって調査協力者との約束が履行されなくなることもないから、人事に関わる情報であるとは解されない。
最後に、具体的な提供情報の開示の可否に関してであるが、この提供情報については、提供者および当該情報により言及される人物にプライバシーが帰属すると解するのが妥当であり、(1)によって説示したことに準じて、まず提供者に開示の意志を確認し、許諾した場合、次いでかかる人物に開示の意志を確認するという2段階の手順を踏めば開示可能であると解されるから、関係者の意志を一切確認していない現段階では、被告はその開示の可否を断言する立場にはないはずである。
さらに言えば、準備書面(1)において示した通り、開示請求②にかかる文書は平成26年12月下旬と平成27年2月下旬に、2か月の間隔をあけて被害者側から被告に提出されている。一方で、開示請求③にかかる文書は1通しかないのであるから、これは暗に、被告がどちらかの告発に対しては調査すら行わなかったということを示唆している。この意味では、開示請求③にかかる文書は、たとえその作成日時や調査の実行期間だけでもハラスメントに関する被告ないしは群馬高専の対応を推し量ることができるのであり、原告にとっては重要な情報のひとつである。
また、調査担当者に関わる個人情報の開示については原告の開示請求の趣旨にないため、その不開示の妥当性の検討は割愛する。
(3)開示請求①に係る文書についての全面不開示処分についての妥当性の検討
被告は、「他方、開示請求①にかかる文書には、ハラスメントの加害者及び被害者とされる者の属性(所属)や、群馬高専において行った調査の機関及び概要と、学校としての対象者への対応状況が明記されているが、他に一般論として、学校としてのハラスメントに対する対応方針が記載された部分もある。後者については、個人に関する情報に関わらないものと解されるものの、『アカデミックハラスメント事件の存在及び経緯に関する情報』に関する情報公開という、原告の開示請求の趣旨からすれば、上記の後者の部分のみの開示で有意性(法6条1項但書)があるか疑問であるが、念のため不開示情報に該当する部分を抹消して、書証として提出する(乙5の1から3)。」と主張する。
原告はこの項について、4月14日の第3回口頭弁論で裁判所によって留保となった被告の「予備的に請求の却下を求める」として部分に関連して、被告からの「予備的に請求の却下を求める」との主張を援用する追加説明を踏まえたうえで、反論することとしたい。ただし、審理の参考として、追加説明を踏まえない状態での反論を二重線処理のうえ以下に示しておく。
被告は開示請求①に係る文書の内容を分析したうえで、不開示情報となるべき情報とそうでない情報を恣意的に区分し、さらに書証として提出することでその分類を既成事実としようとしている。しかし、まず、「群馬高専において行った調査の期間及び概要」が特定個人のプライバシーに関わるとは解されないのは明らかである。そもそも、アカデミックハラスメントないしはそうと見做され得る行為が被告ないしは群馬高専内にて行われ、それに対しての何らかの告発がなされたという事実はすでに存否応答から公的に明らかであり、何らかの調査が行われたという事実の存在も当然そこから判明し得るものであり、実際に被告ないしは群馬高専が「調査」と認識している行為が行われた事実自体は存否応答より公的に明らかである。そして具体的な聞き取り内容、聞き取り対象者の具体的氏名や所属はともかく、まず調査がいつからいつまで行われたかという情報は誰のプライバシーでもないし、さらに調査の概要についても、教員・学生何名に聞き取りを行ったか、どのような手法で聞き取りを行ったかという情報は本事件に対する極めて一般的な話であり、特定個人のプライバシーであるとは到底解されない。
さらに、「学校としての対象者への対応状況」についても同様に不開示情報とは解されない。「対象者」が加害教員と被害者のどちらを指しているのか、あるいは両方を指しているのかについては判然としないため、以下両方の場合について検討を加えることとする。
まず、加害教員への対応についてであるが、被告自身が説明した通り、これまでに懲戒処分は一切行われていないことから、かかる文書には人事にかかる重要情報は特に記載などされていないことになる。とすればそれ以外の非公式な形で対応がなされたことになるが、その対応の内容自体から特定の個人を識別することなど不可能であり、そもそも対応の内容自体が被告ないしは群馬高専に通う学生およびその保護者にはすでに認知されているのだから、その対応の内容を開示したところで、かかる人物に特段の不利益が生じるとは認められない。
また、被害者についての対応についても、例えば「被害者らに学生相談室を用いたメンタルケアを行った」程度の内容であれば、本事件について行われた学校の対応の中でも極めて一般的な話をしているに過ぎず、開示することにより特定個人を識別可能にしたり、あるいは特定個人に特段の不利益が生じる性質の情報であるとは解されない。あるいは、特定人物に対し特別な対応が行われ、それが開示請求①対象文書に記載されているのであれば話は別であるのかもしれないが、原告が認知している限りでは、準備書面(1)に示した通り特定個人のプライバシーと見做され得るほどの特別な対応が行われたという事実はないし、ましてそのことが保護者に通知されたという事実もない。
このように、被告が一方的かつ恣意的に行った開示請求①対象文書についての分析は明らかに当を得ておらず、したがって被告の「この乙5号証の1から3により、原告が開示請求①について部分開示を請求する点については、原告は訴えの利益を喪失すると考えられるので、原告の訴状、請求の趣旨1項①に関して、予備的に請求の却下を求める。」という主張は失当であるというほかない。
また、原告の請求の趣旨は原告が提出した訴状あるいは準備書面(1)によって示されたものであり、甲1に示す情報公開請求によってはもちろん原告の請求の趣旨は示されていないわけだから、つまりそもそもの全面不開示処分に原告の請求の趣旨は加味されていないのであり、そこに今回被告が自ら乙5号証1から3を提出したことで、少なくとも情報公開請求に対し「全面」不開示が妥当であるとした被告の判断は失当であったことがすでに被告自らの手によって証明されたのである。一方で、原告は第一に全面不開示処分自体が不服であるとしていたのだから、この時点で原告がその訴えを提起したことに対して全面的に被告に対して責任を負わなければならない可能性は無くなったのであり、よって原告が被告の訴訟費用を負担せねばならない理由はすでに無くなっているとみることができる。よって、被告の答弁書における「請求の趣旨に対する答弁」の2について、却下を求める。
以上
*****証拠説明書*****PDF ⇒ ib813jq.pdf
事件番号 平成28年(行ウ)第499号 法人文書不開示処分取消請求事件
原告 市民オンブズマン群馬
被告 独立行政法人国立高等専門学校機構
平成29年4月21日
東京地方裁判所民事第3部B2係 御中
証 拠 説 明 書(甲8~13)
原告 市民オンブズマン群馬
代表 小 川 賢 ㊞
●号証:甲8
○標目:独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律(抜粋)
○原本・写しの別:写し
○作成年月日:平成28年5月27日
○作成者:国
○立証趣旨:開示の可否は被害者本人の同意の有無の確認が前提であること(第9条)。
●号証:甲9
○標目:義務違反防止ハンドブック―服務規律の保持のために―(抜粋)
○現本・写しの別:写し
○作成年月日:平成29年3月
○作成者:国(人事院)
○立証趣旨:職場内秩序を乱す行為として、他の者に不適切な言動等を行ったり、セクハラやパワハラなどを行ったりした場合に与えられる懲戒処分について詳説しているもの。
●号証:甲10
○標目:公文書不開示処分取消請求事件の判決文
○原本:写しの別:写し
○作成年月日:平成18年2月21日
○作成者:長崎地方裁判所民事部
○立証趣旨:同種の事件で不開示が認められた判例においては、被害者の開示に対する同意の有無が最大の判決理由になっており、被告が被害者へ開示に対する意思の確認連絡を行う必要性を示すもの。
●号証:甲11
○標目:ハラスメントに関する申立書
○原本・写しの別:写し
○作成年月日:平成26年12月24日
○作成者:被害職員
○立証趣旨:原告が入手した告発文書のひとつで、加害教師からハラスメントを受けた職員が、群馬高専の校長ら幹部及び担当部署にあてた申立書。加害教員が懲戒処分に相当する行為を行っていた事実関係、および被告がハラスメント事案に実効的な対応を一切取らなかった事実関係を示すもの。
●号証:甲12
○標目:人権・被害救済の申し立て
○原本・写しの別:写し
○作成年月日:平成27年2月25日
○作成者:被害学生一同
○立証趣旨:原告が入手した告発文書のひとつで、加害教員からハラスメントを受けた学生らが校長あてに勇気を奮って提出した申し立て文書。加害教師が大勢の学生に対して懲戒処分に相当する行為を行っていた事実関係を示すもの。
●号証:甲13
○標目:個人情報の適正な取扱いに関するQ&A
○原本・写しの別:写し
○作成年月日:平成29年4月12日以前
○作成者:総務省
○立証趣旨:行政機関個人情報保護法第8条第2項第1号あるいは独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律第9条第2項第1号に規定される本人同意の確認は、本人が当該保有個人情報の利用目的以外の利用・提供の内容について認識することができるよう適切に行われるのであれば口頭で行ってもよいことを示すもの。
以上
*****甲8*****
PDF ⇒ b8llij.pdf
*****甲9*****
PDF ⇒ b9hnhubnijrev1.pdf
*****甲10*****
PDF ⇒ b10.pdf
*****甲11*****
PDF ⇒ b111.pdf
b112.pdf
*****甲12*****
PDF ⇒ b121.pdf
b122.pdf
*****甲13*****
PDF ⇒ b13lk.pdf
**********
■注目の第4回口頭弁論は平成29年5月26日(金)午後1時45分に東京地裁5階第522号法廷で開かれます。
【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】