↑今回2024の台湾総統選挙の結果↑
↑前回、2020年の台湾総統選挙の結果↑
■4年に一度、国民の直接投票で首長を選ぶ台湾の総統選挙が、1月13日(土曜日)に投開票が行われ、同日午後8時半(日本時間9時半)に民進党の頼清徳候補が勝利宣言を行いました。台湾では、民主化が実現し、1996年から総統を直接選挙で選出しており、同じ政党が3期続けて政権を担うのは今回が初めてとなります。
■台湾では、1945年8月の日本の敗戦により、日本人が去った後、連合国軍の協定に基づき、中華民国国民党政府に返還委譲されました。当時、中華民国主席の蒋介石が任命した陳儀が行政長官として1945年10月24日に台北に赴任し、翌25日に式典が開かれて、台湾での日本統治時代は終焉しました。
当初は多くの台湾人が国民党を快く出迎えましたが、まもなく祖国復興の希望が幻想だと気付かされることになりました。なぜなら、国民党政権が台湾で実権を握ってからは、役所では汚職が拡がり、軍紀は乱れ、一般市民の物品を強奪する行為が頻発したからです。
国民党から台湾の行政長官として任命された陳儀は、台湾の一般市民に対して、口では「中国の同士で主権者になった皆さんは、日本による奴隷支配から中国の主人になった」と説きましたが、公務員試験は北京語で実施するなどして、必然的に台湾人を役所から排除しました。さらに、自由な社会を目指そうとした台湾人が、台湾学生連盟、台湾農民協会、台湾建設協会など社会・業界団体をつくろうとしましたが、陳儀は一切認可せず、新たな社会統制が始まりました。
こうした情勢下で、二・二八事件が起きました。これは、1947年(民国36年)2月27日、台北市でタバコを売っていた台湾人女性に対し、取締の役人が暴行を加えたことを発端に、翌28日には台湾人による市庁舎への抗議デモが行われましたが、憲兵隊が機関銃を乱射し数十人が死傷したため、抗争はたちまち台湾全土に広がりました。警備総司令部は急遽、戒厳令を布告しましたが、台湾人は放送局を占拠して全台湾に事件の発生を知らせました。
翌3月1日、暴動は台湾全土に波及し、圧政への不満が高まっていた台湾人は、旧日本軍が残した僅かな兵器や規律で立ち向かい、多くの地域で一時実権を掌握しました。しかし、国民党は中国本土から援軍を派遣し、3月8日、憲兵2千、陸軍1万1千の増援部隊が基隆港と高雄港から上陸すると、台湾人に向けて発砲しながら進軍しました。この部隊は米国の支援で装備された部隊だったため、ほぼ武器を持たない台湾人の抵抗はたちまち劣勢に陥り、警備総司令部は3月14日に全島を平定しました。
筆者の台湾の義父は1999年に74歳で亡くなりましたが、終戦前の20歳の頃、沖縄戦に備えて基隆で日本人の上官のもとで戦闘訓練に明け暮れていましたが、結局沖縄への船が全て沈められたため、命拾いをしました。終戦で日本が敗戦したことで、虚脱感を覚えたそうですが、いわゆる「犬が去って豚が来た」といわれる国民党占領下で起きたこの事件で台湾人として蜂起し、日本式軍事訓練を受けた仲間と共に、日本軍が残した武器を手に、果敢に国民党軍と戦った話を、筆者が台湾に行くたびにしてくれました。その際、いつも「(義父の地元の)台中の放送局を占拠したが、台南の放送局がもっと頑張って持ちこたえてくれれば、戦況は好転したはず」と言っていました。よほど口惜しかったのでしょう。そしてこの話をする前に、必ず家の周囲の窓をしっかりと閉めていました。なぜなら、1980年代前半はまだ戒厳令が布かれていたからです。
■やがてまもなく、中国大陸での国共内戦に敗れた蒋介石率いる国民党が、1949年12月に台湾に移ることを決定し、蔣介石は1950年3月1日、「中華民国」総統に返り咲きました。その後、アメリカの支援をもとに大陸の中華人民共和国との軍事対立が続く中、蔣介石一族は絶大な権力をにぎって独裁政治を続け、共産党軍の侵攻に備えてすでに1949年5月20日に戒厳令を布き、人権を抑圧する体制を作り上げました。その体制下で台湾の人々は政党活動、言論・集会、労働運動などの自由を奪われました。
しかし、1971年にはアメリカのニクソン大統領による米中関係の改善のあおりを受けて、国際連合の「中国」の国連代表権を失うという事態となりました。台湾をめぐる情勢が厳しくなるなか、蔣介石は1975年4月5日に死去し、権力は息子の蔣経国が継承しました。なお、戒厳令は1987年まで38年続きました。
筆者は当時、戒厳令が布かれていた1970年代後半に、台湾造船公司(TSBC)への船舶建造に関するパッケージ・ディール方式のビジネス(船の設計図に加え、エンジンやポンプや航海計器などの装置類をまとめて供給するビジネスモデル)に携わっていましたが、その時、仲介商社として起用していた日商岩井(現・双日)の現地駐在の有能な日本人商社マンが、真夜中に急用で車を運転したところ、突然信号を無視してきた軍関係の車両に激突され、死亡するという事件がありました。しかし戒厳令下にあったため、事故の補償など全く為されず、残された若い妻と子が不憫でなりませんでした。
■蒋経国は1972年、行政院長となり、独裁者の父である蔣介石から事実上党・国・軍を引き継ぎました。しかし、既に国民党の掲げる全中国の正統政権であるとする主張は破綻して、大陸光復=大陸反攻のスローガンはもはや絵空事であることを自覚していた蒋経国は、国際的な孤立に伴う対外的な中華民国の正統性の危機に対して、「台湾化」に活路を見いだそうとしました。
日本統治時代に整備されたインフラや教育、医療等の効果により1950年代~1960年代を通じて台湾は順調に経済が発展してきましたが、大陸反攻をスローガンに掲げた軍事面での投資が優先され、空港や鉄道は日本統治時代のままで産業基盤の整備は立ち遅れていました。そのため、国の危機を憂えた台湾の人々の中には海外への移住を目指す動きも盛んでした。
このため蔣経国は1973年11月に、産業基盤の整備と重化学工業の振興を目的とし、十大建設と呼ばれる国家プロジェクトに着手しました。それらは、南北高速道路建設、西部縦貫鉄道電化、北回り鉄道敷設、桃園国際空港建設、台中港建設、蘇澳港拡張、中国鋼鉄創設、中国造船創設、石油化学プラント建設、そして3つの原発を含む発電所建設でした。
筆者が初めて台湾を訪れたのは1976年1月ですが、その際、IHIの技術指導を受けていた高雄の中国造船の100万トンドックや、熊谷組の技術指導を受けて造った南北高速道路を目の当たりにした記憶があります。
この十大建設の成功は、台湾社会に団結と達成感をもたらしました。そして1970年代を通じ、台湾経済の発展は世界経済において台湾の地位を高めることに成功し、韓国、香港、シンガポールとともに「アジア四小竜」と呼ばれる存在となり、今や、台湾人の一人当たりGDPは、我々日本人を上回っています。
■さて、今回の総統選挙では冒頭に示したように3期連続の民進党政権が決まりました。ただし、国民党・侯友宜氏と民衆党・柯文哲氏の合計の得票率(60.0%)が、当選した頼清徳氏(40.1%)を上回ったことから、「総統選挙における民進党の優位時代が終わった」と分析する向きもあります。
そして、同じ日に行われた立法院(日本の国会に相当)の選挙では、全部で113議席のうち、中国との対話を重視する国民党が最多の52議席を獲得し、民進党の51議席を1議席上回って第一党の座を確保しています。ただし、両党とも過半数の57議席に達せず、8議席を獲得した第三政党の民衆党がキャスチングボートを握っている状態となりました。今後の政権運営にとってこの8議席が大きな意味を持つのは確かで、2月から始まる立法院での議長選出が早くもヒートアップしています。
それにしても、なぜ「選挙の争点」として、民進党の頼氏と国民党の侯氏が明確に「中台関係」の争点化を図ったのに、中間派の有権者、とりわけ若者世代にはあまり響かなかったのでしょうか。民衆党の柯文哲氏は、当初、国民党との連立(合作)を標榜していましたが、総統選間近になり、総統候補を巡る調整がまとまらず、結局袂を分かち、結果的に総統選挙では民進党が勝利しました。
しかし、前回の5議席から8議席に増やし、国民党も民進党も立法院では過半数を取れなかったため、存在感を増したかたちとなりました。柯文哲氏は中台関係について、あいまいなスタンスをとり、1987年の戒厳令解除を節目として、それまでの国民党一党独裁に対する台湾の民主化運動が達成されるまでの実態を知らない若い世代の間には、国民党も民進党も旧来の既存勢力という認識が広がり、2019年8月6日に当時台北市長だった柯文哲により結成された民衆党に新鮮さを感じたものとみられます。
実際のところ、民衆党の柯文哲氏は、前言をいとも簡単に翻すため、信用できないとみる向きも多数います。それでも、独裁政治をいやというほど味わった台湾人には、政権が長期にわたると腐敗するという意識が依然として高く、そのため、中国共産党の脅威が迫る国際情勢の中にあっても、民進党の3期目となる長期政権に抵抗があることも事実です。また、国民党に限らず、民進党の立法院の候補者の中にも、汚職や不倫のスキャンダルを抱えた前議員がおり、民進党は決してクリーンなイメージではないことも、民衆党の得票数アップの一因とみられます。
■それにしても、なぜ総統選では民進党で、同時に行われた立法院選挙では、僅差とはいえ国民党が民進党を上回り第一党となれたのでしょうか。
台湾では、中華民国の創建者である孫文の「五権分立」理論に基づいて、行政院・司法院・考試院・監察院と共に一院制の立法機関として立法院が設置されています。中華民国にはもともと、総統・副総統の任免権、憲法改正権を有する最高機関「国民大会」が存在していましたが、2005年に廃止されたため、立法院が名実共に唯一の最高立法機関となっています。
また、蒋介石による国民党一党独裁時代の1948年から1991年までは、中国大陸で選出された議員が立法院の大半を占めていましたが、1992年以降は澎湖、金門、馬祖を含む台湾在住の有権者によって選出された議員だけで構成・改選されています。会期は2月~5月、9月~12月の二会期制を採用しており、現在、議員定数113、任期は4年です。
■今回の総統選を見ると、九州ほどの面積に住む約1955万人の有権者のうち約72%にあたる1400万人余りの投票者数ですが、投票は午後4時に締め切られ、開票作業が始まり、4時間半後の午後8時半(日本時間午後9時半)には開票結果が公表され、当選人が勝利宣言をしたことです。これほど早く開票作業ができるのはなぜだろうと筆者は疑問を持ちました。
そこで、台湾の親戚筋に聞いたところ、開票作業はそれぞれの開票所で開票し、直ちに集計作業が行われ、中央選挙委員会に結果を連絡しているのだそうです。日本のように、投票箱を役所の職員が一人で持ちまわったり、山奥の投票所から遠い市街にある開票所に運んだり、という非効率な方法ではないこともその理由です。
**********フォーカス台湾2024年1月15日17:17
開票作業の不正指摘する動画拡散 中央選挙委トップ「100%自信ある」/台湾
↑中央選挙委員会の李進勇主任委員=資料写真↑
(台北中央社)13日に実施された総統・立法委員(国会議員)選の開票作業を巡り、インターネット上では一部投開票所での不正を指摘する動画が複数拡散されている。中央選挙委員会の李進勇(りしんゆう)主任委員(閣僚)は15日、全国24万人以上の選挙スタッフが法にのっとって作業を進めたことに「100%の絶対の自信がある」とし、候補者陣営が結果を受け入れられないのであれば、訴訟を起こすよう呼びかけた。
台湾の選挙の開票作業では投票用紙を一枚ずつ観衆席に広げて見せ、得票者の読み上げを行い、正の字で票を集計していく方式が用いられている。インターネット上に出回っている動画では、投票箱の底に仕切りで票が隠されていた疑いや読み上げられた候補者とは別の候補者に票が加えられた疑い、決められた手順に従わずに集計が行われた疑いなどが指摘されている。
動画について中央選挙委は14日、拡散されている多くの動画は一部の場面を切り取ったに過ぎず、開票作業に濡れ衣を着せ、対立感情をあおるのが狙いだと指摘。信じたり、拡散したりしないよう呼びかけた。
不正疑惑を受けて15日に記者会見を開いた李氏は、少数の人が偽情報を拡散したことは非常に遺憾だとし、台湾の民主主義の価値観や選挙管理機関の公正、全ての選挙スタッフの潔白を守ると明言。たとえ1人であっても選挙スタッフが不正を働いていたことが裁判所で認定されれば、即座に辞任すると宣言した。
非営利組織の台湾ファクトチェックセンター(台湾事実査核中心)は15日までに、投票箱に票が隠されていた疑惑や別の候補者に票を加えていた疑いを指摘する動画について、いずれも「誤り」とする調査結果を発表している。
(陳俊華/編集:名切千絵)
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今回の総統選・立法院選挙では、中国共産党によるさまざまな妨害工作が行われました。上記の記事にあるようなSNSを使ったフェイク動画もそのひとつです。
■台湾では、選挙運動費用の上限や候補者のポスター掲示の制限などはなく、候補者の上り旗が、街中の道路わきの至る所に立ち並びます。候補者のポスターも、総統選候補と地元選挙区の立法院委員候補のツーショットのポスターが、駅前、バスターミナル周辺、主要交差点に面したビルの壁面一杯に貼られます。
メディアも、選挙の半年前から、選挙情勢について報道をはじめ、1か月くらい前からは朝から夜まで、多くの放送局や新聞、ネットチャンネルで報じます。
今回の総統選・立法院選挙の投票率が72%になったのも、総統という国のトップを直接選挙で選ぶという制度はもちろんのこと、国際情勢のなかで自国の置かれた立場を台湾の国民が良く認識していることもあるでしょうが、かつての独裁政治から民主化を勝ち取ってきただけに選挙の重みを理解していることが背景にあると考えられます。
それにしても、よく聞かれるのは、なぜ総統には民主党の頼清徳氏を選んだのに、立法院の委員選挙は国民党に票を入れる台湾人が多いのか?という質問です。筆者も疑問でしたので、台湾の親戚筋に聞いてみたところ、国際情勢については中国共産党と一線を画す民進党を支援するが、地元の候補者は、戦後、国民党政府下でいわゆる地元のコミュニティの各種団体への補助金やら、土着の宗教団体への優遇策やら、地縁・血縁重視の隣保班や同族意識など、いわゆる日本のムラ意識で構成されるタテ社会で見られるような集団意識が醸成されてきたため、これが依然として根強く存在していることが原因だという見解が示されました。
言ってみれば、日本でも地方議員選挙の場合、議員はおらが地区からぜひ当選させたいという仲間意識に通じるものがあると言えます。他方で、国のトップを直接選挙で選べる台湾では、やはり国際的な立場からの施策で判断するという投票行動をするため、こうした捻じれ減少が起きることになるわけです。
事実、1996年に国民党の李登輝が総統に就任してから、2016年に民進党の蔡英文の総統選挙の時に、初めて民進党が第一党になるまで、立法院は国民党が筆頭政党として議長を務めていました。その間、2000年から2007年の民進党の陳水扁政権の時も、同様、立法院は国民党が過半数を占めていました。したがって、今回は16年ぶりの捻じれ状態の立法院ということになります。
■こうした経緯を見ると、台湾人の政治に対するバランス感覚というものが垣間見えて来るようです。なにはともあれ、現状維持を訴えた民進党の頼清徳氏が総統選に勝利したことを皆さんと喜びたいと思います。今後、台湾海峡を挟んで中国共産党によるさまざまな台湾への圧力が加えられると思いますが、引き続き台湾の支援に取り組んで参ります。
【群馬県台湾総会書記からの報告】
※関連情報
**********NHK News Web 2024年1月14日19:06
台湾総統選 民進党・頼清徳氏が当選 立法院は過半数維持できず
13日に投票が行われた台湾の総統選挙で、与党・民進党の頼清徳氏が550万票を超える票を獲得し、野党の2人の候補者を破って当選しました。台湾で1996年に総統の直接選挙が始まってから初めて、同じ政党が3期続けて政権を担うことになります。
一方、同時に行われた議会・立法院の選挙では民進党が過半数を維持できず、5月に就任する予定の頼氏は難しい政権運営を強いられることになりそうです。
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4年に1度行われる台湾の総統選挙には、与党・民進党から今の副総統の頼清徳氏、最大野党・国民党から現職の新北市長の侯友宜氏、野党第2党・民衆党から前の台北市長の柯文哲氏のあわせて3人が立候補しました。
投票は13日に行われ、即日開票の結果、民進党の頼清徳氏 558万6019票、国民党の侯友宜氏 467万1021票、民衆党の柯文哲氏 369万466票で頼氏が当選しました。
投票率は71.86%で、前回4年前より3ポイントあまり低くなりました。
★中国との向き合い方が争点の1つ★
選挙戦では、中国との向き合い方が争点の1つとなり、中国の圧力に対抗する姿勢を示す与党・民進党が政権を維持するのか、中国との対話や交流拡大などを訴える野党が政権交代を実現するのかが焦点となりました。
頼氏は、「中国と台湾は別だ」という立場で、アメリカなどとの連携を強めて中国を抑止しようという現職の蔡英文総統の路線を継承すると訴えました。
これに対し、野党の2人は、頼氏がかつて「自分は現実的な台湾独立工作者だ」と発言したことを執拗にとりあげ、なかでも侯氏は「民進党政権が台湾海峡の両岸に武力衝突の危機をもたらした」と批判し「両岸の交流を密にして衝突のリスクを下げる」と主張しました。
しかし、中国当局が今回の選挙を「平和か戦争かを選ぶものだ」と定義して台湾の選挙への介入ともいえる姿勢を示すなか、侯氏らの主張に支持は広がりませんでした。
頼氏はことし5月に就任する予定で、台湾で1996年に総統の直接選挙が始まってから初めて、同じ政党が3期続けて政権を担うことになります。
★民進党の頼清徳氏が勝利を宣言★
与党・民進党の頼氏は日本時間の午後9時半すぎ記者会見し勝利宣言しました。
この中で頼氏は「選挙イヤーの最も注目された最初の選挙で、台湾は民主主義陣営の勝利を成し遂げた」とした上で「民主主義と権威主義の間で、台湾は民主主義の側に立つことを選んで全世界に示した。台湾の人たちはみずからの行動によって、外部勢力の介入を食い止めることに成功した」と述べました。
頼氏は「台湾海峡の平和と安定を維持するのが総統としての重要な使命だ。ごう慢にもならず、卑屈にもならず、現状を維持する。対等と尊厳を前提とし、対抗に代えて対話を行い、自信を持って中国との交流と協力を進め、台湾海峡両岸の人たちの福祉を増進し、平和共栄の目標を達成する」と述べました。
一方で「中国の言論や武力による脅しに対して、私には台湾を守る決意もある」と述べました。
★頼清徳氏 勝因は★
頼清徳氏は今回の選挙戦で、この8年間、政権を担ってきた民進党・蔡英文総統の路線を継続することを訴え、「現状維持」を望む幅広い層に支持を広げたものとみられます。
今回の選挙で大きな争点のひとつとなった中国との関係について頼氏は「台湾は中国の一部だ」という中国の主張を認めず、アメリカなどとの関係強化によって中国に対抗しようという姿勢を強調していました。
選挙戦では「台湾は世界の台湾であるべきだ。中国に頼る過去の路線に後戻りしてはいけない」と訴えてきました。
また、副総統候補として台湾当局の駐米代表を務めた蕭美琴氏とコンビを組み内外にアメリカとの関係強化の路線を継続する姿勢を示したことも受け入れられたとみられます。
さらに選挙戦では若い世代が関心を寄せる住宅対策や子育て政策など内政に力を入れることもアピールしました。
根強い人気のある現職の蔡英文総統のもとで副総統を務めた頼氏は、今回、幅広い層からの支持を得たものとみられます。
★蔡英文総統 「台湾の人々は民進党政権の継続を選んだ」★
蔡英文総統は日本時間の13日午後10時すぎに与党・民進党の集会で演説し「私たちは世界に向けてどのような困難もどのような抑圧も民主主義への信念をくじくことはできないと証明した」と述べました。
そのうえで「きょうの選挙の結果、台湾の人々は民進党政権の継続を選んだ。私たちは与党として着実に前進するとともに台湾をさらに強くしなければならない」と強調しました。
そして「選挙の終わりは、団結の始まりだ。きょう誰に投票しようと、民主的な台湾は再び新たな一歩を踏み出した。あすから私たちはともに台湾のために努力しよう」と呼びかけました。
★頼氏 一夜明けすぐ 日本の窓口トップや国会議員と会談★
当選した頼氏は14日朝、台北市内の民進党本部で日本の台湾に対する窓口機関、日本台湾交流協会のトップの大橋光夫会長と会談しました。
この中で頼氏は、能登半島地震で亡くなった人への哀悼と被災者へのお見舞いの気持ちを伝え、大橋会長は、台湾の人たちの思いやりに感謝しました。
そして頼氏が「日本は台湾にとって非常に緊密な民主主義のパートナーだ」と述べたのに対し、大橋会長は「日本の人たちは日台関係の重要性を理解している」と応じ、協力関係をさらに引き上げたいという考えで一致しました。
頼氏はこのあと、日本と台湾の交流を進める超党派の議員連盟「日華議員懇談会」の会長を務める自民党の古屋・元国家公安委員長と会談し、経済や文化の交流がさらに深まることに期待を示しました。
頼氏が、当選から一夜明けてすぐに日本の代表と会ったことは、対日関係重視の姿勢のあらわれと言えそうです。
★米元高官が台湾訪問へ 頼氏と会談か★
台北にあるアメリカの代表機関アメリカ在台協会は、アメリカ政府の元高官が、前例に従い、私人として14日から台湾を訪問すると発表しました。
訪問するのは、共和党のブッシュ政権で安全保障政策担当の大統領補佐官を務めたハドリー氏と民主党のオバマ政権で国務副長官を務めたスタインバーグ氏の2人で、15日に台湾の政治指導者と会談するということです。総統選挙で当選した民進党の頼清徳氏と会談するとみられます。
訪問では「選挙が順調に実施されたことにアメリカ国民の祝意を伝えるとともに、台湾海峡の平和と安定に対する我々の長年の関心を改めて表明する」としていて、中国が台湾への軍事的な圧力を強める中、台湾海峡の現状維持のために米台の連携を確認するねらいがあるとみられます。
一方で発表では元高官が前例に従い、私人として訪問することを強調していてアメリカと台湾の間の公的な往来に反対する中国を過度に刺激しないよう配慮を示したとみられます。
★台北市民「生活を良くして」「安全を守って」★
総統選挙から一夜明け、台北の市民からは新政権への期待などが聞かれました。
このうち、民進党の頼清徳氏に投票したという23歳の女性は「頼氏には、台湾の人たちの生活を良くしてほしい。仕事の機会をつくってほしい」と話していました。
また同じく頼氏に投票したという70歳の女性は「台湾の安全を守ってほしい。世界の人たちに台湾の民主主義を伝えてほしい」と話していました。
一方、国民党の侯友宜氏に投票したという45歳の男性は「結果は残念だ。頼氏には、彼に投票しなかった人たちの声に耳を傾け、安全保障や経済問題に取り組んでほしい」と話していました。
★国民党の侯友宜氏が敗北を認める★
国民党の侯氏は日本時間の午後9時ごろ支持者を前に「今回の総統選挙の結果について私個人の努力が足りず、非常に遺憾だ。政権交代を実現できず、皆さんを失望させた。私は心からおわびする」と述べ敗北を認めました。
★侯友宜氏 敗因は★
侯友宜氏は今回の選挙で大きな争点のひとつとなった中国との関係について、台湾の防衛力を強化しながら中国との交流を密にして衝突のリスクを下げると主張しましたが、幅広い支持が得られませんでした。
侯氏は、経済や教育などの分野で中国との交流拡大の必要性を訴え2023年11月にはFTA=自由貿易協定にあたる「経済協力枠組み協定」の協議再開や中国人観光客の受け入れ、それに中国人学生の台湾留学と台湾での就職を進める政策を打ち出してきました。
また、2期8年続いた民進党政権について中国との関係が悪化し交流が減っただけでなく、台湾では、汚職や不正が増えたなどと批判し政権交代を訴えてきました。
今回の選挙戦では、野党第2党の民衆党と連立政権を組む考えを強調し、柯文哲氏との候補者の一本化を模索したものの実現しなかったこともあり、国民党以外の支持層の獲得につながらなかったとみられます。
★民衆党の柯文哲氏も敗北を認める★
民衆党の柯氏は日本時間の午後9時すぎ、支持者を前に「私はあきらめないので皆さんもあきらめないでほしい。私たちは必ず努力を続け、4年後、自信をもって柯文哲と民衆党に投票してもらえると信じる」と述べ、事実上、敗北を認めました。
★柯文哲氏 敗因は★
柯文哲氏は今回の選挙戦で「新たな勢力による政治の変革が必要だ」だとして、台湾でこれまで交互に政権を担ってきた民進党でも国民党でもないみずからが率いる民衆党によって政権交代をすべきだと訴えましたが、幅広い支持が得られませんでした。
また、今回の選挙戦では、立候補の届け出の締めきり直前に最大野党・国民党との候補者の一本化をめぐっていったんは合意したものの結局は実現しなかったことで、既成政党と組もうとしたというマイナスイメージなどから支持が広がらなかったものとみられます。
★与党・民進党 立法院の選挙では過半数維持できず★
一方、総統選挙と同時に行われた議会・立法院の選挙では、113議席のうち、国民党が52議席、民進党が51議席、民衆党が8議席を、それぞれ獲得しました。
民進党は改選前より11議席減らして過半数を維持できませんでした。住宅価格の高騰などへの不満が与党に向かったことや、長期政権をけん制する有権者の心理が要因とみられ、頼氏は「われわれの努力が足りなかったことを意味する。虚心に反省すべき点だ」と述べましたが、難しい政権運営を強いられることになりそうです。
★中国政府「民進党 民意を代表できない」★
中国政府で台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室の陳斌華報道官は13日の深夜に談話を発表しました。
この中で、総統選挙で当選した民進党の頼清徳氏の得票率が40%だったことや、議会にあたる立法院の選挙で民進党が過半数を維持できなかったことを念頭に「台湾地区の2つの選挙結果は民進党が決して主流となっている民意を代表できないことを示している」としています。
そして「今回の選挙は台湾海峡両岸の同胞がさらに親しくなろうという共通の願望を変えることはできないし、最終的に祖国が必ず統一されるという大勢も止めることはできない」としています。
その上で「国家統一を完成させるという立場は終始一貫している。『台湾独立』という分裂行動や外部勢力の干渉に断固反対する。台湾の関係する政党や団体などとの交流や協力を促進し台湾海峡両岸の融合発展を深め、平和的発展と祖国統一の大業を推し進める」として台湾統一への強い意欲を示しました。
また、中国外務省も報道官の談話を発表し、「台湾問題は中国の内政だ。台湾の情勢がどう変化しようが、世界には『1つの中国』しかないし台湾が中国の一部分だという基本的事実は変わらない」と主張しました。
★中国のSNS 関連することば 検索できず★
一方、中国のSNS「ウェイボー」では、13日の朝、台湾総統選挙に関連するキーワードが検索ランキングでトップになりました。
しかし、その数時間後、このキーワードを検索しようとすると「関係の法律と政策により、この話題の内容は表示されません」という文章が表示され、検索できなくなり、当局などが神経をとがらせていることが伺えます。
ただ、中国のSNS上には、当局などによる検閲をかいくぐることばを使っても民進党の頼清徳氏の当選をネット上で検索できないことを疑問視し「関係部門は台湾政策の失敗を直視する勇気がないのか」といったコメントもみられました。
★アメリカ ブリンケン国務長官 頼氏に祝意★
アメリカのブリンケン国務長官は13日、声明を発表し、当選した民進党の頼清徳氏に祝意を示すとともに「台湾の人たちは、確固たる民主主義の制度と選挙プロセスの強さを改めて示した」と歓迎しました。
その上で「アメリカは台湾海峡の平和と安定の維持や威圧や圧力とは無縁な平和的な解決に取り組んでいく。民主主義的な価値を持つアメリカと台湾の人々は引き続き、経済や文化などで連携を拡大していく」としています。
バイデン大統領 「台湾の独立を支持しない」
また、バイデン大統領は、13日、記者団から台湾総統選挙の結果について聞かれ「われわれは台湾の独立を支持しない」と述べました。
「台湾は中国の一部だ」という中国の立場を認識する、従来からのアメリカの政策に変更はないという立場を改めて強調した形です。
★上川外務大臣 頼氏に祝意★
上川外務大臣は談話を発表し「民主的な選挙の円滑な実施と頼氏の当選に祝意を表する。台湾はわが国にとって基本的な価値を共有し、緊密な経済関係と人的往来を有する極めて重要なパートナーで大切な友人だ。政府としては、台湾との関係を非政府間の実務関係として維持していくとの立場を踏まえ 日台間の協力と交流のさらなる深化を図っていく。台湾をめぐる問題は、対話により平和的に解決されることや地域の平和と安定に寄与することを期待する」としています。
★外務省幹部 「中国への警戒感強め 今回の結果につながったか」
外務省幹部はNHKの取材に対し、「事前の予測通りの結果だ。中国側が選挙戦終盤に軍事的、経済的に圧力をかけたことや、偽情報などがあふれたことが、かえって中国への警戒感を強め、今回の結果につながったのではないか。日本としては、両岸問題の対話による解決が世界の平和と安定にとっても重要だと国際社会に働きかけていく」と述べました。
また別の幹部は、「頼氏が勝利したものの、民進党は前回・4年前ほどの票は取れなかった。どのような外交政策を打ち出していくのか注視していく必要がある」と述べました。
★中国大使館「祝意表明は内政に対する重大な干渉」★
上川外務大臣が祝意を示したことについて、東京にある中国大使館は14日、報道官の談話を発表し「日本の外務大臣が、公然と祝意を表明したことは、中国の内政に対する重大な干渉だ。強い不満と断固とした反対を表明する」として、日本側に抗議したと明らかにしました。そのうえで「“台湾独立”勢力にいかなる誤ったシグナルも送らないよう求める」などと日本側をけん制しました。
「台湾は中国の一部だ」と主張する中国政府は、頼氏のことを「台湾独立派」と非難していて、日本政府が頼氏に祝意を示したことに強く反発したかたちです。
また、中国外務省は、アメリカのブリンケン国務長官が台湾総統選挙で当選した民進党の頼清徳氏に祝意を示す声明を出したことについて「声明は『1つの中国』の原則に著しく違反し、『台湾独立』勢力に誤ったシグナルを送るものだ。中国はこれに強い不満を示し、断固反対する」としてアメリカ側に抗議したとしています。
★イギリス キャメロン外相 「台湾の活力ある民主主義を証明」★
イギリスのキャメロン外相は声明で、今回の総統選挙について「台湾の活力ある民主主義を証明するものだ」と指摘し、当選した民進党の頼清徳氏に祝意を示しました。
そのうえで「台湾海峡の両岸が、武力による威嚇を行うことなく、建設的な対話を通じて平和的に意見の相違を解決する努力を改めて行うことを願っている」としています。
★EU 「いかなる一方的な現状変更の試みにも反対」★
EU=ヨーロッパ連合は声明で、選挙に参加したすべての有権者に祝意を示すとしたうえで「台湾海峡の平和と安定が地域と世界の安全と繁栄にとって重要だ。EUは台湾海峡での緊張の高まりを懸念し、いかなる一方的な現状変更の試みにも反対する」と強調しました。
★リトアニア ランズベルギス外相 「民主主義の力強さたたえる」★
また、台湾との関係強化を進め、「台湾」の名を冠した出先機関「駐リトアニア台湾代表処」の開設を認めたことで中国から報復を受けているリトアニアのランズベルギス外相はSNSで頼氏に祝意を示し「台湾の人々とともにわれわれは、自由で公正な民主主義の力強さをたたえている」としています。
★ロシア外務省 「台湾は中国の不可分な一部 台湾の独立に反対」★
ロシア外務省のザハロワ報道官は13日、声明を発表し「台湾は中国の不可分な一部であり、ロシアはいかなるかたちでも台湾の独立に反対している」と強調しました。
そのうえで「台湾の選挙を利用して中国に圧力をかけ、台湾海峡や地域全体を不安定化させようとする特定の国々による試みは非生産的であり、国際社会は非難すべきだ」として中国を支持する姿勢を示し、アメリカなどをけん制しました。
★パラグアイ大統領府 「頼氏に心からお祝い」★
南米で唯一、台湾と外交関係を持つパラグアイの大統領府は13日「頼氏に心からお祝いを伝える。民主主義の責務を果たした台湾の人々を祝福する」との声明を出し、頼氏の勝利を歓迎しました。
頼氏は去年、南米各国の首脳とならんでパラグアイのペニャ大統領の就任式に出席していて、ペニャ氏はみずからのSNSで「私たちの国をより強くするために協力していく」と述べ、台湾とのさらなる関係の強化に期待を示しました。
★記者解説 中国 民進党政権への揺さぶり機能せず★
〔北京 中国総局・須田正紀記者(日本時間13日午後11時ごろ)〕
これまでのところ、中国政府の反応は出ていません。国営メディアも民進党の頼清徳氏の勝利宣言などについて一切伝えていません。
ただ、中国は台湾での政権交代をあからさまに望んできましたので、逆の結果が確実となり、いらだちを深めていると思われます。
習近平国家主席は、「祖国統一は歴史の必然だ」と述べ台湾統一への強い意欲を繰り返し強調してきました。
中国政府はこれまで台湾の民進党政権に硬軟織り交ぜたさまざまな方法で揺さぶりをかけてきましたが、今回、それが機能しなかったことが浮き彫りになった形です。
今後、台湾に対する圧力を強めるのは間違いないと思います。アメリカ政府の高官は、選挙のあと非公式の代表団を台湾に派遣すると明らかにしています。
今後、台湾がアメリカや日本などと連携する動きに対し、中国がより強硬な手段に出てくる可能性はないのか、注視していく必要があります。
★記者解説 アメリカ バイデン政権 民進党政権の継続に安どか★
〔ワシントン支局 渡辺公介記者(日本時間13日午後11時ごろ)〕
アメリカメディアは頼氏が勝利宣言すると、相次いで速報で伝え、関心の高さがうかがえます。
バイデン政権は、公式な反応を示していませんが、民進党政権の継続が確実になったことで「くみしやすい」と受け止めているとみられます。
特に、副総統に就任することになる蕭美琴氏は去年11月まで、ここワシントンで台湾当局の駐米代表を務め、党派を超えた信頼を集めてきたこともあり、台湾の防衛力強化の継続性という観点からも、安どしていると思います。
一方で懸念しているのは、中国の反応です。バイデン政権は、頼氏を「独立派」だとして警戒感をあらわにしてきた中国が、台湾への軍事的な圧力を一段と強化し、地域を不安定化させる可能性があると見ています。
バイデン政権としては、ウクライナと中東で2正面の対応を強いられているいま、台湾海峡で緊張が高まることは何としても避けたい立場です。
アメリカでもことし11月には大統領選挙があります。再選を目指すバイデン大統領としては、国内問題に集中する上でも中国との対立が先鋭化することがないよう、状況を注視していくものと見られます。
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