市政をひらく安中市民の会・市民オンブズマン群馬

1995年に群馬県安中市で起きた51億円詐欺横領事件に敢然と取組む市民団体と保守王国群馬県のオンブズマン組織の活動記録

公園市有地をタダで神社に利用させて住民監査で勧告を受けても最小限しか対応しない前橋市の無策行政

2022-09-21 10:15:21 | 前橋市の行政問題

前橋公園に隣接する前橋東照宮の周辺整備状況図。住民訴訟を契機に著しい改善が見られる

■県庁と裁判所の近くにある前橋公園は、群馬県庁舎、前橋市庁舎、地方裁判所の近くに位置しており、江戸時代前橋藩の城内の一角を占めています。春の桜のシーズンには花見客でにぎわうこの公園で、とんでもないことが起きていました。

 今回ご紹介する前橋市を巡る行政事件では、一級建築士の資格をお持ちの原告住民が弁護士に頼らず本人訴訟のかたちで原告として前橋市を相手取り住民訴訟を提起しました。当会は、たまたま4月22日(金)午前10時30分に当会が群馬県知事山本一太を相手取り住民訴訟を係争な行方不明建設残土量に係る損害賠償請求事件(通称「渋川残土問題事件」。事件番号:令和元年(行ウ)第13号)の第14回口頭弁論のため、前橋地裁第21号法廷に出頭した際、この事件を知りました。

 なぜなら開廷票に、続いて午前11時から住民監査請求に対する措置対応不服請求事件(事件番号:令和3年(行ウ)第11号)として、前橋市民のかたが、前橋市長山本龍を相手取り、住民訴訟をしていることが記されていたからです。

*****21号法廷(本館)開廷表*****
令和4年4月22日 金曜日
●開始/終了/予定:10:30/11:00/弁論
○事件番号/事件名:令和元年(行ウ)第13号/行方不明建設残土量に係る損害賠償請求事件
○当事者:小川賢/群馬県知事山本一太
○代理人:―――/紺正行
○担当:民事第2部合議係 裁判長 杉山順一
             裁判官 兼田由貴
             裁判官 竹内 峻
             書記官 近藤亜由美

●開始/終了/予定:11:00/11:30/弁論
○事件番号/事件名:令和3年(行ウ)第11号/住民監査請求に対する措置対応不服請求事件
○当事者:■■■/前橋市長山本龍
○代理人:―――/紺正行
○担当:民事第2部合議係 裁判長 杉山順一
             裁判官 兼田由貴
             裁判官 竹内 峻
             書記官 近藤亜由美

●開始/終了/予定:11:30/12:00/弁論
○事件番号/事件名:令和3年(ワ)第98号/損害賠償請求事件
○当事者:平形真理/吾妻広域町村圏振興整備組合
○代理人:羽鳥正雄/田中善信
○担当:民事第2部合議係 裁判長 杉山順一
             裁判官 兼田由貴
             裁判官 竹内 峻
             書記官 近藤亜由美
●開始/終了/予定:13:10/17:00/弁論(本人及び証人尋問)
○事件番号/事件名:令和元年(ワ)第581号/必要費償還等請求事件
○当事者:株式会社上毛新聞TR/株式会社ヤマダホールディングス
○代理人:坂入高雄/高根和也
○担当:民事第2部合議係 裁判長 杉山順一
             裁判官 板野俊哉
             裁判官 竹内 峻
             書記官 近藤亜由美
**********

 さっそく当会の事件の審理が終わった後、当該事件を傍聴しました。裁判長は同じく杉山順一裁判長で、被告席にいるのも、当会が係争中の渋川残土問題の被告群馬県の訴訟代理人の紺正行弁護士が、引き続きで法廷内に陣取っています。

杉山裁判長「この件については第1回以降、弁論準備を4回行いましたので、そこでしていただいた主張それから書面提出については、当裁判所は把握しておりますので、弁論準備の結果を陳述するということでよろしいでしょうか?」

原告・被告「はい。」

杉山裁判長「で、前回確認させていただいたように、以上で双方に主張ないと言うことで判断してよろしいですね?」

原告・被告「はい。」

杉山裁判長「以上で弁論を終結いたします。判決言渡しは7月15日(金)、13時5分から、21号法廷でとさせていただきます。」

■弁論後、原告住民ご本人にヒヤリングを申し入れたところ、当会の活動についてもよくご存じでした。

 ヒヤリングに快く応じていただいた、この事件の原告で地元前橋市在住のかたは、かつて建築業界では官民を問わず、数々のプロジェクトに携わったことのある著名な方です。リタイヤ後も、大学の教壇に立って建築分野の人材育成に尽力し、それも定年になると自治会の仕事を手伝うようになり、地元自治会の副会長を務める中で、今回の不正に直面しました。原告住民によれば、「弁護士に相談しても、市を相手にやる事件の依頼は、皆断わられてしまった。私は、東京で仕事をしていたころ、設計盗作などの被害にあい著作権訴訟も手掛けたことがあったが、費用や事案が面倒なのは事実。弱ったなと思いつつ、仕方がないので本人訴訟でやろうと決めた」ということです。

 原告住民の説明によると、事件の舞台は、裁判所のすぐそばにある前橋公園で、裁判長には、歩いて2分なので、昼休みにでも足を運んでほしいと願ったが、一度も見に来られた様子が見えない、とのことです。

 この前橋公園の北側の一角に東照宮という神社があります。原告住民は、地元自治会の活動を通じて知ったのでしょう。市との境界線をはみ出して、神社の建物が建っていることがわかったので「これはまずいね」ということで、監査請求を前橋市長に一昨年10月頃提出しました。

■監査委員の監査結果によると、「これは市として分かっていることであり、毎年5年ごとに東照宮と覚書を交わして、市との間で了解していることである」としたうえで、「しかし、市との境界からはみ出している事実が確認できたので、この部分に対して、最小限の費用で貸し出すこととする」(注:下線部は当会追記)という勧告が記されていました。

 この監査結果を見た原告住民は、「最小限」という表現に違和感を抱き、「それは何なのか?」と疑問がわきました。なぜなら、前橋市住民として監査請求を出したのも「最小限の義務」を果たしたからです。この場合、「最小限」というのは、必要最小限という意味であり、決して、いい加減な結果を想定したわけではありません。

 そこで、必要最小限の情報として、原告住民は前橋市に「神社とは、どのような契約をしたのか?」と尋ねたのですが、前橋市は一向に教えてくれません。原告住民は、監査結果の勧告とそれに対する前橋市の対応が、自分が求めていたものとかけ離れていたため、不服事件ということで訴状提出に踏み切りました。監査請求に対して市が措置をとったものの、それが請求した者にとって不服であるということで、事件名を「監査請求措置対応不服事件」としました。

 なお後日分かったことですが、当該覚書には境界線を明確にするための垣根などをつくることも約束していたのです。監査では覚書の内容について明確にしていませんでした。

■この事件は、前橋市の市有地と東照宮の私有地との間の境がハッキリしていないことが、発端で起きました。それと同時に、東照宮が、境を超えて市の土地を私物化していました。この実態を調査した原告住民は、地元自治会の住民のみなさんに前橋公園と神社の境をきいてみたところ、あまりにもあやふやな認識に驚き、「実際に法律上はこうなっているよ」と説明すると、「それじゃあ、この生け垣はとっぱらってもらおう」と、住民訴訟の必要性に共感して、当初は原告住民に加えて多数の住民による連名で訴状を提出することも検討しました。

 ところが、不服事件は監査請求をした当人しか出せないことが判明し、やむなく原告住民一人で提訴に踏み切りました。

■前橋市は、東照宮と覚書や契約を交わしていましたが、このことについて、原告住民が市会議員に聞いても誰も何も知らないことが分かりました。山本龍市長ですら知らないため、もしかしたら、現場の前橋公園事務所と東照宮の間で勝手に契約などを結んでしまったのではないか、ということも想像できます。実際に、市会議員に聞いてみても、「ちっぽけな契約だから、目くじらを立てるまでもない」という認識のようです。

 しかし原告住民は、「これは市民にとっては大変な問題であり、例えば通常、市が管理する道路などでは、市の財産とみなされる。こういう市の財産を勝手に市の一部局の、しかも課長以下の係長クラスが、しかも市会議員に報告しないで内緒に進めていたと言うのはおかしいのではないか」と疑問を抱きました。

■前橋市役所と言えば、飲酒運転の常習犯や、不倫、文書偽造は日常茶飯事、果ては強制わいせつまでしでかした管理職や、ストーカー殺人で全国的に名をはせた職員など、ユニークな職員を何人も抱えていたことで知られています。原告住民は、この事件を巡り、被告前橋市が法廷で弁論するのを聞いているうちに、「前橋市行政は、最終弁論まで、市民の立場に全く立とうとしないまま、自分の都合のいい主張ばかり終始した。私は原告として被告に対し、近隣住民、自治会とか公園利用者の視点から訴えてきた。しかし、被告は市民に奉仕するべき立場と視点をないがしろにしている」と痛感させられました。

 原告住民は、被告の提出した準備書面において、「被告前橋市は、市民に奉仕するべき立場と視点が著しくかけている」と一貫して主張しました。そしてこれに対する前橋市からの反論もないまま、弁論準備が終わりました。弁論の形態としては、最初の第1回弁論は公開でしたが、以降の4回の弁論はすべて弁論準備として非公開で開かれました。その結果、上記のやり取りのように、第5回目となる4月22日の公開の場での弁論で結審したわけです。

■原告住民は、住民訴訟の弁論を指揮した裁判所に対しても疑問を感じる、と言います。弁論準備のなかで、裁判所から事務連絡で、たとえば「原告の主張は、たとえば会計に関わることではないのではないか?」と釈明を求めてきました。「どうも、裁判所は行政に忖度しているようだ」という疑問がずっと付きまといました。当会も長年にわたる住民訴訟の経験から、「そうなんです。だから(裁判所は)レフェリーではないんです」と感想を述べました。

 原告住民は、弁護士についても疑問を抱いています。知り合いの東京の弁護士に訴状の案を見せて聞いてみたところ、「これ負けるね」と言われました。原告住民は、それでも「負けても良いが記録が残れば」と、気を取り直して、住民訴訟に踏み切らなければと思いました。そしたら、裁判が進行するに伴い、被告前橋市は、ずるずると準備書面段階で、当初の主張を変えてきました。「原告の主張は取り入れたから、非難される根拠はない」と言いはじめたのでした。要するに、「お金(の問題)が済んだから、問題となる事象は存在しない」という論点なので、役所のいつものやりかたです。

 当会も「弁護士に法律的な解釈の相談を1時間5500円はらって相談するのはよいのですが、訴訟代理人として行政訴訟業務を委任するのに30万円を支払っても、弁護士は行政に忖度するので、必死になってやってくれません。だから本人訴訟を選択した貴殿の判断は正しいですよ」とコメントを差し上げました。

■原告住民は、前橋公園の地図(冒頭の写真参照)を示して、当会に以下の説明をしてくれました。

「ここにほら、さっき言った境界です。こっちが、市の土地。本来はね。ところが、こういうところに生け垣をこういうところに作ったりしたから、どうみてもこっち側がこの神社の土地に見えるんですよね。それはもう明らかにね。だってここに門まであるから。しかも鳥居が市の敷地に建っているから。そしたら、誰も指摘しなかった。だから私が『これはおかしい』と、弁論準備の段階で主張したんです。すると市は『じゃ、つい最近鳥居はもう撤去しましたから、だからあなたの指摘したところは根拠を失っていますよ』と言い始めたんです。市は『何か訴えられたのでそのとおりにしました。だから訴えはもうないですね』という言い分ですが、でも、そういう意味ではないですよね」

 当会は、「それは行政訴訟で、裁判所と弁護士が結託して、原告に必ずと言ってよいほど持ち出してくる定番の論理です。訴えの利益がないとか、訴訟資格はないとか、彼らの常とう手段です」とコメントしました。

 原告住民はさらに裁判で前橋市の主張についての疑問点を示しました。

「あと、こういうのが会計上にあたるか、ということ。市の言い分では、『東照宮の賃貸料を決めているのは、これは公共事業と公益事業と同じ、まあ、いわゆる利益追求ではないので安く貸し出す』というのですよ。実際に東照宮は、ここ(越境ゾーン)で喫茶店をやっている。だから事業として、公益事業かもしれないが神社付属の喫茶店であれば営利事業となるはず。これは営利事業の条件で貸し出すべきだと言っています。1.5%で貸し付けているが営利なので2.6%で算定すべきだと。こういう事業なのに、前橋市の課がやっているんです。このことも問題ですが、それよりも、これまで50年経っている状況なので、違法な建築物は壊させるべきです。しかも、耐震上問題のある建物なのに、それを東照宮が勝手に建ててしまい、境界線からはみ出ていたことが公になったため、東照宮が市に『だから(市有地を)貸してくれ』というのは、本末転倒ではないか、と原告として主張しました。」

「ところが市は『代々50年前からここはそういう条件で覚書が作っている』と弁明してきました。5年ごとに覚書を交わしているというが、口約束も同然。しかも市は『今度はあらためて覚書を作った』と言い始めたんです。『じゃあ、それを見せてくれ』と市に要請したら、市は今度『これを全部、令和7年になったら売る』と言ってきました。市は、東照宮とそういう覚書を交わしていることが判明しましたが、議会にも知らせないままで、市の財産を勝手に売るなど、到底考えられないことです。しかも、既に全部測量を済ませて売るための準備をしていました。裁判でそれがバレたから、もうストップになったんです。こういうことで最終的に、(公園内にあった)鳥居も生け垣も全部撤去されました。おかげで、今年の4月、市内外の皆さんは、桜見物でここを自由に楽しそうに歩いていました。その光景を私も観察していて、『ああこれで良かったな』と感慨を覚えました」

■原告住民は、マスコミに対しても不信感を募らせています。

「こういう住民訴訟を提起したら、最初に、上毛新聞の記者が取材に来ました。『あなたが提出した訴状を見せてほしい』というので、こちらは素直だから、すぐに見せました。その後も、裁判資料を求められるままに見せたが、その後、さっぱりフォロー記事を書いてくれない。むしろ市側に忖度しているのかも…」

 ちなみに上毛新聞は、2021年8月17日に『市の対応に不服 男性が住民訴訟 前橋東照宮巡り』と題して小さく記事を掲載しました。それ以前には、2021年1月21日にも『東照宮が半世紀無償利用 前橋の公園市有地 監査委が市に是正勧告』という記事を掲載しています。上毛新聞が行政側に軸足をおく報道をしがちなことは、当会もなんども経験しております。現場の記者の皆さんは、熱心に取材してくれるのですが、結果的にそれが紙面の掲載されない原因は、デスクとよばれる編集長が、バイアスのかかった編集判断をするためであることは、これまでの経験から当会も承知しています。

■原告住民は、8か月間の住民訴訟を振り返り、感慨深げに感想を述べておられました。

「だから、私はたぶんこの裁判では負けるとは思うが、負けても実を取れたからね。素晴らしい成果が上がったと思っています。なにしろここが、散策路として取り戻せたのだから。ぜひこのあと広々した公園の現場を見てきてください」

「それにしても、市の答弁書には呆れますね。原告の請求の趣旨に対して、『全面的に棄却する。訴訟費用は原告の負担とする』などと平然と記してきます。それについても、なぜ行政が反省もせず、根拠も示さず反論してくるのでしょうね。しかも我々の税金で、弁護士を雇って対抗してきます。それで訴訟して敗訴したら、かかった費用はまた払えというのでは、かないません。自分では多分負けると思っているので…」

 当会は原告住民の方に「住民として裁判に負けても、これまで何十回もやって一度も勝ったことがありませんが、住民訴訟で敗訴しても訴訟費用を請求されることはまずないので、安心してください」とお伝えしました。

■最後に原告住民の方がおっしゃったのは、次の見解でした。

「今回訴訟という手段をとらせてもらいましたが、裁判をしないと、こういう役所内部の書類が表に出てきません。裁判に踏み切ったからこそ、出てくるわけです。おかしなことに、情報公開請求だと絶対出てきません。これは、私にとっても初めての経験です」

 ということで、同じ経験を持つ当会としても、非常に共感に値するコメントです。結びとして原告住民が語ったのは次の感想です。

「でも7月15日の判決ではおそらく負けるとしても、当初はね、なんか原告の私の方を、軽視する感じだったんですよ。それが、だんだんやっていくうちに裁判所のほうも『なるほどなあ』と聞く耳を持ってきてくれたので、敗訴判決が言い渡されるでしょうが、どういう判決が出るのか楽しみです」

■たった一人で、しかも地元自治会の副会長として、その財産を守るという強い意志を持って、いい加減な前橋市行政を質そうとした原告住民の熱意と努力は、まさにオンブズマン活動のエッセンスを凝縮して体現した結果であり、今後とも、互いに必要に応じて連絡を取り合うことで同意しました。

 そして、ついに7月15日の判決日を迎えました。午後1時5分前に地裁に着き、玄関から入って2階の21号法廷に行くと、エレベーターロビーや廊下で大勢の関係者がたむろしていました。傍聴席にも結構大勢の人を見かけました。

 まもなく定刻の午後1時5分になり、杉山裁判長が陪席裁判官2名を連れて入廷してきました。全員起立して一礼し着席すると、近藤書記官が「令和3年行ウ第11号」と事件番号を読み上げました。そして、杉山裁判長が「それでは判決言渡しをいたします。主文のみでございます。1、本件訴えを却下する。2、訴訟費用は原告の負担とする」と言い終わるなり、法定を退出していきました。その間、わずか30秒足らずでした。

 原告住民に「この間はどうも」と挨拶をしました。原告住民は「だいたい、こうなるかなと思っていました」と判決の感想を述べました。続けて「でも実際は、勝訴したようなものです」とおっしゃいました。書記官から判決文の写しは3階で交付されると告げられたので、一緒に3階の民事第2部の窓口に向かいました。

 原告住民が、判決文の写しの交付を受けている間、エレベーターホールのベンチで待っていると、思いもかけず、原告住民の奥様から声をかけていただきました。筆者は思わず、自らの経験から「奥様の理解があったからこそ、ご主人はここまで裁判を続けることができたのだと思います」とコメントを述べました。奥様も「これ(住民訴訟)をやらなければ、今の公園整備は全然実現しなかったんですよ。おかげでだいぶ良くなりました。それと、裁判をやっていなければ、いろいろな資料は手に入りませんでした」と、ご主人と同じように住民訴訟の意義を理解しておられました。

 判決文はかなりの分量でしたので、後日コピーを電子ファイルでお送りいただくことにして、原告住民ご夫妻とお別れしました。

■7月26日に判決文を送っていただいたので、さっそく拝読しました。

*****7/15判決文*****
令和4年7月15日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和3年(行ウ)第11号 住民監査請求に対する措置対応不服請求事件
口頭弁論終結日 令和4年4月22日
          判         決
  前橋市大手町3丁目6番12号
       原       告     ■   ■       ■
  前橋市大手町2丁目12番1号
       被       告     前   橋   市   長
                     山   本       龍
       同訴訟代理人弁護士     紺       正   行
       同 指 定 代 理 人      狩   野       健
       同             石   原   則   之
       同             風   間   健   一
          主         文
        1 本件訴えを却下する。
        2 訴訟費用は原告の負担とする。
          事 実 及 び 理 由
第1 請求の趣旨及び原因
 1 本件訴えの請求及び原因は、別紙の訴状(写し)、令和3年6月4日付け回答書(写し)及び訴状訂正申立書(写し)に各記載のとおりであり、要するに、本件訴えは、前橋市が前橋公園の用地となっている土地(以下「本件公園用地」という。)を所有及び管理し、宗教法人東照宮(以下「前橋東照宮」という。)が本件公園用地に隣接する土地(前橋東照宮の境内地。以下「本件境内地」という。)を所有しているところ、前橋市の住民である原告が、前橋市の執行機関である被告を相手方として、①被告が、前橋市が前橋東照宮に対して本件公園用地の一部を賃貸する旨の契約(以下「本件賃貸借契約」という。)に係る契約書(以下「本件契約書」という。)及び前橋東照宮が前橋市から令和7年3月31日を期限として上記の一部の士地を買い取る旨の合意(以下「本件合意」という。)に係る覚書(以下「本件覚書」という。)の原告に対する開示を違法に怠っていると主張して、地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項3号の規定に基づき、当該怠る事実が違法であることの確認を求め(以下「本件訴え①」という。)、②前橋市が前橋東照宮との間で本件賃貸借契約及び本件合意を締結することは政教分離原則に違反し違法であると主張して、同項1号の規定に基づき、本件賃貸借契約及び本件合意の締結の差止めを求め(以下「本件訴え②」という。)、③前橋市が前橋東照宮との間で本件公園用地と本件境内地との境界と管理に閲する契約の締結を違法に怠っていると主張して、同項3号の規定に基づき、当該怠る事実が違法であることの確認を求め(以下「本件訴え③」という。)、④前橋市が本件境内地内に前橋公園を利用する者が車両で進入可能な園路があること及び前橋公園内の駐車場も利用可能であることを表示する看板の設置を違法に怠っていると主張して、同項3号の規定に基づき、当該怠る事実が違法であることの確認(以下「本件訴え④」という。)を求めた住民訴訟であると解される。
 2 前提事実(争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)
  (1) 当事者等
   ア 原告は、前橋市の住民である。
   イ 被告は、前橋市の執行機関である。
   ウ 前橋市は、普通地方公共団体であり、本件公園用地(前橋市大手町3丁目600番1の土地及びその周辺の土地)を所有し、同士地を前橋公園として管理している。
   エ 前橋東照宮は、宗教法人であり、本件公園用地と隣接した本件境内地(前橋市大手町3丁目13番1、同2及び同3の各土地)を所有している。
     なお、同土地上には、前橋東照宮が管理する本殿、拝殿、社務所(以下「本件社務所」という。)等の建物があり、本件社務所の一部が本件公園用地」に存在する。
  (2) 原告の住民監査請求
    原告は、令和2年10月21日、前橋市監査委員に対し、同日付け「前橋市職員措置請求書」と題する書面(乙1)により、住民監査請求をし、同月26日、同日付け「前橋市職員措置請求書・補正書」と題する書面(乙2)により、上記の住民監査請求の内容を補充した(これらを併せて、以下「本件住民監査請求j という。」、その内容は、要旨、次のとおりである。
   ア 前橋市は、前橋東照宮に対し、無償で本件公園用地の一部を使用させており、同土地の適正な管理を怠っている。
   イ 前橋市は、前橋東照宮との間で、上記アに記載の本件公園用地の一部の使用に係る賃貸借契約又は売買契約を締結し、前橋東照宮にその正当な対価を支払わせるべきである。
   ウ 本件公園用地と本件境内地との境界が不明瞭であり前橋市民にとって不便であるから、前橋市は、本件公園用地の財産管理を徹底して境界を明確化すべきである。
  (3) 住民監査請求に対する監査結果
    前橋市監査委員は、 上記(2)の本件住民監査請求を受け、令和2年12月16日頃、同請求のうち、本件社務所の一部が本件公園用地に越境している部分については理由があるものと認め、その余の請求を監査の対象外ないし棄却するとの判断をし、原告に対し、同日頃、その旨の通知をした。また、同委員は、同月18日頃、被告に対し、法242条5項の規定に基づき、①本件公園用地に本件社務所が越境している部分について、適切な財産管理に資する措置を講ずること、②本件公園用地の利用実態に鑑み、当該越境部分を前橋市が確保し続ける必要性について検討した上で、必要に応じて本件公園用地の一部の売却又は有償貸付を検討するなど、長年にわたる懸案事項の解消に努めることなどを勧告した。(甲1)
  (4) 前橋市の措置
    上記(3)の勧告を受け、前橋市は、令和3年3月15日付けで、前橋東照宮との間で、本件公園用地について、本件社務所の建物の一部が越境している部分があるところ、その部分を含めた最小限の土地を普通財産に変更した後、前橋東照宮に対して賃貸する旨の土地賃貸借契約(本件賃貸借契約)を締結するとともに、前橋東照宮が令和7年3月31日を期限として同土地の買取りを行う旨の合意(本件合意)を締結した(甲2、3)。
    前橋市監査委員は、令和3年3月19日頃、原告に対し、法242条9項の規定に基づき、同日付け「前橋市職員措置請求に係る監査結果に対する措置について(通知)」と題する書面(甲3)により、上記の措置内容を通知した。
  (5) 本件訴えの提起
    原告は、令和3年4月12日、本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。
 3 争点
  (1) 本件訴えの適法性(本案前の争点)
  (2) 財務会計上の行為又は怠る事実の違法性の有無
 4 争点及び当事者の主張
  (1) 争点(1)(本件訴えの適法性)について
   (原告の主張)
    本件訴え①及び本件訴え②の対象は「契約の締結・履行」であり、本件訴え③及び本件訴え④の対象は「財産の管理を怠る事実」であるから、法242条1項所定の財務会計上の行為又は怠る事実に該当し、いずれも住民訴訟として適法である。
   (被告の主張)
   ア 本件訴え①は、前橋市が本件契約書及び本件覚書の開示を怠っている事実が違法であることの確認を求めるものであるが、住民監査請求の前提がされていないから、不適法である。
   イ 本件訴え②は、本件賃貸借契約及び本件合意の締結の差止めを求めるものであるが、本件賃貸借契約及び本件合意の締結は既に完丁しているから、訴えの利益は消滅しており、不適法である。
   ウ 本件訴え③は、前橋市が前橋東照宮との間で本件公園用地と本件境内地との境界と管理の契約の締結を怠っている事実が違法であることの確認を求めるものであるが、住民監査請求の前提がされていないから、不適法である。
   エ 本件訴え④は、前橋市が看板の設置を怠っている事実が違法であることの確認を求めるものであるが、①看板の設置は、法242条1項所定の財務会計上の行為又は怠る事実のいずれにも該当しないこと、②請求の趣旨に含まれていないこと、③住民監査請求の前提がされていないことから、不適法である。
  (2)争点(2)(財務会計上の行為又は怠る事実の違法性の有無)について
   (原告の主張)
   ア 本件訴え①について
     被告は原告に対して本件契約書及び本件覚書の関示をせず、これを怠っているが、被告のかかる行為は違法である。
   イ 本件訴え②について
     本件公園用地は守られるべき市民の財産であるにもかかわらず、本件賃貸借契約及び本件覚書の内容は市民に不利で前橋東照宮に有利なものであり、同土地を普通財産に変え、前橋東照宮に売却することは不当であるから、差し止められるべきである。
   ウ 本件訴え③について
     本件公園用地と本件境内地との境界は、近隣住民及び公園利用者の視点からすると不明瞭のままであるから、前橋市は、前橋東照宮との間で、①本件公園用地と本件境内地との境界に柵や看板を設置して明確にすること、②本件公園用地内に存在する鳥居(以下「本件鳥居」という )を本件境内地内に移築すること及び③本件境内地内に園路(本件境内地と本件公園用地とを行き来するための通路)があることを表示することを内容とする「境界と管理に関する契約」を締結すべきであるのに、これを怠っていることは違法である(第2回弁論準備手続調書参照)。
   エ 本件訴え④について
     前橋市は、前橋公園の利用者に対し、本件境内地の北側にある道路(主要地方道前橋・安中・富岡線)から車両が進入可能な園路があることや本件公園用地内の駐車場も利用可能であることを表示する看板を設置すべきであるのに、これを怠っていることは違法である
   (被告の主張)
   ア 本件訴え①について
     本件契約書及び本件覚書は、前橋市の情報公開条例に規定する行政情報に該当すると考えられ、原告は、被告に対し、同条例の規定に基づき、当該行政情報の公開の請求を行うことができるのであるから、本件契約書及び本件覚書の公開に係る不作為について違法はない。
   イ 本件訴え②について
     本件賃貸借契約及び本件合意の内容は、前橋市監査委員の勧告に沿うものであり、前橋市民等の便益や前橋公園の価値を減少させるものでもない。また、前橋市が、前橋東照宮に対し、本件公園用地の一部を有償で使用させることは、政教分離の原則に直ちに反するものではない。
   ウ 本件訴え③について
     本件公園用地と本件境内地との境界に柵や看板を設置して明確にすべきとの点については、前橋市は、本件公園用地における本件境内地との境界付近において、園路のカラーペイント塗装の施工、車止めの設置、生垣の撤去等を既に実施し、さらに境界を明確にするために縁石の施工を行うなどし、境界管理を明確化している。
     本件公園用地内に存在する本件烏居を本件境内地内に移築すべきとの点については、前橋東照宮は、令和3年12月17日に本件鳥居を既に撤去しているから、原告の主張はその前提を欠くものである。
     本件境内地内に園路があることを表示すべきであるとする点については、本件境内地内に園路は存在しないから、原告の主張はその前提を欠くものである。
   エ 本件訴え④について
     上記ウに記載のとおり、本件境内地に園路は存在しないから、原告の主張はその前提を欠くものである。
第2 当裁判所の判断
 1 争点(1)(本件訴えの適法性)について
  (1) 本件訴え①について
    本件訴え①は、被告が原告に対して本件契約書及び本件覚書の開示を怠っている事実が違法であることの確認を求めるものであるところ、弁論の全趣旨(第2回弁論準備手続調書参照)によれば、被告は、令和3年11月19日頃、原告に対して本件契約書及び本件覚書を開示したことが認められ、もはや違法確認の対象である怠る事実が存在しないから、木件訴え①は、住民訴訟の類型に該当しない訴えとして、不適法であるというべきである。
  (2) 本件訴え②について
    本件訴え②は、本件賃貸借契約及び本件合意の締結の差止めを求めるものであるが、差止めの訴えにおいて差止めの対象とした行為が完了すれば差止めの余地がなくなるからかかる訴えは不適法になると解されるところ、前提事実(4)で認定したとおり、前橋市と前橋東照宮との間における本件賃貸借契約及び本件合意の締結は、令和3年3月15日頃に既に完了しているから、本件訴え②は、不適法であるというべきである。
  (3) 本件訴え③について
   ア 原告は、前橋市において、前橋東照宮との間で、①本件公園用地と本件境内地との境界に柵や看板を設置し明確にすること、②本件公園用地内に存在する本件島居を本件境内地内に移築すること、③本件境内地内に園路(本件境内地と本件公園用地とを行き来するための通路)があることを表示することを内容とする「境界と管理に関する契約」を締結しないことが、違法に財産の管理を怠るものである旨の主張をする。
   イ 上記ア①を内容とする契約を締結しないことについて
    (ア) 法242条の2に定める住民訴訟は、地方財務行政の通正な運営を確保することを目的とし、その対象とされる事項は、法242条1項に定める事項、すなわち公金の支出、財産の取得・管理・処分、契約の締結・履行、債務その他の義務の負担、公金の賦課・徴収を怠る事実、財産の管理を怠る事実に限られるのであり、これらの事項はいずれも財務会計上の行為又は事実としての性質を有するものである。そして、上記の住民訴訟の目的に照らせば、これらの事項のうち「財産の管理」とは、当該財産の経済的価値に着目し、その価値の維持・保全を図る財務的処理を直接の目的とする財務会計上の財産管理行為をいい、「財産の管理を怠る事実」とは、そのような財務会計上の財産管理行為を怠る事実をいうと解するのが相当である(最高裁昭和62年(行ツ)第22号平成2年4月12日第一小法廷判決・民集44巻3号431頁参照)。
    (イ) これを本件についてみると、原告は、前橋市において、前橋東照宮との間で、本件公園用地と本件境内地との境界に柵や看板を設置して明確にすることを内容とする契約を締結すべきである旨の主張をする。しかし、このような柵や看板の設置は、前橋公園の利用者等の便宜を図ることを目的として、同公園の施設を整え、公共の用に供するという公園管理行政の見地からする公園行政担当者としての行為ないし判断であって、これらの行為ないし判断に係る契約の締結が、前橋公園や本件公園用地の財産的価値に着目し、その価値の維持保全を図る財務的処理を直接の目的とする行為ということはできないから、上記ア①の内容の契約を締結しないことの違法を確認する訴えは、住民訴訟の類型に該当しない訴えとして、不適法であるというべきである。
   ウ 上記ア②を内容とする契約を締結しないことについて
     原告は、前橋市において、前橋東照宮との間で、本件公園用地内に存在する本件鳥居を本件境内地内に移築することを内容とする契約を締結すべきである旨の主張をする。しかし、弁論の全趣旨(第3回同弁論準備手続調書参照)によれば、本件公園用地内に存在した本件烏居は既に撤去されていることが認められ、もはや違法確認の対象である怠る事実が存在しないから、上記ア②の内容の契約を締結しないことの違法を確認する訴えは、住民訴訟の類型に該当しない訴えとして、不適法であるというべきである。
   エ 上記ア③を内容とする契約を締結しないことについて
     原告は、前橋市において、前橋東照宮との間で、本件境内地内に園路(本件境内地と前橋公園とを行き来するための通路)があることを表示することを内容とする契約を締結すべきである旨の主張をする。しかし、上記イで判断をしたとおり、仮に本件境内地内に原告が主張するような園路が存在するとした場合であっても、その園路に係る表示は、前橋公園の利用者等の便宜を図ることを目的とした公園行政担当者としての行為ないし判断を前提とするものであって、その行為ないし判断に係る契約が、前橋公園や本件公園用地の財産的価値に着目し、その価値の維持・保全を図る財務的処置を直接の目的とする行為であるということはできないから、上記ア③を内容とする契約を締結しないことの違法を確認する訴えは、住民訴訟の類型に該当しない訴えとして、不適法であるというべきである。
  (4) 本件訴え④について
    原告は、前橋市において、本件境内地内にその北側にある道路(主要地方道前橋・安中・富岡線)から車両が進人可能な園路があること及び本件公園用地内の駐車場も利用可能であることを表示する看板を設置すべきである旨の主張をする。しかし、上記(3)イ及びエで認定及び判断をしたところと同様に、上記のような看板の設置は、前橋公園や本件公園用地又は上記の道路の財産的価値に着目し、その価値の維持・保全を図る財務的処理を直接の目的とする行為ということはできないから、本件訴え④は、住民訴訟の類型に該当しない訴えとして、不適法であるというべきである。
 2 以上によれば、本件訴えは、不適法であるから、これを却下することとして、主文のとおり判決する。
    前橋地方裁判所民事第2部

      裁判長裁判官  杉山順一
         裁判官  兼田由貴
         裁判官  竹内 峻
**********

■やはり、原告住民が予想していた通りの判決内容です。そして当会として気になったのは、判決文の「第1 請求の趣旨及び原因」のところで、原告住民の請求が次の4分割になっていることでした。

被告が、前橋市が前橋東照宮に対して本件公園用地の一部を賃貸する旨の契約に係る契約書及び前橋東照宮が前橋市から令和7年3月31日を期限として上記の一部の士地を買い取る旨の合意に係る覚書の原告に対する開示を違法に怠っていると主張して、地方自治法242条の2第1項3号の規定に基づき、当該怠る事実が違法であることの確認を求めること
前橋市が前橋東照宮との間で本件賃貸借契約及び本件合意を締結することは政教分離原則に違反し違法であると主張して、同項1号の規定に基づき、本件賃貸借契約及び本件合意の締結の差止めを求めること
前橋市が前橋東照宮との間で本件公園用地と本件境内地との境界と管理に閲する契約の締結を違法に怠っていると主張して、同項3号の規定に基づき、当該怠る事実が違法であることの確認を求めること
前橋市が本件境内地内に前橋公園を利用する者が車両で進入可能な園路があること及び前橋公園内の駐車場も利用可能であることを表示する看板の設置を違法に怠っていると主張して、同項3号の規定に基づき、当該怠る事実が違法であることの確認を求めること

 住民訴訟の原則は、行政に代理して税金の無駄遣いや行政の不当な権限の行使の是正に対して、自らの利益にならないことから、一律、「算定不能」として訴額160万円として収入印紙1万3000円の手数料で済むはずです。ところが、前橋地裁では、最近の傾向として、請求の趣旨をはき違えて、原告の請求内容を子細に区分し、なるべく小分けにして件数を増やそうとする傾向にあります。

 このことから、この事件でも、4件分として原告住民に5万2000円の手数料納付を命じたのではないか、と気にかかり、原告住民のかたに確認してみました。すると、やはり「訴額ですが、住民訴訟では一律160万円と聞いておりましたが、160万円×4件ということで、手数料も1万3000円+3万9000円+郵券代6000円を納めるよう事務連絡をしてきました。そのため指示に従い、納入しました」とのことでした。

 原告住民の方はさらに、「訴状で、訴訟費用は被告の負担とするとしたのですが、原告の負担との判決でした。しかし被告側の費用は、税金で負担しているので、支払わないつもりです」とおっしゃっていました。そのため、当会からは、「住民訴訟でたとえ敗訴しても、被告行政側から訴訟費用を請求されることは絶対にありません。また訴訟費用には、相手方の弁護士費用は含まれず、交通費と通信代のみ対象となるだけです」とコメントを差し上げました。

■こうして、この事件でも、裁判長からの指揮で、本来、自らの直接的利益とならない算定不能なはずの住民訴訟の訴額160万円がこのような形で、水増しさせられて、行政の不正を追及するという納税者住民の崇高な精神を軽視する裁判所の姿勢は、つくづく民主主義に背くものだと痛感させられます。当市民オンブズマン群馬としても、この問題は法務省に対して迅速な是正措置の必要性をアピールしてまいります。

 このように、一般市民のなかにも、行政を相手取って、本人訴訟でしっかりと訴訟を通じて、行政の不正行為の是正に取り組んでいるかたがいらっしゃることに、当会としても意を強くした次第です。

【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】

※参考資料
*****住民監査請求の監査結果*****
                    内 監
                    令和2年12月18日
前橋市長 山本 龍様
                   前橋市監査委員 (略)

   前橋市職員措置請求(住民監査請求)に係る措置について(勧告)

 令和2年10月21日に提出のあった前橋市職員措置請求書について・・・(略)・・・別紙監査結果のとおり勧告します。
 つきましては、・・・(略)・・・、令和3年3月19日(金)までに、勧告に基づき講じた措置を通知してください。

==========
          前橋市職員措置請求監査結果

第1 請求の受付
 1 請求人
   住所・氏名 (略)

 2 請求書の収受日
   令和2年10月21日

 3 補正書面の収受日
   令和2年10月26日

 4 請求の内容
   請求・・・(略)・・・の要旨は次のとおりである。
  (1) 請求の要旨
    前橋市(公園管理事務所)が前橋公園用地の北側部分の土地の境界を明確化せず、隣接する前橋東照宮に対し不当に前橋公園用地を使用させていることは、公有財産の適正な管理を怠る事実に当たる。
    また、前橋市の土地を50年近くも無償で使用できるとは社会通念上ありえない。正規の賃貸契約又は売買契約のもと、正当な対価を支払うべきである。
    更に、前橋公園と前橋東照宮の境界が前橋市民にとって不明瞭であるため、散歩などで立ち入れなかったり、時々通行禁止となるなど不便である。
  (2) 請求する措置の内容
    前橋市は、前橋東照宮と正規の賃貸契約又は売買契約を結び、前橋東照宮に対して正当な対価の支払いを求めるとともに、前橋公園用地の財産管理を徹底して境界を明確化するべきである。
    大手町三丁目600番1に建つ建物の違法行為を明確にし、罰金科料するべきである。

 5 請求書の要件審査
   本件措置請求について、・・・(略)・・・、これを受理した。

第2 監査の実施
 1 監査対象項目
  (1) 怠る事実の確認
    前橋公園用地の北側部分の土地の境界が不明瞭で、市が隣接する前橋東照宮に前橋公園用地を使用させていることは、違法若しくは不当に公有財産の管理を怠る事実に当たるか。
  (2) 損害の有無の確認
    上記について、当該土地の対価である使用料を徴収しなかったことにより、市に損害が生じているか、又は生じる恐れがあるか。
  (3) 求められた措置への対応
  請求人から求められた措置を行う必要があるか。
    なお、大手町三丁目600番1に建つ建物の違法行為を明確にして罰金科料を科すことを求める請求は、・・・(略)・・・必要な措置を講ずべきことに当てはまらないため、監査の対象外とした。
 2 監査対象部局
   建設部公園管理事務所

 3 請求人の証拠の提出及び陳述
   請求人に対し、・・・(略)・・・、新たに証拠となる資料の提出はなかった。請求人は政教分離の徹底を求めるとともに、請求事項のうち主として士地の境界を正確に設定することを求める陳述を行った。陳述には、建設部公園管理事務所(以下「公園管理事務所」という。)の職員が立ち会った。

 4 監査対象部局の書類の提出及び関係職員の陳述等
   公園管理事務所に、監査対象項目に関する資料の提出を求め書類審査を行うとともに、令和2年11月20日に関係職員である公園管理事務所長、同所所長補佐、同所副主幹に対する陳述の聴取を行った。・・・(略)・・・。陳述には請求人が立ち会った。

3 事実関係の確認
 1 書類審査等による事実確認
  (1) 前橋東照宮(以下「東照宮」という。)による公園用地の使用を前橋市が認めるに当たり、都市公園法に基づく占用手続を省略して覚書による使用承認に至った理由、経過及び使用条件に関して次のとおり確認した。
  【事実の発生】
   ア 昭和44年7月23日付け市長決裁の起案「東照宮社務所建築に伴う公園用地使用の取扱について(伺)」において、東照宮宮司及び氏子総代名で提出された嘆願書及び東照宮との協議に基づき、覚書を取り交わし無償で東照宮の公園用地使用を認めた。なお、嘆願書の内容は、・・・(略)・・・公園用地の一部の使用を認めてもらいたいとするものであった。
   イ 覚書を取り交わした理由は、中央大橋架橋に伴う街路事業に積極的に協力してもらうためであった。
   ウ 覚書の内容は以下のとおりである。(本件措置請求に関わる部分を抜粋)
   ・覚書締結日 昭和44年7月24日
   ・街路事業の執行に伴い、東照宮は前橋市に協力し土地の買収に応じ、前橋市は東照宮が建築する社務所の一部が前橋市が管理する公園用地の一部を占用することを承認する。占用面積は52.78㎡。
   ・占用料は無料とし、・・・(略)・・・境界線は両者立会いのうえ確認する。
   ・管理上の新境界について東照喜は・・・(略)・・・園地の保全に努力するものとする。
   ・本覚書による施策のため必要な費用は全て東照宮の負担とする。
   ・本覚書により、都市公園法による占用の取扱いは省略するものとし、占用の期間は覚書の有効期間とする。
  【経過1 使用許可面積の拡大及び専用使用の承認】
   ア 昭和46年3月9日付け市長決裁の起案「中央大橋架橋にかかる東照宮からの陳情の処置について(伺)」において、東照宮から提出された陳情書の内容を受け入れ、・・・(略)・・・東照宮の専用使用を認めた。なお、陳情書の内容は、・・・(略)・・・4m程度の車路を設置してほしいというものであった。
   イ 覚書再締結の理由は、・・・(略)・・・、陳情を受け入れざるを得ないものと判断したためである。
   ウ 覚書締結に当たり、現地を実測した結果、東照宮は昭和44年に取り交わした覚書で認めた利用境界を越境して89.28㎡の公園用地を使用していたことが判明した。
     ただし、これらは結婚式場及びこれに引き続き建築された写真館等の建設により生じたものであり、越境部からの原状回復は極めて困難であった。
   エ 覚書の内容は以下のとおりである。(本件措置請求に関わる部分を抜粋)
   ・覚書締結日 昭和46年3月20日
   ・前橋市及び東照宮は、街路事業の円滑な完遂を図るため、相互に協力を行うものとする。
   ・・・(略)・・・
   ・本覚書により、都市公園法による占用の取扱いは省略するものとし、占用の期間は5か年とする。
  【経過2 東照宮の専用使用を廃止して一般市民も利用できるように変更】
   ア 昭和56年11月16日付け市長決裁の起案「東照宮結婚式場改築による公園地の使用陳情の扱いについて(伺)」において、昭和46年覚書締結後の状況変化を勘案しつつ、東照宮から提出された陳情書及び願書の内容を受け入れて、覚書を更新した。・・・(略)・・・。
   イ 覚書を取り交わした理由は、次の3点である。
   ・東照宮は、・・・(略)・・・市行政に協力していること。
   ・公園用地と東照宮境内は昔から一体的に扱われ、・・・(略)・・・境内地と公園の両者にまたがる利用も多く、事情やむを得ないと思われること。
   ・昭和44年7月24日付けで容認した区域内での結婚式場改築であり、市の犠牲を最小限にとどめられること。
   ・なお、市の犠牲とは東照宮による占用面積を最小限に抑えることができるという意味であると思われる。ちなみに起案に記載されていた結婚式場改築に伴う公園用地への越境面積は、1階部分8.65㎡、2階部分29.72㎡の計38.37㎡である。
   ウ 覚書の内容は以下のとおりである。(本件措置請求に関わる部分を抜粋)
   ・覚書締結日 昭和56年12月4日
   ・この覚書は、東照宮の建築物の改築にあたり中央大橋架橋に伴う街路事業の執行に際しての覚書(昭和46年3月20日付け交換)を尊重しながら現状に即したものとして改めたものとする。
   ・東照宮が利用できる建築敷地は前回の覚書により前橋市が承認している区域を超えないものとする。
   ・境内への地元車両出入りの利便のための通路については、東照宮の専用とせず一般市民の利用できる園路として共用するものとし、その管理上必要な柵等の設置は東照宮が行うものとする。
   ・東照宮は建築敷地と通路の境界を生垣などにより施工し、園地の保全と修景に特に配慮し、日常の管理を行うこと。
   ・本覚書により、都市公園法による占用の取扱いは省略するものとし、占用の期間は5か年とする。
  【経過3 昭和56年12月4日付け覚書の更新 】
   ア その後も覚書は更新され続け、現行の公園用地使用許可期間は令和2年4月1日から令和7年3月31日までである。なお、覚書は5年ごとに更新されているが、更新手続の末了を2回確認した。
   イ 起案に添付されていた求積図において、東照宮の使用を認めている土地の範囲は、昭和46年3月20日付け覚書から現在に至るまで変更されていないが、許可面積については測量に基づき187.77㎡(以下「覚書締結部分」という。)であることを確認した。
  【法令上の適合性に対する認識について】
   ア 市長決裁を受けた起案3件のうち2件において市側には、東照宮と覚書を取り交わして公園用地の使用を認めることは、都市公園法上望ましくないとの認識があったことを確認した。
   ・昭和44年7月23日付け市長決裁起案
   「東照宮社務所建築に伴う公園用地使用の取扱について(伺)」
   ・昭和56年11月16日付け市長決裁起案
   「東照宮結婚式場改築による公園地の使用陳情の扱いについて(伺)」
    ・・・(略)・・・
  (2) 公園用地の財産管理及び境界の状況を明らかにするため、請求人が事実証明書において示した「東照宮が使用している市有地の範囲」(以下「請求対象区域」という。)の土地に関して次の事項を確認した。
   ア (略)
   イ (略)
   ウ (略)
   エ 請求対象区域は、東照宮からの申請に基づき、平成13年122月、平成14年3月及び令和2年3月の三度にわたる境界確認を経て、市と東照宮の敷地の境界確定が完了していること。
   オ (略)
   力 (略)
   キ (略)
   ク (略)
   ケ (略)

 2 公園管理事務所の陳述における事実確認
  (1) 東照宮に対して公園用地の使用を認めた理由と経緯
   ア 東照宮社務所については、昭和44年に東照宮が社務所新館を神社北側へ建築しようとしたところ、中央大橋線の街路事業により断念し、やむなく公園北側へ建築することとなり、その一部が前橋公園用地にかかることになったものである。当該用地はもともと東照宮所有地であったが、昭和24年に前橋公園野球場として、前橋市及び市議会からの強い要望により、やむなく譲渡したが、野球場が廃止されたこと、公園及び中央大橋道路建設のため、大幅な土地を失うこととなり、神社に必要な建物を建築することに支障になっている状況に対し、譲渡した土地の返還若しくは社務所建築に当たる土地の使用を認めることを、東照宮宮司及び氏子総代7名から嘆願書が提出されたことにより、市での検討及び東照宮との協議を経て、終局的には中央大橋街路事業への協力を受けることもあり、公園用地の使用を無償にて認め、市と東照宮の間で覚書の交換に至ったものである。
   イ その後、昭和46年には車両通路設置要望の陳情書を受け、社務所建築と同様に承諾することを認め、覚書を再交換したが、後に、車両通路に関しては、東照宮専用通路としてではなく、一般市民の利用にも供するものとして覚書に記されている。
  (2) 東照宮との覚書について
   ア 覚書の交換は現在まで継続的に行われており、対象範囲は大手町三丁目600番1の土地の一部である。
   イ 本件のような形態で公園用地の継続的な占用を認めた事例は他には無く、原則的には許可事項とならないことと認識している。
   ウ 一般的には都市公園法に基づき審査を行った後、認められるものについて許可を出している。
   エ 昭和44年に市と東照宮の間で覚書について協議がされているが、当時の起案からは、都市公園法に基づいた審査が行われていたことを示す記載を確認することはできない。 
   オ これまでの間、覚書を継続していく中で、使用範囲の見直しや使用料の導入を検討したという記録はなかった。
  (3) 覚書により無料での公園用地使用を認めた理由について
   ア 公園用地内における公園施設の設置や工事用施設等の設置については、都市公園法に基づいて許可を出しており、料金体系については、前橋市公園条例に基づき、基本的には使用料を徴収している。
   イ 本件に関しては、東照宮が社務所を南側に建築せざるを得なかった状況等を市が重々理解したうえで交渉しており、それは現行の前橋市公園条例の規定から考察すると、公園の占用に関わる使用料については、市長において特に必要があると認めた場合は使用料を免除する旨の規定があり、昭和44年当時の状況を鑑みて無料とすることを市長決裁において決定したものだと考えている。
  (4) 前橋公園の範囲及び覚書締結部分の公園用地について
   ア  大手町三丁目600番1は、都市公園として都市計画決定をされている範囲の地番である。
   イ 都市公園法に基づく公園としての開設範囲は、大きな図面ではあるが、社務所を含めた形ではなく、この一部は公園の開設範囲からは除外されているものと考えている。すなわち、都市公園の開設範囲は大手町三丁目600番1全てではなく一部である。
   ウ 大手町三丁目600番1の土地は行政財産である。社務所が建っている部分を都市計画決定されている範囲から除く処理ができるのであれば、今後普通財産として扱うことも可能かと思われる。現時点でははっきりしないが、将来的には可能性があるという意味である。
  (5) 覚書締結部分の管理について
   ア これまで、東照宮が利用している土地の範囲や利用方法が覚書のとおりであるのかどうか、定期的に現地の確認をしていたという記録はない。日常的に施設の状況を確認しているということはなく、覚書更新の際に、その内容についての精査がされていたのではないかと思う。
   イ 当初に覚書が交換されたのが昭和44年で、その後45年に通路の要望を受け、覚書が再交換され、その後5年というスパンで覚書の期間を更新し現在まで至っている。その都度、覚書を再交換する際に確認をしているものと思うが、その間には境界確認もされており、現地の確認はしていたものと思う。
  (6) 覚書未締結部分の管理について
   ア 覚書未締結部分の公園用地について、通路の整備や詳細な管理を東照宮にしてもらっていたと認識している。そのことについて東照宮と市で協議されてきたといったような記録は見当たらない。
   イ この度の措置請求により、東照宮境内地との境界付近の覚書未締結部分に工事現場事務所と仮設トイレが設置されていることを確認したため、都市公園法に基づき、令和2年11月18日付けで占用を許可した。
   ウ 工事現場事務所及び仮設トイレの占用許可範囲は、確実に占用する部分である。工事車両も通過する部分は、一般の公園利用者も通行することができ、完全に占用していると考えられないので、実際に仮設物が置いてある面積について許可をしている。
   エ 請求対象区域の駐車場は、平成22年度末に解体された県消防警察慰霊碑の跡地に隣接しており、公園の駐車場として供しているものである。
   オ 東照宮境内地の西側に位置する彰忠碑、さちの池方面、前橋城土塁の上の桜並木には、市有地を通って回遊や散策をすることができる。
   カ 上記に関して、東照宮境内地と公園用地との境に柵等は設けていないが、公園用地としてはつながっている状況である。
  (7) 土地の境界確定の状況について
   ア 前橋公園と東照宮の境界は、平成13年度から令和元年度にわたり三度の境界立会いが行われ、双方の境界確定は完了したところである。
  (8) 東照宮境内地北側の土地について
   ア 東照宮の北側は県有地であり、道路用地と認識している。
  (9) 請求人の主張である「前橋東照宮が、勝手に前橋公園用地北側部分を使っている」という点について
   ア 措置請求では「東照宮が市有地を使用している」とあるが、公園管理事務所としては、覚書締結部分以外の公園用地を東照宮が使用しているという認識はなかった。
   イ 前橋公園用地は覚書で使用を認めている東照宮社務所の建築部分を除き、一般市民の利用に供している。前橋公園と東照宮境内は昔から一体的に利用され、両者にまたがる利用も多く、公園利用について支障があるとは考えていない。
   ウ 公園の駐車場は、東照宮に参拝する方が利用しても公園使用について特段の支障がない。参拝者が公園を利用することもあり、どちらの利用者であっても自由に使えるものと考えている。
   エ 今回の陳述で質間を受け、また、境界も令和元年度に全て確定したということもあり、これを契機に使用料について今後どうしていくかということを市の内部で協議していきたいと考えている。

第4 監査委員の判断
 1 まとめ
  (1) 本件措置請求において、請求対象区域のうち東照宮社務所が公園用地に越境している面積分については請求に理由があると認められるため、地方自治法第242条第5項の規定により前橋市長に対して第5に記載のとおり勧告する。
  (2) 市民の利用を目的に設置される市有施設の管理に当たり最も大切な視点は、当該施設を市民が快適に利用できるよう、施設の設置目的に即して日常的な維持、管理が適切に行われているかどうかという点である。
    この点において、園路や駐車場として市民と共用されている上記(1)以外の請求対象区域は、覚書の締結若しくは長年にわたる運用により東照宮の協力のもと、往来や駐車が可能な状態に保たれている。また、東照宮境内地との境界確定も完了しており、結果として、公園の設置目的及び公園利用者の便益のいずれも損なうことなく管理されている状態にある。したがって、本件措置請求事項である市が違法若しくは不当に財産の管理を怠る事実に相当すると認めるまでには至らないため棄却する。
    しかしながら、当該区域は一般の利用者にとっては東照宮境内地との区別がつきにくいことに加え、日常的な管理は東照宮が担っていることから、一般利用者の多くは東照宮の敷地として認識するであろうことが推察される。
    更に、公園用地と宗教施設の敷地が実質上一体的に使用されていることは、憲法第89条及び第20条第1項後段の政教分離の原則からみて望ましい状態であるのかどうか懸念されるところである。
    したがって、社務所の越境部分の解決策を講じる際に、利用実態に即して公園予定区域のあり方についても再検証するよう勧告に盛り込むこととする。

 2 判断の理由
  (1) 請求対象区域のうち覚書締結部分について
    東照宮社務所の一部が公園用地にはみ出し、前橋公園用地を占用することから覚書締結に至ったが、前橋公園は都市公園法第2条に規定される都市公園であり、請求対象区域についても同法第33条第4項の準用規定が適用されるため、本来であれば同法第6条に基づき社務所の占用許可手続を行うべきである。しかしながら、社務所は同法第7条第1項に列記する許可対象施設には該当しない。
    覚書締結に至った経緯が公共的な見地からやむを得ないものであり、公園用地にはみ出している面積も僅かであるとはいえ、都市公園法上問題があることを認識して根本的な解決策を図ることとしていたにもかかわらず、何の検討もされないまま 50年余りにわたり使用を認めてきたことは、市に財産管理上の過失があるものと言わざるを得ない。
    一方、上記以外の区域については東照宮の専用ではなく、公園利用者の自由な往来が確保されている。よって、前橋公園の設置目的及び利用に際しての便益のいずれも損なうことなく、覚書に基づいて東照宮により日常的に維持、管理されていると認められることから、東照宮に対する使用許可が市に財産管理上の損害を発生させていたとは断定できない。
  (2) 請求対象区域のうち覚書末締結部分について
    覚書未締結部分である東照宮社殿の西側及び南側は、公園用地と東照宮境内地との境界確定が完了しているものの、利用者の便益に配慮して区画を分ける表示等はされておらず、双方の利用者から一体的に使用されている。
    なお、東照宮参拝車両の経路は、社殿北側の入口から入り、社殿の西側を回り込んで南に向かい、覚書締結部分の公園用地へ抜ける一方通行となっている。参拝車両の安全走行に配慮した動線として理にかなっている運用であるが、この運用により、市が整備した公園駐車場へは、参拝者と同じ入口を利用することになるため、前橋公園の駐車場であることが認識できにくい状況である。
    公園を利用する市民にとっては駐車場の場所が分かりにくく、望ましい状態とは言い難いが、公園利用者が自由に駐車場を使用できる状態が常に保たれていることから、市が管理を怠り東照宮による占用を不当に認めていたと断定することはできない。
    同様に、園路についても両者の敷地の境界は明示されていないものの、公園用地のみを通って前橋公園内の桜並木や彰忠碑への散策が可能であり、公園利用者の通行を制限することなく園路を使用できるため、市が管理を怠り東照宮による占用を認めていたとは断定できない。したがって、違法若しくは不当に市が財産の管理を怠る事実があるとまでは認められないと判断する。
    なお、請求対象区域内に設置されている工事現場事務所及び仮設トイレについては、本件監査期間中に都市公園法第6条に基づく占用許可手続が完了したため、違法状態が解消されている。

第5 勧告
  地方自治法第242条第5項の規定に基づき、次のとおり前橋市長に勧告する。
 1 前橋東照宮と隣接している公園用地について、東照宮社務所の越境部分の適切な財産管理に資する措置を講じること。併せて、請求対象区域の利用実態に鑑み、前橋公園予定区域として市が確保し続ける必要性について検証し直すこと。
 2 検証に基づき、前橋公園用地のあり方や活用についての方針を定め、必要に応じて公園用地の一部の売却若しくは有償貸付を検討するなど、長年にわたる懸案事項の解消に努めること。

  なお、地方自治法第242条第9項の規定に基づき、令和3年3月1 9日(金)までに講じた措置について通知することを求める。

第6 意見
  監査の結果については以上のとおりであるが、請求対象区域については、一見すると東照宮の敷地と認識されても仕方がない状況となっているため、勧告に基づく措置を講じる際には、この点にも留意され公園利用者の便益性向上を図られたい。
  また、覚書未締結部分の公園用地については、長年にわたり東照宮が自主的に日常の維持管理を行い、それに要する費用も負担していると考える。公園用地の一体的利用を踏まえ、その見直しが行われるまでの間、市は公園用地の管理者として園路等の維持管理及び費用の負担を検討されたい。

*****住民監査請求の措置通知*****
                    内 公 管
                    令和3年3月17日
前橋市監査委員 様
                   前橋市長 山 本   龍

前橋市職員措置請求(住民監査請求)に係る監査の結果に対する措置について(通知)

 令和2令和2年10月21日に提出のあった前橋市職員措置請求(住民監査請求)に係る監査の結果において、・・・(略)・・・同法第242条第9項の規定により下記のとおり措置を講じたので、通知します。

                  記

1 前橋東照宮と隣接している公園用地において、同社務所の建物の一部が公園用地に越境しているが、その部分を含めた最小限の土地を普通財産に変更した後、前橋東照宮に対して有償で貸付けを行うことを内容とする契約を令和3年3月15日付けで市と前橋東照宮の間で締結した。
  なお、貸付けの対象となる土地については、令和7年3月31日を期限として、前橋市東照宮が買取りを行うことを内容とする覚書を令和3年3月15日付けで市と前橋東照宮との間で締結した。
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