↑安中市中宿の東邦亜鉛製錬所の硫酸工場付近の農道わきに設置されている降下ばいじん測定用ダストポッド。製錬所周辺に4箇所設置されている。↑
■筆者は安中市岩野谷地区に在住しておりますが、子どものころから東邦亜鉛安中製錬所から排出される亜硫酸ガスやカドミウムや鉛など重金属を含む排ガス中の降下ばいじんによる農作物や健康被害について、地域住民の苦労を身に染みて感じておりました。高校生の時、安中公害として世間に知られるようになり、それから半世紀以上経過しましたが、依然として東邦亜鉛からの降下ばいじんは止まっていません。そのため、周辺に降り注ぎ続けるカドミウムや鉛など有毒な重金属により、宅地や農地などの土壌がさらに汚染されています。
このため、筆者は2年前から地元の北野殿公害対策委員会の委員長に任命されて、東邦亜鉛安中製錬所による降下ばいじんを主とした周辺土地の再汚染問題(水田は昭和47年ごろ客土ないし排客土対策を行いましたが、畑地はまだ土の入れ替えをしていません)など、公害問題に取り組んでいます。
先日4月3日に北野殿公会堂で開催された北野殿公害対策委員会平成4年総会で、参加委員から、「この度の安中市長選の機会に、市長候補予定者に、安中公害や、土壌汚染された畑地対策について、抱負を聞くことは有効だ」とする動議が出され、満場一致で承認されました。そのため、4月6日に市長候補予定者2名に公開質問状を送っていたところ、4月10日午後3時の期限までに両方の立候補予定者から回答が寄せられました。さっそくご紹介します。
■公開質問状の内容は、委員長一任とされたので、委員長の判断で5項目の質問からなる公開質問状を作成し、4月6日の朝、両候補の後援会事務所として登録されているFAX(いずれも自宅住所)に送信しようとしました。しかし、岩井候補はつながったものの、茂木候補は繋がらず当日夕方自宅の郵便受けに公開質問状を投函しました。
■両候補予定者に出した公開質問状の文面は以下のとおりです。
*****4/6公開質問状*****
令和4年4月6日
安中市長選立候補予定者
ご芳名 様
〒379-0114安中市野殿980
北野殿公害対策委員会
委員長 小川 賢
携 帯:090-5302-8312
FAX:027-381-0364
E-mail:ogawakenpg@gmail.com
公 開 質 問 状
拝啓 当委員会は、安中市内で操業を続けている東邦亜鉛安中製錬所の影響に晒される地元住民の安全・安心な生活・営農・自然環境の保全と、同製錬所の監視及び対話を目的として活動している組織です。現在、地元では同製錬所周辺の土壌汚染畑地を対象として行政主導により公害防除特別土地改良事業(公特事業)が進められております。
さてこの度、令和4年4月22日任期満了に伴う安中市長選挙が、4月10日告示、4月17日投開票の日程で執行される予定となりました。現在立候補に向けての諸準備でご多用のところ誠に恐縮ですが、以下の質問事項に関してご記入いただき4月9日(土)15時までに、FAXAX(027-381-0364)にてご回答くださいますようお願い申し上げます。
【Q1】同製錬所からは依然として通常の地域の数十倍もの量のカドミウム、鉛、亜鉛など重金属を含む降下ばいじんが周辺域に降り注いでいます。この事実をご存じでしょうか。
□知っている □知らない
【Q2】この状況を打開するためには、既に土壌汚染が進んでいる同製錬所周辺の畑地の土壌を健全化しなければなりません。しかし、農用地の土壌の汚染防止等に関する法律に基づき、昭和47年8月17日に定められた農用地土壌汚染対策計画は、昭和51年3月及び昭和53年6月に変更決定されたにもかかわらず、対策事業の実施にあたって、指定地周辺の要観察地域の畑等も含めて一体的な対策を図るべく、対策計画の変更及び土地改良事業計画に基づく公特事業について、いまだに検討・調整中の段階にあります。遅れを取り戻すための必須要件と思われるものを次の中からお選びください(複数選択可)
□国の熱意 □県の熱意 □市の熱意 □東邦亜鉛の熱意
□地元関係者の熱意 □事業内容の周知徹底 □わからない
□それ以外(具体的に: )
【Q3】当委員会は、4年後の令和8年4月に、公特事業の着工に漕ぎ着けることが地元の抱える公害問題対策の大きな節目にひとつと考えております。そのため市長に当選された場合、当委員会のかかげる着工実現という目標に向けてどのようなご支援をいただけますでしょうか。現在のお気持ちに最も近いものをひとつお選びください。
□地元行政の長として、4年後の着工をかならず実現させる。
□地元行政の長として、4年後の着工に向けて最大限の努力を惜しまない。
□地元行政の長として、4年後着工の期待に沿えるよう配慮する。
□地元行政の長として、4年後着工に向けてできる範囲で対応する。
□地元行政の長として、4年後の着工の実現にはこだわらない。
□地元行政の長として、4年後の着工の実現はあきらめる。
□地元行政の長として、なんともいえない。
【Q4】もう一つ重要なことは、現在も続く重金属を含む降下ばいじんの問題です。この状況を打開するためには、東邦亜鉛に対して、さらなる公害防止対策を課すなどして、降下ばいじん量の減少はもとより、降下ばいじん中の重金属濃度をゼロにすることが再汚染対策の観点からの不可欠です。さもないと、仮に公特事業が実施されてもいずれ土壌の再汚染を招くからです。そのためには、東邦亜鉛に対して、安中製錬所が実施している降下ばいじんのデータの開示と、原因究明・対策方針に関する説明を求める必要があると考えます。このことについて、どのようなご支援をいただけますでしょうか。現在のお気持ちに最も近いものをひとつお選びください。
□地元行政の長として、かならず開示と説明を求める。
□地元行政の長として、必要性を検討したうえで判断する。
□地元行政の長として、そうした権限の有無を調べたうえで判断する。
□地元行政の長として、なんともいえない。
【Q5】最後に東邦亜鉛安中製錬所(会社)が副産物として毎年大量に生み出している非鉄スラグの問題があります。これまで何十年にわたり莫大な量のスラグを日々排出してきていますが、その使用箇所について、会社は「行政に報告しているので、報告内容は行政に問い合わせてほしい」と言い続けています。当委員会では、会社が行政に報告している非鉄スラグの使用状況に関する情報を自ら開示するよう、会社に求めていますが、誠意がみられません。そこで群馬県に開示請求をしたところ、真っ黒に塗られた文書が開示されました。このことについて、どのようなご支援をいただけますでしょうか。現在のお気持ちに最も近いものをひとつお選びください。
□地元行政の長として、県と会社の双方に対して必ず開示を求める。
□地元行政の長として、県に対して開示を求める。
□地元行政の長として、会社に対して開示を求める。
□地元行政の長として、必要性を検討したうえで判断する。
□地元行政の長として、そうした権限の有無を調べたうえで判断する。
□地元行政の長として、なんともいえない。
ご協力ありがとうございました。なお、ご回答内容の結果は、ご回答の有無と併せて、SNSなどを通じて広く公表する予定です。予めご了承ください。
敬具
**********
■その結果、4月9日の13:41に筆者の携帯メールに茂木英子後援会の松ヶ瀬氏から「さきほど回答をFAXしました」との連絡がはいり、畑から自宅に戻ると13:28にFAXを受信していたことを確認したので、14:48に受信確認した旨連絡しました。
※茂木英子候補の回答FAX
ZIP ⇒ 20220409pqj.zip
一方、岩井候補からは回答期限として指定した15時が迫っても回答がなかったため、筆者が選対事務所に電話を掛けたところ、女性の当番のかたが「うちのFAXが古くて調子がわるいのでご迷惑をおかけしているかもしれない」というので、再度FAXをしたところ受信できたことを確認しましたが、あらためて「候補者本人の後援会事務所で登録した自宅あてに4月6日に既にFAXを送っているので、候補者本人に確認してほしい」と連絡を依頼したところ、5分もしないうちに、候補者から回答FAXがありました。受信状況が悪く、1ページの上下が切れた形で3枚に分割されて送られてきたので、1ページが1枚になるようにしてあります。
※岩井均候補の回答FAX
ZIP ⇒ 20220409j.zip
■比較のため、以下の設問ごとに茂木候補の回答を赤色、岩井均候補の回答を青色で示してあります。
**********
【Q1】同製錬所からは依然として通常の地域の数十倍もの量のカドミウム、鉛、亜鉛など重金属を含む降下ばいじんが周辺域に降り注いでいます。この事実をご存じでしょうか。
■知っている ■知らない(そのような情報は得られていません)
【Q2】この状況を打開するためには、既に土壌汚染が進んでいる同製錬所周辺の畑地の土壌を健全化しなければなりません。しかし、農用地の土壌の汚染防止等に関する法律に基づき、昭和47年8月17日に定められた農用地土壌汚染対策計画は、昭和51年3月及び昭和53年6月に変更決定されたにもかかわらず、対策事業の実施にあたって、指定地周辺の要観察地域の畑等も含めて一体的な対策を図るべく、対策計画の変更及び土地改良事業計画に基づく公特事業について、いまだに検討・調整中の段階にあります。遅れを取り戻すための必須要件と思われるものを次の中からお選びください(複数選択可)
□国の熱意 □県の熱意 ■市の熱意 ■東邦亜鉛の熱意
■地元関係者の熱意 ■事業内容の周知徹底 □わからない
□それ以外(具体的に: )
【Q3】当委員会は、4年後の令和8年4月に、公特事業の着工に漕ぎ着けることが地元の抱える公害問題対策の大きな節目にひとつと考えております。そのため市長に当選された場合、当委員会のかかげる着工実現という目標に向けてどのようなご支援をいただけますでしょうか。現在のお気持ちに最も近いものをひとつお選びください。
□地元行政の長として、4年後の着工をかならず実現させる。
■地元行政の長として、4年後の着工に向けて最大限の努力を惜しまない。
■地元行政の長として、4年後着工の期待に沿えるよう配慮する。
□地元行政の長として、4年後着工に向けてできる範囲で対応する。
□地元行政の長として、4年後の着工の実現にはこだわらない。
□地元行政の長として、4年後の着工の実現はあきらめる。
□地元行政の長として、なんともいえない。
【Q4】もう一つ重要なことは、現在も続く重金属を含む降下ばいじんの問題です。この状況を打開するためには、東邦亜鉛に対して、さらなる公害防止対策を課すなどして、降下ばいじん量の減少はもとより、降下ばいじん中の重金属濃度をゼロにすることが再汚染対策の観点からの不可欠です。さもないと、仮に公特事業が実施されてもいずれ土壌の再汚染を招くからです。そのためには、東邦亜鉛に対して、安中製錬所が実施している降下ばいじんのデータの開示と、原因究明・対策方針に関する説明を求める必要があると考えます。このことについて、どのようなご支援をいただけますでしょうか。現在のお気持ちに最も近いものをひとつお選びください。
□地元行政の長として、かならず開示と説明を求める。
■■地元行政の長として、必要性を検討したうえで判断する。
□地元行政の長として、そうした権限の有無を調べたうえで判断する。
□地元行政の長として、なんともいえない。
【Q5】最後に東邦亜鉛安中製錬所(会社)が副産物として毎年大量に生み出している非鉄スラグの問題があります。これまで何十年にわたり莫大な量のスラグを日々排出してきていますが、その使用箇所について、会社は「行政に報告しているので、報告内容は行政に問い合わせてほしい」と言い続けています。当委員会では、会社が行政に報告している非鉄スラグの使用状況に関する情報を自ら開示するよう、会社に求めていますが、誠意がみられません。そこで群馬県に開示請求をしたところ、真っ黒に塗られた文書が開示されました。このことについて、どのようなご支援をいただけますでしょうか。現在のお気持ちに最も近いものをひとつお選びください。
□地元行政の長として、県と会社の双方に対して必ず開示を求める。
□地元行政の長として、県に対して開示を求める。
□地元行政の長として、会社に対して開示を求める。
■地元行政の長として、必要性を検討したうえで判断する。
■地元行政の長として、そうした権限の有無を調べたうえで判断する。
□地元行政の長として、なんともいえない。
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■両候補からの回答をもとに、筆者の感想を以下に記します。
●問1(Q1)
地元の北野殿に在住しているはずの茂木候補から、東邦亜鉛安中製錬所からの降下ばいじんの実態について「そのような情報は得られていません」ので「知らない」との回答があったので、ビックリ仰天しました。これでは話になりませんので、さっそく、県による降下ばいじんの毎月のデータを連絡する予定です。
【4月11日追記】この日、茂木候補に降下ばいじんの実態を示すデータを送り状を添えて提供しました。
ZIP ⇒ 20220411pqo.zip
一方、岩井候補は長年にわたる県議としての活動で、東邦亜鉛公害問題の本質についてよく洞察している様子がうかがえます。
●問2(Q2)
公特事業の推進に向けた必須項目については、岩井候補が、市と東邦亜鉛と地元の熱意という具体的な項目を選択したのに対して、茂木候補は事業内容の周知徹底という無難な選択でした。
●問3(Q3)
安中市の首長として4年後の着工に向けた決意については、本当は両候補とも一番上の「必ず実現させる」を選択してほしかったのですが、茂木候補が2番目の「最大限の努力を惜しまない」、岩井候補が「期待に沿えるよう配慮する」を回答してきました。やはり、地元出身と地元外出身の差かもしれません。
●問4(Q4)
降下ばいじんの低減について、東邦亜鉛に対する排出量や排出原因についてのデータ開示や説明責任に関する問いに対しては、両候補とも、「必要性を検討したうえで判断する」を選択してきました。
●問5(Q5)
有毒な鉛など重金属入りの非鉄スラグの市内外の使用場所の開示については、岩井候補が「必要性を検討したうえで判断する」、茂木候補が「そうした権限の有無をしらべたうえで判断する」と、両候補とも、本件情報開示に消極的な県や会社に対する積極的な支援の姿勢は残念ながら示していただけませんでした。
■以上のとおり、両候補から興味深い回答が寄せられたので、今後、北野殿公害対策委員会として、東邦亜鉛安中製錬所に対して、降下ばいじんなどの大気汚染や騒音、悪臭などの対策、および鉛、ヒ素を含む非鉄スラグの適正処理をはじめ、製錬プロセスでスラグに鉛やヒ素が残らないように全量回収する技術を導入して、公害防止をさらに徹底するように申し入れる所存です。
これに関連して、今年1月5日に安中製錬所の所長、新しく赴任した副所長、そして環境管理室の次長の3名が新年挨拶のため来訪した際に、筆者が「今年4月に安中市長選がありますが、御社はどちらの候補を支援するのでしょうか?」と尋ねました。すると製錬所幹部らはすかさず「両方です」と答えました。
今から8年前に、当時の市長の岡田義弘氏と、新人の茂木英子候補が市長選で一騎打ちの結果、茂木英子氏が3700票余りの差をつけて当選しました。その直後、東邦亜鉛安中製錬所の幹部が茂木英子後援会事務所を訪れて、支援団体の代表者に「今までの非礼を勘弁してほしい」と詫びを入れました。まさか、新人候補が当選すると思ってもみなかったからです。
そのため、選挙戦になった場合は、双方の候補者に必ずエビラを贈ることにしています。東邦亜鉛に限らず、地元企業や各種団体も同様の配慮をしているようです。
茂木市政スタート当初は緊張感を持っていた東邦亜鉛ですが、その後はすっかり安心している様子がうかがえます。有毒な非鉄スラグを東邦亜鉛は安中市内でも不法使用しているはずですが、安中市は全く調査をする気配がないからです。そのため、筆者の質問に対して「どっちも応援する」と答えたのだと思われます。
【北野殿公害対策委員会からの報告】
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