あるシングルマザーの孤独 公的支援受けず「必死に働いてきた」
こんなひとり親がいることを知ってほしい-。長崎新聞の情報窓口「ナガサキポスト」のLINEに、長崎県内の40代の女性から投稿が寄せられた。
看護師として働きながら2人の子どもを育てるシングルマザー。一定の収入があるため児童扶養手当は受給していないが、生活に余裕はない。相談相手もいないという。公的支援を受けていない「自立したひとり親」の孤独とは? そんな疑問を抱き、彼女の元へ向かった。
女性は県内出身。働きながら看護師の資格を取り、県外で働いた。現地で結婚したが、約10年前に夫の異性関係が原因で離婚。6歳と4歳の子どもを連れて長崎県の地元に戻った。
「生活のために土日祝日、お盆、正月、ゴールデンウイークもフルで必死に働いてきた」。家を出るのはいつも午前6時半。定時に帰れることは少なく、帰宅は午後9時を過ぎることも。さらに新型コロナウイルスの感染拡大で職場の緊張感は高まっている。「感染者を出すな」。職場では感染患者を受け入れていないが、地域からのプレッシャーは常にある。
どんなに頑張っても家計を支えるのは自分1人。元夫からの養育費の支払いは離婚以降、途絶えている。「子どもに引け目を感じさせる生活はしたくない」と自分に使うお金を抑え、食費や教育費、部活動の道具の購入費などに回してきた。「毎月貯金をするゆとりなんてなかった」
だが、周囲の見方は違った。「看護師はいいね」。ママ友の何げない言葉を聞くたびに「これだけ働いているのに。夫婦がそろっている家庭とは違う」と言い返したかった。
「おまえは父親がいないからな」。わが子が部活の関係者から目の前でこう言われたことも。無理解な言葉に胸がつぶれる思いだったが、子どものためにも関係を壊すわけにはいかず、反論せず我慢した。
女性はわが子に「普通の暮らし」をさせたいと願い、必死に働きながらも周囲の無理解に苦しんできた。
児童扶養手当など支援制度にも疑問を感じている。同手当は、ひとり親家庭などの生活の安定と自立促進が目的。18歳までの子どもがいるなど複数の条件に合致する県内受給資格者は2019年度末で約1万2500人、受給者は約1万800人。
女性は離婚後、地元に戻って最初に勤めた医療機関での収入が少なく、同手当が一部支給されていた。しかし転職後、収入が増えると支給はなくなった。基準は子どもが2人の場合、一部支給は前年の所得が268万円未満、全部支給は同じく125万円未満だ。
ひとり親は、両親がそろう家庭のように共働きで収入を増やしたり家事の負担を分け合ったりすることはできない。「ひとり親であることに変わりはないのに、なぜ所得制限を設けるのだろう」。疑問を行政に伝えたこともあったが何の反応もない。自治体の就学援助も新型コロナ対策の臨時特別給付金も対象外。「所得があるから、放置なの?」。収入の多寡でしかひとり親家庭を見られていないように感じ、辛かった。
最近、高校生のわが子が進学を希望し始めた。「お母さんに苦労をかけるかもしれないけど大学に行きたい」。授業料、仕送り-。不安がよぎったが「ダメとは言わないよ」と返した。
「高校卒業まで頑張ればと思っていたけれど…。進学はやめて、とは言えないですよね」。こらえていた涙が、ついこぼれた。
ひとり親家庭福祉会ながさきの山本倫子事務局長は「一定の収入があり、児童扶養手当を受け取っていない自立するひとり親は『支援の隙間』にいる人たち」と指摘する。安定した仕事に就いているひとり親の場合、公的機関などに就職相談をする必要がないため、行政側からさまざまな支援の案内を受ける機会や関係機関とつながるチャンスが少ないという。山本事務局長は「ひとり親の悩みはそれぞれ。個々のつらさに向き合う必要がある」と話す。
子どもの人生を1人で背負うひとり親。「誰かにこんなに話したことはなかった」。女性は最後に少しほっとした表情を見せた。
県内外には生活から就労、教育までひとり親のさまざまな相談を受け付ける窓口がある。県内の福祉事務所は、母子・父子自立支援員などによる相談体制を整えており、子育て世帯の悩みに応じる「県子どもの貧困総合相談窓口(つなぐながさき)」(電095・801・2442)もある。通信アプリLINE(ライン)やメールでも相談を受け付けている。(嘉村友里恵)