「心の把握、苦しむ教官」医療少年院は今:/中
その他 2015年2月19日(木)配信毎日新聞社
最大の見せ場の組み体操の時間になった。昨年10月、神奈川医療少年院(相模原市)で開かれた運動会。「やればできる!」。グラウンドに小島宏平・法務教官(33)の号令が響くと、59人の少年たちが「おー!」と気勢を上げ、15分間にわたって「ピラミッド」などを次々に披露した。見守る保護者から拍手が送られた。
知的障害や発達障害などを抱える少年たちは、1カ月ほどかけて組み体操の練習をしてきた。厳しく指導しすぎると意欲をなくしてしまうかもしれない。かといって甘やかせば感動や達成感を得られない。大切なのはバランスだ。「協力して何かを達成する経験が乏しいことが多い。人と協力した方がより大きいことができることを味わってほしい」。小島教官は少年たちを見つめた。
医療少年院の入所者の中に、コミュニケーションや環境への適応が苦手な知的障害や発達障害の割合が増えている。処遇の難しい少年が増えているという指摘もある。
一般少年院では、教官が1人で少年たちを集団指導できる。少年たちも励まし合って頑張れるが、医療少年院の少年は個々に問題を抱えていて、グループで励まし合うのも難しい。
関東医療少年院(東京都府中市)の木津香織・統括専門官は「医療少年院では1人の少年に何人もの教官が関わらざるを得ない」と話す。在院者が定員を下回っていても職員の手は足りない。月5~6回の夜勤を終えても、すぐには帰宅できない日が多いのが実情だ。
「ウォー! ウォー!」。2年前、精神疾患の少年らが収容される京都府宇治市の京都医療少年院で、少年が大声を出し、窓をたたいて暴れ始めた。法務教官らがかけつけた。一時的に隔離する「保護室」に移すと、少年は男性教官の顔を拳で殴った。教官は脳しんとうを起こし、鼻骨を折る大けがをした。教官の一人は「少年たちと話していても、何を考えているのかつかみにくいことが多い」と明かすが、永橋賢三・統括専門官(58)は「少年たちは周囲の大人たちに関わってもらった経験が乏しい。ここが安心できる場所になっているのも事実だ」と話す。
軽度の知的障害があり、恐喝未遂の非行内容で宮川医療少年院(三重県伊勢市)に収容されている少年に会った。親に褒めてほしい時でも、褒めてもらったことがなかったという。「先生は厳しい時は厳しいけど、与えられた係とかちゃんとやっとったら、『頑張っとるな』って言ってくれる。そういうのがむっちゃうれしい」。法務教官の印象を聞くと、はきはきとした答えが返ってきた。