こころの天気図:必修化、喜ばしいが…=東京大教授、精神科医 佐々木司
2018年12月5日 (水)配信毎日新聞社
早いもので、もうすぐ年末。今年もメンタルヘルスに関わる出来事はいろいろあったが、特筆すべきことの一つは、日本でも学校での精神疾患の授業実施が決まったことだ。文部科学省の指導要領の改定により高校の保健体育で必修化され、2022年には授業が始まる。
「なぜ学校で精神疾患を教える必要があるの?」と疑問に思う人がいるかもしれない。しかし、認知症以外の精神疾患は10歳ごろから急増し始める。14歳までに半数が、24歳までに4分の3が発症するとの報告もある。
また、精神疾患にかかる人は想像以上に多く、認知症を除いても、先進国では3~5人に1人が一生の間に何らかの精神疾患を経験すると知られている。中高生を含め、子どもたちにとって精神疾患は目の前の問題だ。予防と早期発見・早期対応のための知識を身に着けておく必要がある。
教えることが決まったのは喜ばしいが、懸念もある。一つは実際に、学校の先生が精神疾患についてどこまで教えられるかである。必修化されたので教科書に説明は記載されるが、それだけで授業が可能というわけではない。私はある県で保健室の先生(養護教諭)の研修を担当してきたが、学校の中で精神疾患に最も詳しいはずの養護教諭でも、知識の不足を意外と感じた。保健体育の先生を含め他の教員の知識には、現状では限りがあるだろう。
心配なのは、教員に教える自信のない内容は、実際の授業で省略されがちなことだ。特に保健体育など受験に直接関係のない科目で、その傾向が強い。精神疾患の知識を増やすことは子どもたちの健康に直接関わり、大変重要だ。現場で軽視されぬよう、先生方にはお願いしたい。
省略を防ぐ工夫はいくつかある。掲載した図は私の研究室で開発した精神疾患教育プログラムからの抜粋だ。専門家が開発に関わったこのようなプログラムを活用すれば、教員にとっても教えやすく、子どもたちにも理解しやすくなるだろう。教員の精神疾患に関する知識を高める研修や教材も、私たちのプログラムを含めいくつか開発されている。
今回の精神疾患教育の必修化が、子どもの健康の向上と維持にきちんと役立つように、学校関係者だけでなく生徒の家族を含め多くの方が関心を持っていただけるとありがたい。なお、今回必修化されたのは高校だが、先述したように精神疾患は10歳前後から増え始める。小学校高学年、遅くとも中学校からは少しずつ教え始める必要があるだろう。(次回は1月16日掲載)
2018年12月5日 (水)配信毎日新聞社
早いもので、もうすぐ年末。今年もメンタルヘルスに関わる出来事はいろいろあったが、特筆すべきことの一つは、日本でも学校での精神疾患の授業実施が決まったことだ。文部科学省の指導要領の改定により高校の保健体育で必修化され、2022年には授業が始まる。
「なぜ学校で精神疾患を教える必要があるの?」と疑問に思う人がいるかもしれない。しかし、認知症以外の精神疾患は10歳ごろから急増し始める。14歳までに半数が、24歳までに4分の3が発症するとの報告もある。
また、精神疾患にかかる人は想像以上に多く、認知症を除いても、先進国では3~5人に1人が一生の間に何らかの精神疾患を経験すると知られている。中高生を含め、子どもたちにとって精神疾患は目の前の問題だ。予防と早期発見・早期対応のための知識を身に着けておく必要がある。
教えることが決まったのは喜ばしいが、懸念もある。一つは実際に、学校の先生が精神疾患についてどこまで教えられるかである。必修化されたので教科書に説明は記載されるが、それだけで授業が可能というわけではない。私はある県で保健室の先生(養護教諭)の研修を担当してきたが、学校の中で精神疾患に最も詳しいはずの養護教諭でも、知識の不足を意外と感じた。保健体育の先生を含め他の教員の知識には、現状では限りがあるだろう。
心配なのは、教員に教える自信のない内容は、実際の授業で省略されがちなことだ。特に保健体育など受験に直接関係のない科目で、その傾向が強い。精神疾患の知識を増やすことは子どもたちの健康に直接関わり、大変重要だ。現場で軽視されぬよう、先生方にはお願いしたい。
省略を防ぐ工夫はいくつかある。掲載した図は私の研究室で開発した精神疾患教育プログラムからの抜粋だ。専門家が開発に関わったこのようなプログラムを活用すれば、教員にとっても教えやすく、子どもたちにも理解しやすくなるだろう。教員の精神疾患に関する知識を高める研修や教材も、私たちのプログラムを含めいくつか開発されている。
今回の精神疾患教育の必修化が、子どもの健康の向上と維持にきちんと役立つように、学校関係者だけでなく生徒の家族を含め多くの方が関心を持っていただけるとありがたい。なお、今回必修化されたのは高校だが、先述したように精神疾患は10歳前後から増え始める。小学校高学年、遅くとも中学校からは少しずつ教え始める必要があるだろう。(次回は1月16日掲載)