対象の論文
原文 | Role of VPAC1 and VPAC2 receptors in the etiology of pregnancy rhinitis: an experimental study in rats |
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この論文に着目した理由
妊娠に関連してアレルギー性鼻炎様の症状を来すことはよく知られており、「妊娠性鼻炎」と呼ばれる。症状では特に鼻閉を来しやすいため、睡眠の質の低下などにより精神的ストレスの増加に悩まされることもある。このほか、妊娠中には投薬の制限も多いことも精神的ストレスの増加につながると考えられている。しかし、多くは出産を経ると、症状が改善するとされる。
妊娠に関連する鼻炎症状の病態は、いまだ不明確な部分も多い。この論文は、そのメカニズムを理解するのに役立つと思われたことから、着目した。
私の見解
血管作動性腸管ペプチド(VIP)の受容体、VPAC-1やVPAC-2は、アレルギー性鼻炎患者の鼻腔内で増加することが知られている。
この論文では、ラットを妊娠群と対照群の2群に分けて鼻粘膜組織を観察したところ、妊娠群ではVPAC-1およびVPAC-2の発現が有意に増加していることが示された。このことから、妊娠により、アレルギー性鼻炎で証明されている2つの受容体の発現増加と同様の反応が引き起こされていることが明らかになった。
論文でも述べられているように、この実験結果は、妊娠性鼻炎は、妊娠前から存在する不顕性アレルギーの活性化により引き起こされるという仮説を裏付けるものである。
日常臨床への生かし方
妊娠期間中の薬剤使用には制限があり、妊娠性鼻炎の症状を緩和することは、この研究をもってしても容易なことではない。しかし、妊娠に付随する症状として鼻炎のメカニズムを理解し、説明できるようになれば、患者の精神的ストレスの軽減に役立てられるのではないかと期待される。
菊岡 祐介(きくおか・ゆうすけ)
大阪医科薬科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科助教。2015年、川崎医科大学医学部卒。大阪医科大学附属病院にて初期研修。その後、同院耳鼻咽喉科・頭頸部外科レジデント、市立ひらかた病院での勤務を経て、2020年より現職。2021年より大阪医科薬科大学病院アレルギーセンター兼任。専門は鼻副鼻腔疾患およびアレルギー。スポーツ医学(特にサッカー)や旅行医学に関しても研鑽を積んでいる。