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DSP 搭載 ISA Bus ボード
僕の年齢が50台だった今から25年ほど前の話、Windows PCに組み込む拡張ボードは ISA Bus からPCI Busへの移行期だった。 現役時代の僕のメインの職種は電子回路・ハードウエア設計の技術者だった。
そして当時急遽開発を担当する事になった装置は磁気力顕微鏡(MFM:Magnetic Force Microscope)だった。 それはすでに市販されていた走査型トンネル顕微鏡 (Scanning Tunneling Microscope)が持つ物体表面を物理的に触れる事無く、原子レベルの凹凸さえも検出する能力を利用し、 物体表面から一定空隙を保ってなぞった場合、(その空隙ではトンネル効果による電流は流れない) 物体表面の持つ磁気的特性の分布図を描き出すことが出来る。 そんな装置の開発だった。
詳しい話は省くが、 デジタル信号処理プロセッサ(DSP)を搭載したISA Busの拡張ボードをPCに組み込み、 MFM機能を実現する装置の開発は既に他の担当者(どちらかと言えばソフト屋さん)が取り組んでいた。
それがハード設計担当の僕の目から見たら馬鹿馬鹿しいほと簡単なことが原因 ( *1 ) でMFM機能実現に必須なSTM(従来はアナログ制御回路で実現していた)機能のDSPボードへの移植も着手から2年ほど経過しても未完成状態だったのだ。
開発のバトンタッチを受けた僕、 前任者からDSPボードの制御ソフト開発に必要なボードと(C言語)ソフト開発環境一式を引き継ぎ、 半年ほどでハード・ソフトを含めたMFM装置のプロトタイプを完成させたのだった。
そうこうしている内に世の中の拡張ボードの主流はPCI Bus へと移ってしまったので商品機はPCI BusのDSPボードを組み込み、めでたく完成に持ち込んだ。
開発に使用したが、不要になった ISA Bus のDSPボード、 僕が退職する時点でありがたく頂戴し家に持ち帰ったと言う訳だ。 65歳で完全リタイア後、 DSPボードをいじって遊ぶことも全く無く、 押し入れで眠り続けてゴミ部屋のゴミの一つになっていたそのボード、 ついに廃棄の時を迎えたのです。
何らかの物に生まれ変わって、
この世にまた出て来て下さい。
さようなら!!
( *1 ) : STM装置において探針の位置制御には RとC を組み合わせたアナログ制御回路が用いられ、 特性的にはP I 制御で安定な制御を実現していた。 それをDSPの制御系では P I D 制御系を構築し、 その3要素をあれこれ調整して位置制御の安定化を実現しようと無駄な努力を延々と続けていたのです。 アナログ制御系に習って D の成分をゼロにして、 PとI だけに絞ってトライすれば簡単に解決したのにね。