夏の暑い時期に安曇野で借りて過ごすことになった古い家。 その家屋には物置小屋も付属しているのだが、 美しかったであろう土壁が、 部分的に崩れたり、亀裂が入ったりして醜くなっている。
「その壁の補修はDIY作業の格好の対象かも・・・」
そんな心から
1.
「左官ごてのセットを購入」をさせ。
2. 土に練り込む稲藁を隣の農家のから分けて貰う。
3. 壁土材料の採取先の調査
4. 壁土の試し塗り
この様な行動を起こさせたのですが、 本格的に補修作業に取り掛かることはせずに、年の瀬を迎えた今、 土壁の補修作業の本格着工は、ほぼ諦め気分で挫折しています。
なぜ諦め気分になってしまったのか? ざっとお話してみましょう。
土壁塗りなんて、どこかから「粘土を手に入れて」、「切り刻んだ藁を練り込み」、「コテで塗れば一丁上がり」これが僕の心の中のイメージでした。 僕が生まれた群馬県はちょいと地面を掘れば粘土の地層が顔を出す、瓦の生産地の藤岡市も近所、そんな場所だったから、 「安曇野でも材料の土なんて簡単に手に入るだろう」と簡単に考えていました。 しかし土壁建築の廃れた今、 安曇野周辺で壁土の材料を商業ベースで安価に販売している所は無い様子。 だから近在の山の中、例えば大町スキー場周辺等も歩き廻って粘土層の顔を出している場所を探してみたりしたものです。
そうした中で壁土が露出した家があると、その表面を観察して随分と硬く仕上がっている事や、下地の複層に塗られた壁土も、層の応じて練りこまれた藁の比率が異なっている事など、左官職人さんがなんでもなく行ったであろう職人技に気持ちが圧倒される様になって来たのです。
そうは言っても、 「土壁塗りも楽しかろう」との想いは未だありましたから、
土の入手を試みましたよ。
そして試しに建材業者さんからサンプルで貰った土や近所の田圃の脇の舗装道路の上に農作業車の車輪に付着して脱落した泥の欠片を拾い集めて、物置小屋の壁に出来た小さな穴を塞ぐ様に泥を塗りつけて乾燥を(およそ1ヶ月)待ってみました。
これは砂利を販売する業者さんから貰って来た粘土もどきの土を塗ったところ、乾いた表面を指で擦ると細かな粉の様な泥が次々に剥落していきます。
これは田圃の泥を塗った結果ですが、 ブルー区域は水分が極めて多い状態の泥を使用し、 水色区間は水分が少ない状態の泥を使用した部分です。 道路を隔てた田圃の”似たような泥”でも、 壁に塗る前の泥に含まれる水分量に依って、 乾燥した時のひび割れの発生する状態がこんなにも違ってしまうのです。
土壁の材料について、 仁科神明宮の近所のお宅で左官仕事をしていた職人さんと話をした際に「落ちた土壁を拾い集めれば再使用出来るよ!」 そんな話を聞いて居ましたから、 物置小屋の壁面の崩落した壁土を拾い集める事もしてあるのです。 しかし一緒に崩落した表面のモルタル部分と強固に結合していて、 そこから剥がして採れる土の量は少ないのです。
そして11月下旬、白馬町堀之内地区を強震が襲い、民家が多数崩壊しました。
当時安曇野に滞在中だった僕は翌日に野次馬見物に出かけました。 被災状況の様子もさる事ながら、 土壁の家屋崩壊の様子を見たら 「土壁材料の宝庫!!」 そんな不遜な考えも頭をよぎったものでした。 そして崩落した壁面の土の様子を確認してみたのです。
僕の借家の周辺の家々の土壁の状態と較べると「あれっ?!」と想うほど崩れやすい表面状態でした。 指先でこすったり、摘んで押しつぶした感覚の比較で言えば、 建材業者さんから貰った土と同じ程度か、もっと崩れやすいサラサラ感のある物でした。 「土壁材料の宝庫!!」の思いは一気に消え失せ、 同時にきちんとした土壁を完成させるために必要な、材料の選択や前処理等の左官職人さんの技に想いは廻り、 「簡単に考えていた土壁の補修、 俺がうかつに手出ししない方が良さそうだな・・・」そんな弱気に一気に傾いたのでした。