
高森美由紀の『山の上のランチタイム』『山のふもとのブレイクタイム』の2部作で彼女の本に出会った。2作目の『山のふもとのブレイクタイム』を先に読んだ。もし、『山の上のランチタイム』を先に読んでいたなら、僕はそれだけで彼女の本を湯まなかったかもしれない。2作目の前半はすごくよかった。だから、この作家を信じようと思えたのだ。
お話は定番のハートウォーミングでそれはそれでなかなか面白いのだけど、実は読みにくい小説だった。読んでいて途中からスピードが落ちた。文章の流れが悪くて話がわかりにくい。そこを2冊目を読み終えて確信した。心地よくはない。リズムが悪い。ということで、本作は3冊目。覚悟して読み始めたのだが、前2作よりはうまくなっている。(ということは、毎回少しずつ成長している)
今回は「菱刺し」がテーマになっている。より子先生(カバーにあるおばあちゃんです)の南部菱刺し工房にやってくる受講者(というか、ここは自由に来ていい場所で、より子先生が指導してくれる)たちのお話。4話からなる中短編連作。進路に悩む受験前の高校生、高校時代から知っていた同級生との結婚を控える若い女性。母親の認知症に悩む50代女性。そして引きこもりのより子先生の孫。4人を主人公にした4篇は通しで長編小説にもなっている。各エピソードの最後にはより子先生の過去のお話が収められている。小さく挟まれているそのエピソードが胸に痛い。そこには彼女が生きてきた軌跡がさらりと綴られているのだが、それは本題のお話とも微妙にリンクしていく。各エピソードの主人公は、もちろんほかのお話にも登場する。(みんなこの工房の仲間だからね。)4人の4つのお話も連動する。
短編連作は先の2部作と同じパターンだ。3世代の女性と、恋人を事故で失った男性。それぞれの悩みや痛みに寄り添いながら、彼らが南部菱刺しを通して成長していく姿を描く。それもよくあるパターンだ。だが、今回は全体が見事に計算されていて最後のより子先生の死まで淀みない。そして4人は先生のやり残した仕事を引き継いでいく。構成力が素晴らしく、それが作品の力になっている。