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映画・演劇のレビュー

『雑魚どもよ、大志を抱け!』

2023-03-30 12:18:55 | 映画

こんな内容なのになんと2時間25分の長編映画だ。主人公は小学6年生の男の子たちだけど、それに一見『スタンド・バイ・ミー』だけど、これはただの甘い懐古映画ではなく、なかなかのハードボイルドなのだ。前半の悪ガキぶりは少しえげつないけど、後半の虐めも含めて、描写はいささか極端でリアルではないから、反対にそれがリアルな真実に迫る映画になる。

時代は1988年、飛騨市。地獄トンネルの前に佇む4人の少年たち。5年を終えた春休みから始まる。だが、春休みの話ではなく、新学期が始まってからの過酷な毎日が本題だ。描かれるのは幸福だった子ども時代の友情物語ではない。クラスでの虐めや家庭での虐待だ。4人だけではなく、転校生や虐める側も描く。さらには虐めから離脱して転校していく友人も。彼らがこの小さな世界の中で必死にもがく姿を見せていく。果たしてここには出口はあるか。
 
クライマックスはまるで『けんかえれじい』だ。いや、あれは『昭和残俠伝』の高倉健と池辺良だ。その後はまさかの『ビーバップ・ハイスクール』。ラストの駅での別れなんて、ああいう描写は久しぶりだが、昔の映画の定番だ。少し違うけど同じような田舎の駅での別れ、ということで僕は『祭りの準備』を思い出していた。監督はあらゆることをこの1本でやり尽くす勢いだ。
 
足立紳監督はこの1本にすべてを賭けた。渾身の一撃。これまでの2作とも自分の小説の映画化で、自分の体験がモデルになっていた。今回も基本は同じだ。3作とも自伝映画なんて、そんなことが出来た監督は今まで一人もいないのではないか。(なんだか贅沢。)ただ、今回は前2作とは少し違う。距離感がある。主人公たちにべったりと寄り添うのではなく。そこがいい。
 
子どもたちも周囲の大人たちも素晴らしい。こんな人があの頃は確かにいた。特に臼田あさ美のお母さんがいい。無茶苦茶だけど、信念を貫く。そんな彼女を支える父(浜野謙太)もいい。主人公の少年、瞬はこんな両親のもとで、たまらないなぁと思って暮らす。でも、彼はとても幸せだ。それだけに彼の親友である3人の家庭が対称的で、その落差が実は終盤生きてくる。特に犯罪歴のある父(永瀬正敏)を持つ親友・隆造との距離が生まれるシーンからが素晴らしい。永瀬父と瞬が川で釣りをするシーンが終盤の伏線として効果的。
 
これはある種のパターンだが、誰もが心当たりがあり知っていること、それがとても新鮮に感じる。こんなにも定番を踏まえるにもかからわず、それがある種の普遍につながり、説得力のある映画に仕上がる。3作目でついに到達した足立映画の最高作。見事な傑作映画の誕生である。

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