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映画・演劇のレビュー

重松清『季節風*冬 サンタ・エクスプレス』

2009-02-19 19:33:22 | その他
 昨年の夏、このシリーズの第1弾である『季節風*夏』を読んだ。なんだかきちんと季節に合わせたように夏真っ盛りに読むことになった。(偶然だったが)とても気持ちのいい小説だった。12の短編からなる作品集は「夏」という季節の様々な点描を見せる。それぞれのエピソードのなかでそれぞれの人たちが生きる。同じように夏を生きていた僕にとってそれらお話はそれぞれ自分のことのように胸に突き刺さった。重松さんらしい、いつも通りの作品なのだが、それぞれが夏を指し示すのが心地よかった。

 だが、続く『春』を読みながらなんだか、落ち着かなかった。あまりに当たり前の展開がこんどは心地よくはなかったのだ。なぜだろう、と思った。別に前作ほど出来がよくない、とかいうわけではないのにである。それは季節のせいか?春は別れの季節だ。自ずとテーマはそこに絞られる。反対に春は出会いの季節でもあるのだが、重松さんはそっちはあまり得意ではない。

 しして、『秋』である。このブログではもう取り上げなかった。ちゃんと読んだのだが、何も書くことが浮かばなかった。無理して書かないというのが基本姿勢なのでスルーした。もちろん『秋』が悪い小説だった、なんていうことは断固としてない。いつもの重松さんだったのだ。マンネリとはいわない。なぜならずっと彼はこの調子である。今に始まったことではない。僕が飽きたのか、と言うとそうでもないのだ。どんどん読めるし、読んでる時間は楽しい。だが、後に残らない。

 それは今回の『冬』も同じである。誠実な小説集だ。その誠実さが鼻に付く、だなんて言うとなんだか失礼だ。だが、敢えてそんな憎まれ口を叩きたくなる。上手く書けた短編だ。職人芸である。だから、なんだか物足りない。いかにも、な話ばかりが並ぶ。泣けるし、胸が痛くなる。だが、なんだかなぁ、と思う。小手先で作ったなんて、言わない。そんな失礼な!だが、最初の感動はここにはもうない。それが悲しい。

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