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映画・演劇のレビュー

ヨルノサンポ団『あすのことはこれから』

2021-03-26 10:18:46 | 演劇

現在配信で公開されているヨルノサンポ団のウイングカップ参加作品。今回のウイングカップの掉尾を飾る作品なのだけど、コロナ禍で予定されていた公演が中止となり、代替措置としてこの作品が上演されることになった。実は配信ではなく、録画撮りのための公演を見せてもらった。

一人芝居で30分の短編だけど、実に丁寧に作られていて楽しめた。たわいないお話だといえばそうで、見終えた後、忙しくしていて気が付けば今日までこの感想を書くのを忘れていた。それはつまらなかった、とうことを意味しない。

あっさりしていて、後腐れもなく、気持ちよく見れたという事だ。だから、終わった後、「楽しかった!」終わり、という感じで、何も残らなかったのだ。こういうたわいなさは悪くない。この時期にわざわざ作るのだからと、肩ひじ張った作品にするのではなく、軽やかにしばしの時間を楽しんでもらいたい、という作り手のスタンスは好ましい。ある日、家に届いた「化け物」。その飼育の日々が描かれる。と書き出したけど、その前にこれを書くためにもう一度、配信されている映像作品を見た。

うまく編集されていてとても見やすく面白く見れた。劇場で見た作品と較べても遜色はない。バケモノは「家に届いた」のではなく、拾ってきたんだった。段ボールに入っている小さな小動物と過ごす1日(その飼育の日々、でもない)。

その日は雨。いつものように会社に向かう途中でこの段ボールに入ったバケモノと出会い、家に持って帰る。会社をずる休みして過ごす時間。だが、何度となく会社から電話がかかってきて、心を休ませることはできない。就職して5年。雨が降ってなんだか憂鬱な日。こんな世界はなくなればいい、と思う。そんな気分がこの寓話を通して描かれる。どんどん大きくなるバケモノは彼の抱える怒りの象徴だ。何不自由なく暮らす日々。有名保険会社に就職し、悠々自適の毎日のはずなのに、イライラが募ってくる。最初に「たわいない」と書いたけど、この作品は、実は必ずしもそれだけではない。ただ、さりげなく描かれるこの憂鬱は誰もが抱えるものだろう。とりあえず今日仕事を休んで家にいること。そんな時間の気分が描かれる。

 


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