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映画・演劇のレビュー

『ミナリ』

2021-03-26 10:08:24 | 映画

80年代のアメリカを舞台にした韓国人の移民のお話。(最初はこれはいつの時代の話なんだろうか、と気になっていた。大統領の名前が出てきてようやく時代背景がわかる)若い夫婦とと2人の子供たちがアーカンソーの高原にやってくる。そこにあるのはトレーラーハウスだけ、何もない。

カリフォルニアでやっていたひよこの選別の仕事をここでもしながら、土地を開墾して農業を始める。今後需要が見込まれる韓国の野菜を栽培して売り出す計画だ。なんとかしてここで生き抜く。故国を離れ異国の地で生計を立て生きる覚悟だ。しかし、なかなかうまくいかない。夫婦の間に亀裂が生じる。当然ここには身寄りもなく、もちろん戻ることも叶わず、ここにしがみついて生きるしかない。だけど、妻はもうそんな彼についていけないと思う。妻の母親を呼び出して同居することにしたときは、それでうまくいくかとも思えた。下の男の子は、最初なかなかおばあちゃんになじめない。やがて、なんとかやっていけるようになったと思ったら、今度は祖母がボケ始める。一難去ってまた一難。落ち着くことはない。

映画はそんな家族の生活を淡々としたタッチで追う。こうしてストーリーを書いていけばドラマチックだけど、映画自体はさらりとした描写で見せてくれる。長い時間を描くわけではない。でも、丁寧に小さなことを描く。だからリアルだ。生きていくことって何なのか、その本質を考えさせられる。優れた映画はどんなお話であろうともそれが普遍に通じる。韓国からの移民家族の物語が自分たちの今に通じる。

映画の終盤、祖母が壊れてくる部分が怖い。介護の問題が前面に出てくる。先日見た『夏時間』は、いきなり祖父が倒れてそのまま鬼籍に入ったが、現実はなかなかそうはいかない。(もちろん老人は家族を困らせないで死ねというわけではないよ!)

弟と祖母がミナリ(韓国のセリ)を栽培するエピソードが、転機になり、ラストへとつながる。これから彼らがどんなふうに生きていくことになるのかはわからないけど、2時間の映画を見ながら、どんなふうにでも生きていけるし、生きていくのだということを実感させられた。これを見ていると、じんわりと、なんだかよくわからないけど勇気が湧いてくる。ここには押しつけは一切ない。とても自然体で、あるがまま。これはそんな素晴らしい映画だ。監督は韓国系アメリカ人であるリー・アイザック・チョン。

 


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