これは凄い。思いもしない出来に驚く。こんなにも新鮮な驚きに満ちた映画には、なかなかお目にかかれまい。思いがけない拾い物で、ニンマリさせられる。前田弘二監督の2作品(『婚前特急』『わたしのハワイの歩きかた』)はいずれもおもしろかったけど、だからどうだ、というほどではなかった。『婚前特急』はコメディーとしてよくできているけど、中の上くらいか。でも、今回は違う。
この映画のテンポのよさ。主人公ふたりの掛け合いの見事さ。このバカバカしい設定に一気に引き込まれていく。見ている僕らまで、調子に乗りまくって、どんどん話にのめり込む。「それはないだろ、」と思いつつもラストまで一直線だ。
数学バカの予備校講師と女子高生。世の中のふつうになじめない二人はふつうを目指して破天荒な戦いを繰り広げる。先生に対しての恋愛指南。のはずが、やがて、なにがなんだかわからない事態に。ああ言えばこう言うで、噛み合わないけど、丁々発止のやり取りで、見たこともない恋愛映画は繰り広げられていく。成田凌が素晴らしい。それに輪をかけて清原果耶が凄い。この主人公ふたりの掛け合い漫才のようなやりとりだけで成立している。
これは一応恋愛映画だけれど、もちろんふつうじゃない。しかも、エリック・ロメールの映画を見ているような気分。それってすごくないか。軽やかで爽やか。
それにしても、基本設定である予備校の先生がその教え子である生徒から恋愛指南を受ける、ってなんだ? だから一応コメディなのだけど、バカバカしいのに真剣。恋とは何なのかを本気で考えて(教えて)くれる。いきなり高校生カップルのところに行って「ふたりはどうして付き合っているんですか」と聞きに行くシーンが凄い。わからなかったら聞くしかない。答えるふたりも大概だけれど、清原果耶は真正面からどんどん質問攻め。悪びれることもなく、きちんと聞く。だからカップルも正直に答える。
主人公のふたりともがまっすぐで、この映画のそんな生真面目さはなんとも気持ちがいい。彼らが恋愛に向かって突き進む。好きに向かっていく。ふつうなんてどうでもいい。大切なものはこの正直さだ。