
これはとても面白い。2時間14分のそこそこの長尺があっという間だ。エンタメ娯楽映画としてよく出来ているだけではなく、実話を題材にした社会派映画としての要素も踏まえた上で歴史の謎を描くミステリ作品としても面白い。さすが『アメリカン・ハッスル』のデビッド・O・ラッセル監督だ。最初から最後までスクリーンに釘付けされる。実にテンポのいい展開で、でもマイペースで悠々としたタッチ。なのに中だるみは一切ない。派手なアクションはないし、そんな映画でもない。でも、終始ドキドキさせられるのだ。
3人の男女が主人公。このトリオがとてもいい。彼らの友情と恋が描かれる、というのならこれも定番の展開だが、必ずしもそれだけではない。この3人のただの恋愛や友情ではない不思議な関係が面白い。戦場での出会いから彼らがアムステルダムで過ごす時間を描く冒頭部分が凄くいい。だから、その後の本題に入っても彼ら3人にしっかり感情移入できる。しかもお話自体もこの先どうなるのか、これがどんな話なのか、わからないまま急展開していくからスクリーンから一瞬も目が離せない。次々と新しい人物が現れてきてお話は意外な方向へとどんどん急展開していく。
1933年、ニューヨークから始まる。戦争でボロボロの体になったクリスチャン・ベール演じる医者が、相棒の弁護士(ジョン・デヴィット・ワシントン)から戦時下お世話になった上官の解剖を求められる。彼の死に不明な点があるという娘からの依頼で、急を要するから2時間でね、とお願いされるのだ。彼はなにがなんだかわからないままこの事件に巻き込まれていくが、すぐに依頼者である娘も殺される。しかも自分たちが犯人にされ現場から逃げ出すことになる。そして彼はアムステルダムで別れたままだったマーゴット・ロビーと再会する。そこから3人による冒険が始まる。
と、こう書くとよくあるミステリの始まりだ。この冒頭の後お話は一気に15年前に遡り、第一次大戦下のフランス戦線へ、そこでの3人の出会いが描かれる。さらにはタイトルのアムステルダムでの夢のような時間が描かれるのだが、この回想シーンが素敵で彼ら3人のドラマがきちんと描かれるからその後、当然だが、もとの時間に戻り、お話が本題へと突入するところからの彼ら3人に感情移入できる。(あっ、それさっきも書いたな)それにしても実にうまい作り方だ。もちろん奇を衒うのではなく正攻法でちゃんと描かれていく。だからこれはお話の王道パターンだろう。
歴史を変えるような陰謀を描くのだが、あくまでもこれはまず3人の友情と冒険の物語だ。終盤登場する「大物」(役の上でも大物)ロバート・デ・ニーロの圧巻の演技も素晴らしい。悪役ラミ・マレックも「小物」感丸出しの演技で楽しい。堂々たるエンタメ大作映画で、今年のアカデミー賞にぴったりの作品。最近、アカデミー賞はなんだかアートっぽい小品映画が多かったがアカデミー賞はみんなが楽しめる社会派大作エンタメがいい。だからこれが文句なしでいいだろうと思う。