これは凄い。愛について、結婚について、真正面からこんなふうに切実に向き合う小説なんてなかなかないだろう。しかも、きれいごとではなく(でも純粋に、)である。だから読んでいてそのストレートさが気持ちがいい。
ふたりの女性が主人公だ。梓は40代になったばかり。夫が恋人を作り家を出ていく。離婚して欲しいと懇願される。だが断固として応じない。よくある話だろう。10歳年上の夫は音楽家で彼女は音楽ライター。彼の才能に惚れ込んで、結婚した。百合子は専業主婦で55歳になる。30歳になるひとり娘には、恋人はいるが結婚する気はないし今も実家にいる。夫は、今年定年退職して今は働いていない。毎日何もせずに家にいる夫が鬱陶しい。
こんなふたりとその周囲の人々を通して「結婚とはなんだったのか」をさまざまな角度から考察していくことになる。お話自体も確かにおもしろいけど、これはストーリーで引っ張る小説ではなく、さまざまな立場に立たされた状況下で彼女たちが自分自身を見つめなおす過程をしっかりと言葉で語っていくところが肝だ。特に終盤のふたりの会話(対決?)がいい。立場の違うふたりがそれぞれ結婚って何だったのか、自分の経験から、今の思いをぶつける。そこから従来の結婚ではなく新しい結婚の在り方が提示されていく。
百合子は自分を平凡な主婦だと思っていた。何の疑いもなく今の環境を受け入れてここまで来た。梓は自分が夫を支えてここまで来たという自信を持っていた。しかし、それは自惚れでしかなかったのかもしれないと疑いを持つ。本当の自分の人生はどこにあるのか、ふたりはそれぞれ考える。そして、答えを出す。
彼女たちだけではなく、ふたりの夫たちも娘たちもまたそれぞれ変わっていく。そこも面白い。別れることで、距離を取ることで、あるいは時間を置くことで、夫婦のありかたを見つめなおすことになる。そこには絶対的な答えなんかはないけれど、ここで示される方向性にはなんだか納得させられる。