後半に入るといきなり転調する。5話目の『ゆがんだ球体の上の小さな楽団』からだ。大昔の楽団の話。ここからさまざまな物語が微妙なバランスでつながり、再び最初の3人の話にいきなり戻ってくるけど、それさえ大きな『78』世界の思い出に思える。すべてが過去のなかに取り込まれていく。
ここに流れる時間は過去と現在、もしかしたら未来までもが渾然一体となっている。最初はハイザラとバンシャクの話だったはずなのに、しかも彼らはまだ子どもだったのに、次には大人になっていたり、そこにカナさんが現れて三角関係のラブストーリーのようになってきたら、SP版の店主まで絡んできて四角関係?なんてないし、と思う間もなく店主は行方不明に。
その先はもうすべてが夢のような、でも別々の話はみんなひとつになっている。夜の塔に住む7人の姉妹。作家、音楽家、老人、父親、息子。それは今ではほぼ幻のレコードである78版がつなぐ世界。確かにここにあったけど、今はもうないし、聴くことが難しい世界。懐かしい幻の記憶。まだ初期の作品だけど、この後に書かれたものを再現している完璧な吉田篤弘ワールドがここに全開する。