ジム・ジャームッシュの新作である。それがなんとゾンビ映画なのだ。なんで、またそんなものを彼ともあろう人が手掛けるのか、とは思わない。今ではもう十分巨匠の域に達した彼がこんな題材を手掛け、もしかしたら彼のことだから普通のゾンビ映画じゃないよな、というような(一応の)期待をちゃんと見事に裏切って、これがまぁ、なんと「ふつうのゾンビ映画」なのだ。やれやれ。まぁ、そこはそれ、彼のことだから、ただのホラー映画にはならないのだけど。でも、特別なことはしないし。それにしてもこのタイトル。なんだかふざけているのか、まじめなのか。
映画はのんびりしたタッチで、どうでもいいようなスケッチから始まる。だからこれは、いつものジャームッシュ映画なのだ。でも、いきなり、ゾンビが出てくる。だんだんドンドコ、出てくる。ゾンビが人間を襲う。よくあるパターン。でも、映画は怖がらせるのではない。ホラー映画ではない。確かに、よくあるゾンビ映画の轍を踏む。ルーティーンから外れない。いろんなところで作られたゾンビ映画と大同小異だ。なにも、こんなのを彼がわざわざ取らなくてもいいじゃないか、と思うくらいのさりげなさ。ふざけているのでも、面白がっているのでもない。たまたまゾンビだった、というくらいの映画なのだ。コメデイというわけでもない。ゾンビのいる淡々とした田舎町のスケッチである。
では、なぜ、彼はこれを撮ったのか。しかも、こんなオールスターキャストを動員してまで。遊び心、というにしては、生真面目すぎる。相変わらず、ボーッとしたアダム・ドライバーが主役なのだけど、上司のビル・マーレイとふたりでフラフラしているだけ。彼らはこの町の警官なのだけど、この事件をどうにかしなくては、とか思わないし、奮闘するわけでもない。「あちゃぁ、なんだかなぁ。やだなぁ」という感じで、ただただ傍観するばかり。それって『ストレンジャー・ザン・パラダイス』の頃と変わらない。ということは、これって昔ながらの肩の力の抜けた彼の映画なのだ、ということだ。モノクロだったら、よかったのに、という感じ。でも、見終えた後の気分はモノクロ映画を見た気分なので、これでいい。