習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

よしもとばなな『彼女について』

2009-04-24 22:06:00 | その他
 この結末には驚かされる。この手の小説でこういうパターンを持ってくることはない。よしもとばななだからこそ出来る業だ。こんなチープなラストは普通しない。日本の純文学界でこれを成し遂げたのは彼女が初めてではないか。画期的である。

 北村薫が『ターン』や『スキップ』で仕掛けたトリックは最初からそういう発想でこの小説を見せます、という意思表示なので、驚かないが(それにあれらは純文学ではないし)よしもとばななはそんなそぶりすら見せないでこの手のショッカーものの轍を踏む。ラストでいきなり見せる。そこまで隠す。2度とこの手は使えないが、1度なら通用する。

 惨劇の後、心に傷を負った少女が主人公だ。記憶を記憶をなくしたまま、大人になった。彼女のところに、やって来る青年。彼は彼女のいとこで死んだ母親(彼女の姉)の遺言を全うするために彼女を助けにやってきた。2人による彼女の魂の救済の旅が描かれていく。小説は気持ちが悪いくらいにありきたりのパターンを踏む。いかにもよしもとばななが好きそうな話だ。3分の2くらいまで読んでいて、少しもどかしい、と思う。話がすっと入ってこない。決してつまらないわけではないのだが、ストーリーの展開が遅く、そのくせ定石(いかにもよしもとばなな)を一歩も出ないので、なんか退屈してくる。

 結果的には新機軸を打ち出しているのだが、正直言うとこの程度では感心しない。たしかに驚いたけど感心しないということだ。安っぽいホラー映画(下敷きにしたのはダリオ・アルジェントの『トラウマ』という作品)の骨格を使って、純文学スタイルの中で、作ったこの癒しのドラマは確かに「ばななワールド」だが、こういうのを新境地とは言わない。なんか騙された気分だ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『早熟 ~青い蕾(つぼみ)~』 | トップ | 西加奈子『うつくしい人』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。