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映画・演劇のレビュー

『ミスト』

2008-11-24 20:44:54 | 映画
 フランク・ダラボン監督によるスティーブン・キング原作第3弾。過去の2作品の流れからは少しイメージが外れるが、並みのキング映画化作品とは一線を画する作品だ。『ショーシャンクの空に』(これが一番キングの映画化作品で好き)も『グリーン・マイル』もキングのホラーとは違いヒューマン映画に分類したほうがいい作品だったが、今回は堂々とホラーに分類できるような映画だ。だが、それはこの映画を貶すことにはならない。

 それどころか初めてダラボンがキングらしい映画に挑戦した記念碑的な作品と呼んでもいい。正統派キング映画と呼ぼう。このジャンルの代表作はきっと『シャイニング』だろうけどあれはスタンリー・キューブルック監督作品なのでキングである前にまずキューブリック作品と呼ぶしかない。そういう面ではあれは除外だな。

 では何が一番よくできたキングらしいキング映画だろうか。過去の作品をリストアップしてベストテンとか作ったら楽しいだろうな。多分劇場公開された映画は全部見てるはずだ。個人的にはトビー・フーパーの『死霊伝説』とか、カーペンターの『ザ・フォッグ』(今回の映画と題材の取り方は同じだ)が好きだが。

 さて、この映画の話だ。これは数あるキング作品の映画化のなかでも白眉であろう。さすが、である。冒頭から上手い。摑みが短い。だが的確だ。霧が立ち込めてきて、彼らがスーパーマーケットに閉じ込められて外の霧を見つめる。何かが起きている。この霧の中で。何が起こっているのか分からないまま、彼らが徐々に追い詰められていく。このへんの描き方が実にうまいのだ。

 なんだかジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』を思わせる。あの映画のゾンビが何だかわからないものになり、それが蛸の足とか、巨大な蚊の化け物とかになった感じ。バカみたいな話なのだが、それをバカみたいには描かないで、緊張感のあるドラマにしてしまう。それってかなり凄いことだ。外の様子は霧の中なのでまるでわからないが、そこから訳の分からないものが続々とやって来る、という展開はありきたりなのに。

 かなりやばい。ただの下品なパニックホラーになってしまいそうだが、なんとか踏みとどまる。そのバランス感覚はピカイチだ。そう思わせたのは、この映画がこのマーケット内の人間関係をきちんと描くからだ。しかも、旧訳聖書を盾にして煽動する女の存在がどんどん大きくなるところから、映画は集団ヒステリーの様相を呈していく。(これって先日見た『ブラインドネス』ともよく似ている。)

 終末の風景を描いた映画はたくさんあるが、ここまで下品になりそうな題材を、きちんと安っぽいクリーチャーを出しまくるのに、格調高い味わいの映画にしているのはやっぱり凄いと思う。噂の衝撃のラストシーン(劇場公開から時間が経っていたので忘れていた)にはちょっと震えてしなった。しばらく唖然としたまま動けなかった。あれはオリジナル版の『猿の惑星』のラストにも匹敵する。

 

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