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映画・演劇のレビュー

五反田団『すてるたび』

2008-11-24 22:26:42 | 演劇
 前田司郎の小説と同じようにとっても不思議なテイストの芝居になっている。あけてはならない父の箱を兄に唆されて開けてしまう。そのことを姉に指摘されてうろたえる弟。父は必ず自分を殺しに来ると怯える弟。そんなところに兄が帰って来る。兄は以前父が棄ててしまったはずのタロウ(という生き物)が父の箱から出てきて、一緒に飼おうという。

 よくわからないでしょ。こういう不条理で、すっとぼけた冒頭のエピソードから、一気に作品世界に引き込まれてしまう。どんどんそのイメ-ジは変容していく。ここまででも充分に異常なのだが、こんなのは序の口。2人はタロウを姉の口の中で飼おうとする。口の中で飼うっていったいなんだ?

 父への恐怖から、横滑りした話は、『父の死』(これがこの芝居のテーマだったりする)へと一気に流れていく。だが、死んだのは父ではなくタロウで、弟はタロウの葬儀を妻と2人で執り行う。すると兄と姉もやって来て、まぁ、家族だから当然なのだが、4人でタロウ葬るための旅に出る。タロウを冷凍にして棺に入れて運ぶ。4人掛けの電車の網棚にあげたタロウからへんな液体が落ちてきて兄の体にかかる。4人の旅は温泉旅行になり、これから生まれてくるタロウを授かるため神社に行って祈る。タロウはこの夫婦の子供だったのか、と気付く。弟は安産のために暗くて狭い穴に入る。穴はどこまでも続いている。狭くて戻れない。恐怖する。しかし、しかたなく先へと進む。その先は温泉に続いていて、そこで湯に浸かっていたら、兄が入ってくる。温泉はいつのまにか男女混浴になる。男湯と女湯が繫がっていて兄は女たちのところにいこうとする。弟は必死になって防ごうとする。妻の裸を兄に見られたくない。すると妻と姉がこちらにやってくる。

 こんなふうにして、ストーリーを書いていたらきりがない。

 この後、4人は眠りに就く。電気を消してくれという3人に対して弟は暗いのは嫌だと抵抗する。ここで終わるのか、と思った。だが、終わらない。

 4脚の椅子と、この倉庫の据付のドアだけを使ったコスト・パフォーマンス。五反田にある劇団のアトリエでの公演なのだが、2週間、15ステージもやっている。さすが東京だ。150人程は入るこのアトリエヘリコプターは満席で、僕のように当日で来る人は数えるほどしかいない。(この日は3人だった)予約だけで満席になっているようだ。東京で芝居を見るのってなんだか大変だなぁ、と思う。

 ここまでずっとストーリーばかり書いてきたのは、なぜかこんな話なのにわりとはっきり順を追って覚えていたからだ。それでついつい調子に乗って書いてしまった。もっと細かく書くことも出来るが、きりがないのでこのくらいで止めておく。

 このストーリーにはおそらく深い意味なんかなにもない。ただの夢のお話だと思って間違いなさそうだ。ここから意味を引き出して、どうこうしたいとは思わない。ただ、見ていて気持ちがいいのは確かで、1時間20分程の芝居がまるで延々と続くような気持ちがした。いつまでも終わらない心地よい夢をずっと見てる気分だ。これって作、演出、そして兄役で出演もしている前田司郎さんの特徴だ。だからどうしたとかは思わない。くだらないわけでもない。それどころかかなり感動した。意味がないのに面白い。これだけの緊張感を持続させれるって何なのだろうか。何にもない。なのに凄い。何もないことが凄いってなんだ?

 『すてるたび』という意味深なタイトルは『棄てる旅』なのだが、『棄てる度』でもある。意味はないけど意味深とはなんだかそれもおかしい。

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