今年もウイングカップが始まった。十年目となる今年は7劇団が参加する。昨年に続いて2年連続となるこの劇団三日月の公演を皮切りにして来年の1月まで続く。
さて、劇団三日月『雪解け』である。短いシーンで繋いでいくオープニングが心地よい。新婚家族に子どもが出来る。さらに2人目が生まれ4人家族となる。やがて子どもたちが成長していくまでを一気に見せる。そこから始まる物語は決して幸せなお話ではない。気の弱いお父さんは家族からバカにされている。妻も愛想を尽かしている。この家族のお話を中心にして都合3つのお話は交錯してひとつの物語を紡いでいくのだが全体のバランスが悪い。3つのお話は重なり合い、取りあえずはゴールにたどり着くのだが、あれでは納得がいかない。
壊れ始めていた家族の再生までが描かれるある意味でお決まりのパターンなのだが、同時進行する他の2つの話がうまく絡み合わないのが辛い。3つが等価で、それぞれがある種の典型となればいいのだが、中心となる家族の話と較べると、弱いから、サブ・エピソードにしかならない。しかも、説得力がない。家族を失った男と、好きな女に振り向いて貰えない男。家族を作れない彼らが家族を作った男の憂鬱と背中合わせに成り、そこからある種の答えへとたどり着けばいいのだが、クライマックスの事件も含めてお話が弱いから、せっかくの題材を生かし切れていない。
やりたいことはわかるのだが、そこに技術がついていかないのが現状なのだろう。作、演出の尾西節生はとても真面目で一生懸命芝居に取り組んでいる。やりたいことにブレがなければ、そこに向かって少しずつ前進していけばいい。時間がかかってもいいじゃないか。出来るだけもっと丁寧に日常のスケッチを積み重ねて欲しい。僕たちの毎日に銃はいらないはずだ。そういう飛び道具に頼るようなお話は作らない方がいい。日常の機微を通して,ドキドキするような家族のドラマを作ることは可能だ。コミカルとシリアスのバランスも悪いから、いっそのことすべてシリアスで最後まで貫けばいい。中途半端な笑いを取って、自分に逃げ場を作ってはいけない。主人公である彼らをギリギリまで追い詰めたところから,どこに着地できるか、それが作家としての試練である。