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映画・演劇のレビュー

宮部みゆき『小暮写真館』

2010-09-02 21:10:52 | その他
 あのカバー写真の風景にたどりつくまでに、なんと710頁も読まなければならないなんて、ちょっと酷すぎる。あのカバーに心惹かれてこの小説を手に取ったのだが、それがこんなにも困難を伴うものになるなんて、思いもしなかった。この遠く果てしのないドラマは、4つのエピソードからなる連作というスタイルにもなってはいるが、実際は4章仕立ての大長編である。

 最初は心霊写真の謎を解明する素人探偵の話、のように見せかけといて、第3話から少しずつ軌道修正が為される。これは本当をいうとまず家族の話であり、彼ら4人がこの古屋に住み込むことで、本当の家族になるまでのドラマだ。さらには、主人公の少年が、自殺癖のある年上の女性になんだか、ほんの少し恋心を抱き、彼女を助けようとする話でもある。だから、これは意外なことに恋愛ものなのだ。

 去年85歳で亡くなられた小暮老人がひとりで住んでいた写真館を買い取って、そこを自宅にして暮らし始めた花菱一家の物語である。長男の英一を主人公にして、彼の友だちのテンコやコゲパン、そして年の離れた弟である光(ピカ)たちが、心霊写真を巡る事件を解決していくという1話完結のスタイルからスタートする。

 だが、先にも書いたようにそれは2話までで、3話からは家族の話にスライドする。4歳で死んだ妹の風子を巡る話を中心にして、4人家族の心の絆が描かれていくことになる。死んだ小暮老人の幽霊を見ることが、ドラマの鍵になるのだが、ちゃんと矩をわきまえて、ファンタジーのような展開は見せないのがいい。

 けっこう盛りだくさんでエンタメ小説としては飽きさせない。しかし、これが面白いかというと、少し微妙だ。残念だが、この程度の話では夢中にはなれない。全体の構成には難がある。700頁というのもなんだかなぁ、と思う。バランスが悪すぎる。描きたいことがあちこちに揺れすぎて、まとまりもない。ただ、あの写真に到るラストの展開はなかなかいい。ほんのちょっとした立ち直りが心に沁みる。



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