baghdad cafe 『ごっこでいいから、手をつないでて』

　前作『ワタシ末試験《追試》』に続いて、さらにあのやり方をエスカレートさせた最新作である。どこまでが本当で、どこからが嘘なのかもわからない。嘘とか実とかとかいう境界線を軽々越えてしまって、ひとりの少女の内面の旅が描かれていく。見た目のカラフルさにだまされてはならない。

　これはとても痛ましい話だ。つまらない男に貢いですべてを失ってしまう女の孤独が、これでもか、これでもか、と描かれる。あんな詰まらない男にどうして入れ込んでしまうのか。だまされていることなんか、誰にでもすぐにわかることなのに、彼女は騙されているとは思いたくない。自分のことを彼は愛してくれているから、彼の愛を信じてしまう。たまらなくバカな女なのかもしれない。しかし、そう思わなければ生きていけないくらいに彼女は孤独なのである。人間の底なしの孤独をバカにしてはならない。

　彼女の精一杯の生き方を肯定してあげよう。（なんだか、エラそうな言い方だなぁ。まぁ、いいやぁ）それでなくてはあまりに彼女が哀れだ。でも、なんだかそれは虚しい。サッチン（一瀬尚代）を巡る５人の女たちは彼女の内面と外面を象徴する。彼女の分身であり、彼女が向き合う世界そのものだ。ここに描かれる風景はリアルではなく、彼女の震える心の象徴でもある。

　彼らの纏う思いきりハデで奇抜な衣装は、彼らの心情を説明したりはしないのがいい。これは自己主張ではないのだ。この衣装をまとった役者たちは、そうすることで反対に自らの内面を隠すことになる。これは一種の武装装置なのである。視覚的に過剰で豊穣なもの（衣装）を通して、結果的にはそこには見えない、隠されたものが描かれる。

　タイトルが示すように、ここには「ごっこ」しかないのだ。現実に目を瞑り、「ごっこ」に生きる。なのに、彼女（ら）は、その「ごっこ」すら、信じていない。そんな絶望的な状況が延々と描かれていく。これは一種の地獄巡りだ。作、演出を担当した泉寛介さんはいつものように一瀬尚代さんを通して、それを描く。作者の真実がどこにあるのか、明確にはならないのが幾分もどかしく、はぐらかされたような気分にもなるが、この痛ましさをこういう形で具現化したことは高く評価されていい。