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映画・演劇のレビュー

『散歩する侵略者』

2017-09-20 19:23:54 | 映画

 

黒沢清がコメディ映画を作ったら、こんなことになりました、って感じ。(もちろん、コメディではないです。一応SF)笑えるけど、それは別に受けを狙ったわけではない。この設定が冗談のようにしか見えない、というだけのことなのだ。あまりにバカバカしいから長澤まさみはずっと怒っている。ふざけるな、という思いからだ。

 

行方不明だった夫(松田龍平)が帰ってくる。まるで違う人になっている。しかも、自分が宇宙人だと言う。映画はそこから始まる。その先徐々に恐い話になるのなら、いつもの黒沢映画なのだが、今回はどこまで行っても、そうはならないのだ。別におふざけ映画だというわけではない。至って真面目だし、映画自体はいつもの黒沢映画のテイストをキープしている。でも、お話の内容が荒唐無稽だと、映画の中の人たちが思う。僕たち観客はすぐにこの設定を信じる。(映画ですから)でも、彼らはどんなことが起きても信じ切れない。

 

そりゃぁ、彼らが変態して、それらしい姿にでもなれば信じるのだろうけど、どこまでいっても夫は夫のままだし、他の2人もただの女子高生と男の子でしかない。この宇宙人は、ウイルスのようなもので、人間の体の中に入り、共存する。本体を乗っ取り、寄生する。記憶は以前のままだが、もうオリジナルの意識は存在しない。体を乗っ取り、その人間として暮らす。彼らは地球を侵略するためにやってきた。やろうと思えば、簡単に侵略はできるようだ。だが今は人間のリサーチをしている。人間からいろんな概念を奪う。その上で、時が来たら仲間を呼び、数分から数日くらいで人類だけを滅亡させる。

 

なのに、映画の終盤、なんと3人のうち2人が死ぬ。え! 死ぬんだぁ、そりゃそうか、本体は不死身ではないし。じゃぁ、さっさと3人を殺していたら侵略なんてされないんじゃないかな、と突っ込みどころは満載なのだけど、黒沢清だから、そこに何かもっと深い意味が隠されているんじゃないか、と思わせる。

 

前作『クリーピー』の衝撃から、(公開が前後したが、『ダゲレオタイプの女』はその前の作品だと、思う)今回の別の意味での衝撃へ。黒沢の進化が楽しい。彼は同じスタイルでまるで違う作品を作れるのだ。だいたいこれは一応SFなんだから、そこも凄い。こんなSFはなかなかない。

 


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