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映画・演劇のレビュー

『子どもたちをよろしく』

2025-01-31 21:49:00 | 映画
隅田清監督の2019年作品だ。今頃Amazonで配信されているのをたまたま見つけた。実は公開時にぜひ見たいと思っていたのだが、地味な公開しかしなかったから見逃していた。彼のデビュー作『ワルボロ』(松田翔太、新垣結衣主演)は東映のよくある〈不良「学園もの」青春映画〉である。『ビーバップハイスクール』が大ヒットしてその何匹目かのドジョウ、安易なB級映画のはず、だった。しかし彼はこれをそんなつまらないバッタもの、ただの亜流映画(本家の仲村トオルが出ているけど)にはしなかった。

あれは2007年の作品である。同じようにケンカばかりしているけど、本家本元であるビーバップとは違って、重くて暗いシリアスな作品になっていた。いい映画だったがその後、彼には第2作はなかった。

あれから12年。これが彼の待望の第2回監督作品である。今は亡き澤井信一郎監督が協力(特別協力とクレジットにはある)している。そして映画評論家(僕は彼の書いた70年代の批評が大好きだった)であり文科省の役人だった寺脇研が製作。いじめ問題を扱って重くて暗い救いのない映画である。だからこそ隅田監督らしい映画だ。これは2020年に公開された。

映画としては必ずしも成功していない。いじめをするなかよし4人組の描き方もあまりリアルではない。ひとりだけ女の子が混ざっている意味も曖昧。彼女の立ち位置にもっと言及する必要がある。何故彼女は男の子たちといるのか。女の子の友達がいないのはなぜか、とか。さらには彼女の誕生日パーティーに大人たちがたくさん来て、市会議員の挨拶まである。あれはさすがに異常だ。彼女の母親が次期市長だというけど、それでも子どもの誕生日パーティーである。参加者には子どもはいつもの男子3人しかいない。デリヘルの描写もなんか中途半端。

東京近郊の地方都市を舞台にして、ふたりの中学生たちが描かれる。これはあくまでも彼らふたりの話である。虐めるものと虐められるもの。だけどふたりは背中合わせの悲惨を背負う。ふたりの家庭をじっくり描くところから映画は始まる。加害者と被害者という立場ではない。どちらも被害者である。こんな世の中で彼らなりに生きる。ふたりの父親が酷い。元凶はこのふたりの弱い男たちである。彼らが自分の家族を守れないから子どもたちは苦しむことになる。犯人を虐めの加害者である少年にすることで事件をうやむやにする。彼は自分に正直になり、クラスメイトの自殺の原因は自分にあると言う。死んだ息子の父親は事件の真相を究明して欲しいとマスコミに訴えるが、少年を死なせたのはお前じゃないか、ということは明らかだ。このバカバカしい幕切れは辛辣だけど、なんか釈然としない。

タイトルである『子どもたちをよろしく』って誰に向けて言っているのか? 他人事でないことは明らか。子どもたちを守るべき大人たちはまるで役には立たない。





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