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『マリッジブルー』が素晴らしかったので、引き続きこの新刊も読みたいと思った。こちらは短編集だが、これもカツセマサヒコらしい力作(だけど、力の抜けた作品)が並ぶ。
7つの作品はいずれも海辺にお話だ。最初の話は、引っ越して来た海辺の街で昔の彼女と再会する話。12年振りに会った彼女には6年生の子供がいる。別れた後すぐに生まれたのだ。夫とは3年で別れてシングルマザー。同じ街に住んでいるからまた逢うかもしれないし、メールの交換もした。
次は、12歳の3人が山の方の公園に行く話。クラスの女子たちがそこにタイムカプセルを埋めたらしい。掘り返して中身を見るために。気になる女の子の10年後の自分への手紙を盗み読みする。義父になる男からのセクハラが書かれてある。気まずい想いをする。
この二つの短編から始まって、もちろんすべて海辺での出来事が続く。3作目は担任の先生と彼女の話。休日海辺を散歩する。と、こんなふうにロンド形式で展開していく。と、ここまで来て次の作品はロンドにはなっていない。やはりたまたまここまではつながっていただけかも。気にしない。お話が面白いかどうかが大事。いや、待てよ、とページを戻す。凪斗。あっ!3話の迷子は4話の夫婦の子どもだった!と気づく。これは最後までこのパターンをさりげなく踏襲するな、と確信する。まぁ、些細な仕掛けだけど。これは海によってつながっている他人たちの物語。つながっていると気づくこともないくらいに微かなもの。
『オーシャンズ』のふたりが「わたしたちは、海」と言う。彼女たちは同じマンションで暮らしている御近所さんでしかないけど、まるで姉と妹のようなふたり。特殊詐欺犯罪で逮捕された舷さんと彼を7年間匿っていたフナさんも他人同士。一緒に暮らしていたにもかかわらず。
ロンドでつながっている,わけではなかった。だけど海で確かにつながる。ラストの『鯨骨』の高校時代からの同級生の死。一緒に鯨の死体を見に行ったこと。彼が死んだ後の散骨までが静かに描かれる。微かに誰かとつながっている。あまりに微かで時には見えないくらい。だけど確かにつながる。