習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『ハート・ロッカー』

2010-03-16 23:13:24 | 映画
 キャスリン・ビグローの『ハートブルー』が大好きだった。あんなにもおもしろいアクション映画はなかなかない。ドキドキしながら楽しめて、ドラマとしての奥行きがあるから見た後には余韻がちゃんと残る。単純なアクション映画ではないのだ。FBI捜査官キアヌ・リーブスがパトリック・スゥエイジ率いる銀行強盗団グループの潜入捜査をするうちに、彼らの自由さに染まっていき、その魅力の虜になる。スリルを楽しむための犯罪。彼らは必ずしもお金が目的ではない。スポーツを楽しむように強盗をこなす。

 と、いうことでビグローによるハートシリーズの第2弾がこの『ハートロッカー』である。(シリーズだなんていうのは嘘ですが)

 これはイラクでの爆弾処理班の話だ。新しくこのチームに入った男が、死と背中合わせの危険な仕事に取り憑かれていくさまが描かれる。イラク戦争を描くというよりも、極限状況の中で、それを楽しみ、命がけの遊びに興じる男を描いた映画だ。そういう意味でも、やはりこれは『ハートブルー』とよく似ている。

 ドキュメンタリータッチでシリアスにイラク戦争を描いているように見せながらも、冒頭のエピグラムにあるように、「戦争は麻薬である」というとんでもない状況が描かれていく。リアルな戦場のドキュメントである以上にその危険な誘惑こそがこの映画の核心に近い。そういう意味で、これはとてもキャスリン・ビグローらしい映画だ。もちろん今回は題材が題材だけに今までの映画のようにまず娯楽の皮をかぶっているわけではない。その反対に社会派映画の皮をかぶっている。でも、どちらにしても皮をかぶっているという意味では同じでいささか不謹慎な言い方ではあるが、その本質は命を引き替えにした最も危険な遊戯であることには変わりはない。

 この映画はイラク戦争の真実を描くためのひとつの作品であることは疑う余地はないが、それと同じくらいにビグローの追い求める「ある種の快楽としての犯罪を描く」作品でもある。爆弾処理という仕事は限りなく快楽装置に近いものでもあり、彼はこの行為の中毒患者になる。

 ラストのアメリカに戻って家族と買い物をするシーンが爆破シーン以上に衝撃的だ。その理由は劇場で確かめて欲しい。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『フローズン・リバー』 | トップ | 『花のあと』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。