習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『僕が星になるまえに』

2014-03-28 22:20:33 | 映画
 たった29歳で死ななくてはならない。末期にガンで、次の誕生日まで、命はないから30歳にはなれない。そんな青年(演じるのは今をときめくベネディクト・カンバーバッチ)が3人の友人たちと人生で最期の旅にでる1週間の物語だ。みんな、彼があとわずかの命で、この旅のあと、死を迎える運命であることは知っている。元気でいられる時間はわずかしかないから、その前にこうして最期の旅に出る。家族もそんな彼のわがままを受け入れる。彼が友人たちと思い出の場所へと旅すること。両親はそれを受け入れた。もう会えないかもしれないけど、送り出す覚悟をした。

 映画は最初のたった5分ほどで、そこまでのすべての事情を一気に説明する。見事な導入部だ。彼にはもう時間がないから、この映画もまた、1分すら無駄にしない。旅立ちの興奮、1日目、2日目と瞬く間に過ぎていく。これは彼が死ぬ前にもう一度見たいと望んだ風景との再会の旅だ。

 そこで彼が何を思うのか。また、これは彼を起点にした3人の友人たちのドラマでもある。4人がそこに何を見ることになるのか。これは同じように30歳を目前にした彼ら全員の物語なのだ。『スタンド・バイ・ミー』の大人版である。今彼らが置かれたそれぞれの過酷な状況が見え隠れする。大切なことは、主人公の死という事実を通して見える彼らの関係性である。だからここではラストの決断へと至るドラマや、旅の途中に起きるいくつものお話自体は重要ではない。

 自分の意思で生きること、最後まであきらめないこと、彼が死を選びとることを認めること。これは逃げではない。それは自分の人生は自分で決めるという覚悟だ。だから、みんなはそれを受け入れた。自分が彼だったなら、どうするか。3人はそれぞれ考え、お互いにとって必要なものを感じ取る。友だちなら、理不尽な人生の最後に彼が選びとった自分の人生を全うさせたいと切に願う。



コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 三浦しをん『まほろ駅前狂騒曲』 | トップ | 燈座『父を葬る』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。