とてもさわやかで心に沁みる傑作である。こういうアニメ映画が作られ、公開される。それってすごい。素材としては地味すぎて劇場用長編映画にするなんて、なかなか思わないのではないか。商業的に成功するはずもない、と却下されそうな題材だ。まずはTVアニメとして作られたらしい。それを劇場用に新たに作り上げた。DVDには映像特典としてTVアニメの第1話が収録されていたが本編を見た後連続してそれを見たのでその差異が明確にわかったのもよかった。映画版の見事なアレンジが際立つ。
映画版は小学6年にしては少し幼い印象を残すキャラクターに変更してある。お話のテンポの良さは見事、しかも、見た印象は、まるでせわしなくはなく、それどころか、ゆったりとしている。なのに94分という上映時間も適切。個々のエピソードの流れ方も自然体でいい。詰め込んだという印象はない。だけど、過不足なくどころか、とてもいい感じで、流れるように見せていく。『となりのトトロ』に匹敵するなんていうと、誉めすぎだろうが、あの映画を引き合いに出したくなるほど、よくできているのだ。(さすがに『千と千尋の神隠し』とは言わない。それにこれはあの映画のような大作ではない。小品であるからこそ、すばらしいのだ。)
温泉町の雰囲気がとてもよく出ていて、(先日見た『まく子』を思い出させる。あれもよかった!)なんだかほっこりさせられる。自分もまた旅に出て、この旅館に泊まった気分にさせられる。そんな疑似体験ができる映画は、それだけでもいい映画だ、と言っていい。
お話自体はよくある少女の成長物語だ。そこに死者(ここにいる幽霊たち)が絡んできて、という展開もよくあるパターンかもしれない。(『ももへの手紙』も思い出す)だけど、このさりげなさはなかなかできるものではない。感傷過多にはならないのも素晴らしい。作り手の節制が効いている。