凄くいい。水谷豊の監督第2作。前作は悪くはないけど、というレベルの映画だっただけにあまり期待はしなかった。でも、見始めてしばらくしてこれはちょっと違うと思い始まる。このさりげなさ、でも、この緊張感は半端ではない。気負うことなく、この最悪な出来事を見せていく。「人生が終わったな」という瞬間をこんなにもリアルに見せられたら、そこからどう話を展開させるのか、心配になるほどだ。
だけど、大丈夫。自然体のままで、お話をスライドさせていく。一瞬ですべてが終わることもある。事故で死ぬ、事故を起こして人生を終わらせる。そのふたつは同時に起こる。映画はそこから始まる。若いふたりの話から(男同士だ!)、彼らが殺してしまった女性の両親の話へとつないでいく。ブリッジとなる刑事たちの登場から、逮捕までも実にさりげない。被害者対加害者という図式も、よくあるパターンにはならない。娘を失くした父親の想いを水谷豊自身が抑えたタッチで演じる。映画が始まって1時間近く経つまで登場しないし、それからも、決して前面に出てこないのに、すべてをかっさらっていく。監督、主演のコンビネーションは素晴らしい。(もちろん、どちらも水谷豊だ。)だからといって彼がいいところどりをしているわけではない。主人公である二人の青年の関係を中心に据えて彼らが何を考え何を思うのかが映画の核心を担う。犯人探しなんかまるで眼中にないけど、思いがけない展開で、驚かされる。
しかも、謎解きも実にさらりと見せていき、そのくせミステリであることを殊更強調することもない。ふたりの想い(その屈折した友情!)をちゃんと描き切るところから、ヒロインである犯人の恋人(というか、事件の翌々日に結婚しているから妻)の想いにまで届く。痒い所にはちゃんと手が届く映画なのだ。過不足なく、(過小になることもなく、過剰にもならず、)適切に、無口に、必要なものだけをちゃんと描き見事に幕を引く。
ラストシーンには舌を巻く。そこで終わるのか、と驚かされるばかりだ。ふたりの手と手が重なる。ふたりとは、娘を失くした母親(壇ふみ)と、夫を失った女性(犯人の妻だ)。そこにいるのは、この映画の主人公である父親と犯人である男ではない。
2時間7分があっという間の出来事だ。映画を見た、という気分にさせられる。