山本文緒最期の長編小説をようやく読み始めた。約500ぺージのかなりの長編である。32歳の女性、都。アウトレット店員(契約社員)、独身、恋人はいるけど、2歳年下で、彼は今はフラフラしていて結婚の意思はない。彼女は母親の介護のため東京から実家に戻ってきた。母親の病気は更年期障害で、病院の付き添いや家事をしなくてはならないから。1年経ち少しは落ち着いたけどまだ不安定。そんな女性の日々の暮らしが綴られていく。読んでいて楽しいはずもない。憂鬱な気分になるばかりだ。だけど、彼女がどこにいくつくのか、それが気になるからやめられない。
単行本にする時に、追加されたプロローグで、彼女の結婚式が描かれる。ベトナムで、ベトナム人の男性と式を挙げるエピソードが提示されてあるから、結末はもうすでに明白である。どうしてこういう形で完結させたのか、最後まで読まなくては作者の意図は分からないけど、これがあるから、序盤にさりげなく登場する同じアウトレットで働くベトナム人の男の子がたぶん結婚相手であろうと想像できるのだが、小説としてはそこは曖昧にしておく方がよかったはずなのに、敢えてこういう形での提示をしたのはなぜだろう。気になる。今読み始めてすでに300ページを越えたが、まだあのベトナム人男性は本格的に(再)登場はしない。
職場での人間関係や友人のこと、そして、生活力のない恋人、両親。それだけが今の彼女の世界だ。狭い世界で将来への不安を抱えて過ごす時間。ドラマチックとは無縁の日常。そのなかでの彼女の選択。時折両親の視点から描かれる部分があるけど、そういうところが全体のバランスを崩す気もする。(長い小説だから、それが息抜きのようにもなるけど。)たしかに、彼女の視点だけでは息苦しい。いくつかの紆余曲折を経て、どこにたどり着くのか。
ここからは最後まで読んだ感想。
エピローグを読んで納得させられた。そういうことか、と。でも、こういうミスリードを誘う仕掛けを敢えてとったのは、なぜだろうか。本編のラストから20数年後という展開で、プロローグの結婚式は娘の結婚式だったというオチが用意される。なんかズルい気もする。
不安を抱えたまま、さまよう心の旅路が描かれていく小説だ。嫌な気分が持続する。でも、そこから目を背けたくはない。だから、最後まで付き合ったのにラストははぐらかされた気分だ。終盤、西日本豪雨のボランティアに行くところからラストの貫一との再会という幕切れは悪くないのだが、もう少し書き込んで欲しい。あそこで終わるのは納得がいかない。彼女の決断に至る過程が尻切れトンボのまま、いきなり20数年後、ってそれじゃぁ、そこまで読んできた450ページは何だったのか、と思う。