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映画・演劇のレビュー

『ハッチング 孵化』

2022-04-20 12:19:29 | 映画

『チタン』を見た後、ハシゴでこの映画を見るなんて、自分で言うのもなんだが変態的だ。2本見た後、さすがにぐったりした。映画としては先に見た『チタン』の衝撃が大きすぎてこの映画では太刀打ちできない。単体でこれを見ていたら、なかなか面白いという評価も出来たのだろうが、今は、それほど面白いとは書けそうにない。

もっと繊細な映画ならよかったのだが、そうではない。えげつないホラーでもない。では、中途半端な映画か、と言われるとそれもまた違う、と言うしかない。冒頭の母親による配信動画の撮影が不気味で、そのねじれ具合が興味を引く。母親に強要されて家族は幸せな一家をぎこちなく演じる。母親の嘘くさく張り付いた笑顔が怖い。娘も、父親と弟も彼女に従う。ネット上に自分の家族の素晴らしさを公開するのが彼女の生きがいだ。娘はほんとうは反発してるのだが、本心は出せない。笑顔を絶やさず(本当は強張っているけど)母親の言いなりになっている。12歳のこの娘はとてもきれいでかわいい。母親の自慢だ。彼女は体操チームに所属している(させられている)。母のため、今度の大会に出なくてはならない。そのためにはまずレギュラーに選ばれなくてはならないのだが、今の力ではそれは(かなり)難しい。

映画の冒頭、少女が窓を開けたとき、そこからリビングに黒い鳥(カラス?)が入ってくる。大騒ぎになる。家の中にあるいろんなものが破壊される。ここにある調度類はすべて母親が大切にしているお気に入りのものばかりだ。完璧に並べられてある。ようやく捕まえた鳥を母親は平然とその場で首を絞めて殺してしまう。ここまで(たぶん)5分くらいだ。これだけの描写でこの映画のすべてがわかる。見事な導入である。たった91分の映画だが、全く無駄がない。異常な事態をさくっと見せていく手口も鮮やか。(何度も書くが、『チタン』と同じ日に連続で見ていなかったなら、もっと絶賛できたかもしれない。)

鳥の死体を棄てたところで、卵を拾う。その卵を大事に育てるとどんどん大きくなり、やがてとんでもない化け物が生まれる。そのグロテスクな化け物を少女は育てるのだが・・・

残念なのはこの映画がここからお決まりの展開にたどり着くところだ。化け物は彼女のもうひとつの姿で、最初はグロテスクな化け物だったが、だんだんその姿も彼女自身と似てきて、やがては成長して同じ姿になる。

ここにいる自分は実は偽物で本当の自分は他にいる。卵から育てた「それ」が、実は本当の自分だったのではないか。もうひとりの自分が彼女の抑えていた心のままに想いを実現していく。そして、最後に自分とすり替わる。少女が母親に殺されることで、化け物は自分自身になるというハッピーエンドだ。僕はこの前の段落の最初に「残念」と書いたが、もしかしたらこれは見事なオチなのではないか、と今書きながら思う。映画としては『チタン』には及ばないけど、これは男なんかでは描けない感性でありであり、感覚だ。

これはこれで凄くいい映画なのかもしれない。監督はハンナ・ベルイホルム。『チタン』同様女性監督だ。恐るべし。いずれも理屈ではない生理的な怖さや不快感が描かれる。ただ、こちらは少し理に落ちる。だから残念ながら少し安心させられる。その差は大きい。


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