この本の全編を彩る鮮やかなカラーイラスト(大桃洋祐)の人物にはなぜか鼻はあるけど口がない。そんなささいなことがなぜか気になった。この本のタイトルは「おしゃべり」な部屋、なんだけど、と思いつつ、でも部屋には口はないよな、とも思う。
主人公のミコは依頼された部屋の片づけをする、という仕事をしている。そこでいろんな部屋と出会う。ここでは7つのエピソードが描かれていく。短編連作である。川村元気によるこの小説は片付けコンサルタント近藤麻理恵の体験から書き下ろされた。だから、これはふたりの(厳密にいうと、イラストレイターである大桃洋祐も含む3人の)コラボ小説なのだ。なんだかそれだけで(みんなでワイワイ言いながら作ったって感じで)楽しい。
ここにはいろんな人たちが出てくる。彼らは片づけが苦手で、でもなんとかしなくっちゃとは、思っている。そして、そんな「彼らそのもの」の「いろんな部屋」がある。そこでミコたち(ミコの相棒のおしゃべりな小箱、ボクス)は、片づけをしながら対話していく。これは、モノとヒトが「片づけ」というおしゃべりを通して心を交し合うハートウォーミングだ。
普段の川村小説とは少し違うけど、こういうある種のファンタジーは彼のデビュー作『世界から猫が消えたなら』から一貫したものかもしれない。軽やかで、気持ちのいい小説だ。あっという間で読み終えてしまった。
本当なら1日、1篇ずつ、1週間かけて読むのが正しい読み方なのだろうけど、僕はついつい一気読みしてしまう。よくないことだ。それは作者の意に反する行為だ。だから、これから読む人はちゃんと1日1つでよろしくお願いします。