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映画・演劇のレビュー

『東京家族』

2013-01-29 23:04:53 | 映画
 山田洋次監督50周年記念作品である。山田洋次監督は、半世紀の長きにわたって映画を作り続けてきたんだ。その当たり前の事実に驚く。そして、今回、彼は小津安二郎監督の名作『東京物語』に挑む。日本映画史上最高の傑作に留まらず、世界映画史にも名を残す作品をリメイクするのではなく、新たに新作として作り直すのだ。山田洋次にしか描けない世界を、この同じ話の中で展開するのだ。しかも、時代設定は、今である。この現代の東京を舞台にする。

 だが、出来あがった映画は、とても今の時代の映画には見えない。お話が古いだけではない。とても今の時代を感じさせない。それをアナクロだとか、言うつもりはない。昭和の香りがする、とか、言うのでもない。常に時代と寄り添い、時代と向き合い、真摯に映画を作り続けた彼だからこそ、描くことが可能だったものが、ここにはある。これは山田洋次にしか、描けない世界なのだと思う。自分と自分を取り囲む世界を見つめて作り続けてきた彼だからこそ可能だったものが、ここにはある。映画は山田洋次そのものとしかいいようのない作品に仕上がっている。それが、なんだか不思議なくらいに今を感じさせない理由だ。それは、いいとか、わるいとか、そんな問題ではない。ここに描かれるのは山田洋次の現代東京の物語なのだ。

 今回は一切笑いのない作品になった。とてもきつい内容の作品だ。それはオリジナルの60年前と変わらない。ここまで忠実にリメイクしていいのか、と思うくらいだ。だが、彼は自分のオリジナルを極力抑えてこの1作を作る。そこに、時代が変わっても、変わることのない家族のきずなを描く。それは震災で1年製作を延期して確認したことだ。どんなに悲惨なことがあろうとも、日本も日本人も変わらわないという確信である。

 これは山田洋次が50年かけて描いてきたものの集大成だ。もちろんこれはその到達点だなんて言わない。それどころか、作品の完成度は、残念ながら、決して高くはない。もちろん偉大なオリジナルを超えるつもりなんかない。そんなことより、作品としての完成度やインパクトは40年前の『家族』よりも劣るほどなのだ。でも、そんなことはこの際一切問題ない。どうでもいいことだ。

 芸術作品を作ることが目的ではない。今の自分がやらねばならないことをすることが大事なのだ。日本人と日本の家族を小津作品というフィルターを通して見つめることで、見えてくるもの。それを提示すること。それを山田洋次監督の目に映った今の日本として描くこと。彼の2013年がここには描かれる。

 巨匠の仕事というよりも、庶民の代表としての彼が、今、問いたいことがここにはある。ずっと名もない庶民の哀歓を描き続けてきた彼の新しい1作としてこれを受け止めたい。寅さんシリーズの新作を見るときのような目で、この山田洋次映画最新作を見たい。

 ダメ息子の妻夫木聡がいい。そして、彼を支える蒼井優がすばらしい。2人はまるで寅さんとサクラだ。そんな2人がこれから結婚して、新しい家族を作っていく、というハッピーエンドに胸がいっぱいになる。




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