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映画・演劇のレビュー

『テッド』

2013-01-29 23:00:09 | 映画
 友だちがいない少年は、両親からクリスマスにもらった熊のぬいぐるみを大事にしている。彼にとってそれは、たったひとりの親友だ。片時も離れず、いつも一緒にいる。寝る時も一緒だ。ある日、そのぬいぐるみが、しゃべりだす。そして、普通の人間のように振る舞うのだ。それから20数年。30歳になっても、彼はぬいぐるみのテッドと一緒に暮らしている。

 この映画が実現可能なら、実写版『ドラえもん』も十分可能だろうと思わせる。でも、『実写ドラえもん』なんて、誰も見たくはないだろう。それと同じ意味で、この映画も、思いつきほどには、面白くはない。しばらくは笑えるけど、その先は、あまり見たくはないものになる。現実の世界でファンタジーが日常化したとき、そこにはもう夢はない。いくらテッドがかわいい「くまちゃん」でも、所詮はぬいぐるみだ。

 彼が表面的には同じルックスのまま、中年男になったとしても、そこから生じるドラマは、気持ちのいいコメディーにはならない。だいたい大人になりきらない中年男なんて、それだけで気持ちが悪い。ここには無邪気ではいられないはずの大人の男が、まだガキのまま、大人の時間を過ごす姿が描かれるのだ。無残だ。しかも、中年のくま(ぬいぐるみ)と、つるんでいる。

 『フラッシュ・ゴードン』をリスペクトする2人は(もちろん、くまと主人公)本物のサム・ジョーンズと知り合い、狂喜する。しかし、あれから30年を経てサム・ジョーンズはもう老人になっている。なのに、金髪で6,4分けで、マッチョで、男前のフラッシュ・ゴードンをそこに見ている。映画の中の主人公は老いないけど、現実の人間は老いていく。そんなことすら、気にも留めずに大喜びできる彼らは明らかにおかしい。彼らは見たくはないものは見ないで、見たいものだけを見ているのだ。

 一見とても楽しいこの映画を見ながら、その無邪気さの中に潜む、とてもいびつなドラマに心は凍りつく。これはちょっとしたホラー映画ではないか。




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