習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『サンジュ』

2020-04-03 20:31:29 | 映画

『きっと、うまくいく』のラージクマール・ヒラニー監督の最新作。インドの伝説的俳優の伝記映画で、ほぼ実話らしい。インドでは誰もが知る、しかも、現役で活躍中の人物をモデルにして、ボリウッド映画だから、歌やダンスシーンもちゃんと盛り込んでのエンタメにしながら、彼の悲惨な人生のドラマを見せていく。なんかそれってすごくないか。ボリウッドなのに必ずしも明るくノーテンキな映画はない。

映画は破天荒だ。むちゃくちゃなお話でついていけない。どこまでがほんとうでどこからが嘘なのか、と疑いながら彼の告白を聞いていくというスタイルだ。心の弱さから、酒とドラッグに溺れ、女遊びも際限なくする、救いようのない男なのだが、有名人故のその蛮行をマスコミは好き勝手書き、煽りまくる。それだけならどこの国にでもあることだろう。ただ、彼はあまりにえげつなさすぎた。冗談にしか見えないから、最初はこの映画がシリアスだとは思えなかった。こんなむちゃくちゃなことがあるはずもない、と。

しかし、このバカバカしい出来事は、決して冗談ではない。ラージクマール・ヒラニー監督は、終始嘘でしょ、と思うくらいに破天荒な行為や出来事を、冗談のように撮っている。それを信じられないけど、観客である僕たちは啞然として見るしかない。裏社会や、マスコミに巻き込まれて、ぼろぼろになりながらも、相変わらずだらしなく生きていく。こんな男に共感できない、にも関わらず、彼から目が離せないのは、どこかに真実があると思うからだ。このお話がどこに行き着くのか、見届けたいと思う。インド人なら彼が釈放されるのは、わかっているだろうけど、何も知らない僕は「なんなんだ、これは!」と呆れながらも成り行きに身を任せる。決して上手い映画ではない。だけど、確かに、これがどこに行きつくのか、気になるからやめられないのだ。相変わらず2時間40分とインド映画のパターンで長い。

最後まで見たら、それなりには納得する映画だし、言わんとするところはわかる。だけど、やはり、これは何かの冗談でしかないのではないかと思わされる。それくらいに、あり得ない。植木等か、と思うくらいに調子のいい男だ。銃の不法所持、テロリストの汚名、というお話の根幹を成す部分よりも、実際の蛮行のほうが強烈で、マスコミの餌になり、好き放題書かれ、監獄に入れられるという幾分シリアスな部分は霞む。冗談と本気の境目がない。だから、見ていて、不安になる。心からの友人と彼との交流を描くエピソードもなんだか、あり得ない展開で信じ難い。こんな男と親友であり続けるなんてやはりありえない。

ボリウッド映画のノーテンキなパターンの中から、こういうタイプの映画が出てくるなんて、不思議だ。実在の人物の伝記映画なのである。社会派で,不正を告発する映画でもある。なのに、この映画を見ながら、このお話の何を信じていいのかわからないな、と思ったことも事実だ。娯楽映画のスタイルを踏まえて、その中でインド映画界の実情を糾弾するというのが監督の意図の中に含まれていたことも事実だろう。盛りだくさんで、どこに焦点を置いて見たらいいのか、よくわからないくらいに破天荒な映画で、その構成は破綻している。だけど、これだからこそ、インドの大衆の支持を得たのだろう。社会派映画として、これを捉えるのは難しいし、意味はない。だけど、作り手が全力を注ぎ込んで、この奇怪な大作をものにしたことは事実で、こんなむちゃくちゃを成り立たせるインド映画は確かに凄い。


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