下町を舞台にした人情劇かと思って読み始めたら、なんだかよくわからないサイキックもので、確かにタイトル通りのお話だよな、と納得する。中学1年の女の子と近所に住む友おじさん(実の叔父です、と書こうとしたけど、最初の部分を見返してみるとただの近所の知り合いのおじさんだった)が、不思議な出来事に遭遇してそれと向き合う。彼女には霊感があり、見えないものが見えてしまう。母と離婚した父が魔性の若いきれいすぎる女と付き合い、町の噂になり父は自殺未遂を起こす、なんて話からスタートする。4話からなる長編小説。
甘いハートウォーミングかと思っていたから、最初はすごい違和感。だけどこれが目指すものが明確になってからは、読みやすくなる。吉本ばななの新境地。主人公はあまりに子どもらしくない女の子だけど、彼女の冷めた目線からさまざまな人たちのドラマを掘り起こす。基本的には下町を舞台にした人情噺という体裁を取る。ヒューマンドラマ。だけど実はかなりシビアなお話である。
3話まで読んでなんとなくこの世界観が馴染んできたけど、いきなり4話は3年後になり、彼女は高校生になっている。友おじさんは遠距離恋愛の彼女と結婚することになり、自習室は一時閉鎖される。変わらないものはないけど、いきなりある日変わることもある。彼女はある日ひとりの男の子と出会う。(というか、まずは彼が連れていた犬と出会うのだが)まさかの展開になってくる。ふたりの結婚から出産へと話が進む。
町に育てられ、死者が見えてしまうけど、生きているものと死んでいるものも含めてすべてと共に生きる。生と死と善と悪の狭間で生きていく。ささやかだけど、壮大。