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映画・演劇のレビュー

中村航『大きな玉ねぎの下で』

2024-10-03 06:38:00 | その他

相変わらずかわいい小説を書くのが今の中村航だ。今回は1984年末4月の男女と2024年4月の男女のお話。この別々の時間を過ごす別々のふたりたちが文通とラジオ番組を通して通じていく、という話だ。ふたつの時間が交互に描かれていくが、混じり合うことはない。4月の1週から始まって2週目に続く。穏やかに時間は過ぎていく。

そして運命の8月18日を迎える。と言っても、たいしたことではない。ラジオ番組を通してふたりが出会うだけである。その番組のDJのことや、彼の昔の親友の話。84年の相手との文通の切ない別れが明らかになる。
 
すべてが明らかになるラストにはカタルシスはない。これはある種の予定調和だ。だから安心はするけど、驚かない。あまりにありきたりの展開には反対に驚くくらいだ。こんな大甘のラブストーリーは今時TVドラマにもならない。だけど、あえてそんな時代だからこそ、こんな作品を堂々と作ってしまうところが中村航らしい。
 
読み終えた後で知ったけど、この小説の元ネタである80年代の名曲、爆風スランプの「大きな玉ねぎの下で」は、この小説と同時進行で映画化もされているらしい。しかも全く別のストーリーとして制作中だとか。映画『大きな玉ねぎの下で』は25年2月7日から神尾楓珠、桜田ひより主演で全国公開予定。本小説の著者である中村航がストーリー原案を担当している。

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