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映画・演劇のレビュー

超人予備校プレゼンツ トリオ天満宮炎『イノシシシ』

2007-07-04 22:31:04 | 演劇
 魔人ハンターミツルギ版『ニューシネマパラダイス』とでも呼ぶべき作品。彼の映画に対する愛がここには余すところなく溢れている。といってもそれは映画検定とかに通るための雑学的なものではなく、ここには純粋な映画に対する熱い想いと憧れが詰まっている。暗闇の中、大きなスクリーンに映像が映り、アクションがあり、サスペンスがある。ドキドキして、それを見守る。そこには笑いと涙がいっぱい詰まっている。

 それは、誰が見ても楽しくて2時間の至福を与えてくれる幻の装置としての映画だ。彼が好きだった「映画」というおもちゃ箱についての愛が、この作品には溢れているということなのだ。

 兄と弟がいる。弟は兄に憧れている。ずっと兄の後ろを追いかけていた。兄のような絵が描きたいと願い、自分も描いてみた。兄のような漫画が描きたいと思い、自分も描いた。パラパラマンガが、映画に。兄のような映画が撮りたい。そんなふうに、彼ら兄弟の夢はどんどん大きくなる。今では世界的な巨匠となった弟吾郎(信平エステベス)は、巨費を投入した新作の監督に、兄である士郎(上田ダイゴ)を指名する。彼の兄は今ではバカなB級映画や、CMを監督している。士郎は弟の完璧な脚本、スタッフ、キャストをそのまま引継ぎこの超大作『ロミオ+ジュリエット』を撮ることになる。

 ミツルギさんが示そうとする世界は、そのあまりのバカバカしさゆえ、笑いさえ凍りつく。今回もロミオとジュリエットを題材に、史上最悪の映画を撮ろうとする兄の劇世界として、バカの限りを尽くす。しかし、今回はいつもと違い骨太なストーリーラインを用意したため、芝居がぶれることはない。ギャグやお笑いが横滑りしない。上田ダイゴと信平エステベスというきちんとした芝居もできる役者を中央に据えて、彼らにシリアスな芝居を、超人予備校のメンバーとのドタバタの中でさりげなく演じさせる。とんでもないバカバカしい映画の撮影を通して、その破天荒なシーンシーンをいつものタッチで見せつつも、今回は全体的なルーズさを抑えて、きちんとした芝居として再構築している。アドリブを排し、かなり作りこんでいる。

 兄は自分自身から逃げることで、何を求めたのだろうか。彼に本気の映画を撮らせたいと思う弟は、兄の見失った夢を実現させることを願う。それは自分があの日見た夢でもあるからだ。この兄弟が映画という幻の先に何を見たのか。あの遠い日の映画への旅が始まる。子どもの頃、いつも2人でした映画ごっこ。大人になった今の2人が、あの日のように戯れるシーンが素敵だ。映画はありえない夢を現実にする夢の装置だ。子どもだった2人が、大好きだった夢の場面を再現する。そこでは夢は現実になる。とめどなく広がる世界。そのむこうに彼らの未来が確かにあった、はずだ。ラストでは、この兄と弟の切ないドラマに思わず涙が出そうになった。まさかトリオ天満宮に泣かされるなんて、夢にも思わなかった。

 劇中劇として、旭堂南半球の語りにより、兄の撮った幻の8ミリ映画の上映が描かれるのもいい。このシーンだけでなく、全編、一切映像を使わないで映画を描くという姿勢がいい。ミツルギさんは安易にビデオとかで映画を語らない。舞台中央にはヒラヒラの白い布でしかないスクリーンがかかっている。ここにビデオで映像を映し、映画のフリをするなんてことも当然ない。

 フライヤーに「まぁ、おもしろいのだが別に見なくていい」という塚本さんの最高の褒め言葉が掲載されていたが、これだけの傑作を見逃してしまった演劇ファンの人は、深く反省しなくてはならない。映画ネタをやると聞いた時から、これはいつもとは違うかも、なんて思ったが、ここまでやるとは思いもしなかった。もちろん次回はまた、いつものように「とてつもなくくだらないこと」をしっかりやってくれることを期待している。


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1 コメント

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ありがとうございます。 (まじん)
2007-07-05 00:08:21
ありがとうございます。
久々に人を煙にまく作品を作るため、いつもより筋を通しただけなんですが、それが良かったですか?
映画がなぜ好きか?自分のことを探ろうと芝居にしてみましたが、わかりませんでした。きっと理由はないのだと思います。それがわかっただけでもこの作品を作って良かったです。
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