なんと650ページ越えで2段組の本だ。読むのに1月ほどかかった。いや、1か月かけて、ゆっくりと読んだのだ。ふだんなら本は通勤の電車の中で読むのだが、これは重たいから夜寝る前にベッドの中で30分から1時間くらい毎日読んだ。全50作品の解説やさまざまなエピソード、批評をあらゆる側面から書いてある。1日2,3作分を読み継いだ。
読みながら寅さんとの日々を思い出していた。作品解説だけではなく渥美清のたどった日々や、山田洋次のこと、かかわったキャストたち。もう、全身寅さんである。『男はつらいよ』という世界に佐藤利明は浸りきっている。この本を読んでいると彼の生きてきた人生までもが見えてくる。寅さんとともに彼が歩んできた今までの日々である。
渥美清がなくなり、そのあと、改めて映画と共に寅さんと歩んだ人生をたどる。その記録でもある。僕は彼より少し年上だけど、寅さんとの出会いは彼より遅い。第14作『寅次郎子守唄』からだ。たまたま見た映画の中に混じっていた。当時は映画は2番館では3本立てが普通で、メインの2本のおまけでもう1本がついてきた。たぶんそのおまけとして寅さんを見たはずだ。その時はそれほど印象に残っていない。でも、メインである同時上映されていた映画がなんだったのかは忘れているのだから、不思議だ。75年の1月のはずだから、まだ15歳だった。
その年の夏、『寅次郎相合傘』である。ここからはもう寅さんは年に2回の恒例行事となる。それくらい強烈な印象を残した。有名なメロンのシーンでは大笑いしながら泣いていた。こんな映画があるんだ、と感動したし、それからは山田洋次の大ファンになった。過去の作品も追いかけた。当時はDVDなんかないけれど、TVでよく放送していたから、それでほぼすべてを見ることができた。もちろん寅さんの過去の作品も見れる範囲で見た。寅さん映画は当時封切館では興業不振が出るとさかんに「寅さんまつり(」旧作の3本立)をしていたから、そこでフォローした。今考えるとありがたい時代だった。
この本を読みながら自分がそれらの映画を見た時代を思い出していた。佐藤さんがこの本を書いて(話して)いた時と(たぶん)同じように、読みながら僕も寅さんと生きた時代を遡求していたのだ。あの頃、何をしていたのか、そんなことまで思い出す。
昨年の末、まさかの最新作『お帰り寅さん』を見て、さらに今、この本を手にして、今土曜日の夜、TVで毎週、デジタルでよみがえった寅さん映画を見ている。たぶん1年かけて48作品を放送するのだろう。今なぜ、寅さんなのか、と考えても答えは出ないだろう。だけど、こんな時代だからこそ、意味があるのかもしれない。大林さんが亡くなり、認知症の僕の母親と同い年である山田洋次監督が、今なお現役で新作に取り組む。(主役予定だった志村けんがコロナで亡くなり、撮影は中断しているようだけど)そんな時代を僕たちは生きている。
全50作の中から僕のベストテン
1位 『寅次郎相合傘』
2位 『寅次郎ハイビスカスの花』
3位 『寅次郎恋やつれ』
4位 『寅次郎夕焼け小焼け』
5位 『寅次郎あじさいの花』
6位 『寅次郎紅の花』
7位 『寅次郎夢枕』
8位 『寅次郎の青春』
9位 『柴又慕情』
10位『寅次郎の縁談』