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映画・演劇のレビュー

『オオカミ少女と黒王子』

2016-06-13 21:38:25 | 映画

 

廣木隆一監督が『ストロボ・エッジ』に続いて贈る少女マンガの映画化作品。今回もまた、ありえないような設定のお話で、でも、基本的なストーリーは高校生活のスケッチなので、荒唐無稽が描かれるわけではない。でも、こんなマンガの中の世界のような高校生活はない。恋愛ばかりの人生なんて、高校生でも少女マンガだけ。そんな夢物語がここには描かれるのだが、その中にきらりと光るものを込める。リアリティがあるとは言わないけど、納得する映画に仕上がった。

 

驚きはこんなお話なのに、それを二階堂みほが演じたら、リアルになるということ。この人は凄すぎる。ふつうじゃない。最初の登場シーンで彼女の顔がわからなかった。四人組の後ろに立つと、まるで存在感をなくす。主人公なのに、登場シーンで、まわりに埋もれてしまい、「この地味な女、誰? 」と思ってしまった。しばらくして、二階堂みほだと気付くだなんて、凄すぎる。その後も彼女はまるでヒロインには見えないまま、ストーリーが展開するのだ。彼女に花がないというわけではない。彼女はわざと存在感を消すことが出来てしまうのだ。役に入り込めば、映画の世界に染まることが出来るカメレオン俳優なのだ。たしかに、そういう役者はいる。どの映画においても違う顔で立つ役者だ。だが、彼女は今までそうではなかった。強烈に自分をアピールするような役が多かった。なのに、この典型的な学園もののヒロインを演じるにあたってこういうアプローチをしたのだ。

 

もうそれだけで、この映画はドキドキする作品になった。このどうでもいいようなストーリーの映画で、彼女は何をしでかすことになるのか。彼女がおとなしければおとなしいほど、映画は不穏な空気を醸し出す。でも、彼女が突如暴れだすわけではない。彼女は終始一貫少女マンガのヒロインを一途に演じるのだ。

 

ふつうの女の子(特別かわいいわけではなく、そこそこかわいい程度)をちゃんと、演じて嘘くさくはなく、しかも、これだけ嘘くさい設定を平気で演じ続ける。ラストでは大団円のハッピーエンドをいけしゃぁしゃぁと演じきる。何だあの長回しのラストは。クレーンを使いカメラがゆっくりと引いて行くのを延々と見せる。神戸の中華街で、キスシーンを演じ続けるのだ。それで終わりだ。幸せなラストをただただ呆然と見守ることになる。

毒があちこちにばらまかれてあるようにも見える。だけど、それはただの思い過ごしのようにも見える。なんだか正直にこの映画を見ることは出来ない。なんか、そこには裏がある、そんな気にさせられるのも、彼女の存在ゆえだろう。なんだか、危ない映画なのだ。

 


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