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映画・演劇のレビュー

『きいろいゾウ』

2013-08-18 21:08:14 | 映画

とても不思議な映画だ。心を病んでしまった人たちが田舎で過ごす日々を描くファンタジーなのだが、特別不思議なことや、現象なんかはない。だから、ただの生活のスケッチなのだが、出てくる人たちが現実離れしていて、その存在自体がファンタジーなのだ。

主人公はムコ(向井理)とヨメ(宮崎あおい)と呼び合う。もちろん夫婦だ。この若いカップルを中心にして、この村で暮らす年寄り夫婦(柄本明と松原智恵子)、町からやってきた少年(ある事情から、小学校に行けなくなった)と、この村の少女。この3組のカップルの話に、ムコが以前かかわった都会で暮らす夫婦が絡んでくる。都合4組の男女の織りなす物語。

それぞれがそれぞれの事情で苦しみ、パートナーに支えてもらいながら、なんとか生きている。この村での静かで穏やかな暮らしの中でなんとかバランスをとっている。しかし、ほんの少し均衡が崩れてしまうと、お互いどうしようもなくなる。互いが相手を支えているように見えて、両者のバランスはあまりうまくなく、一方的だったりもする。だが、その一方通行の想いが、相手ではなく、自分を癒している場合もあるから不思議だ。

人と人との関係は難しい。都会で暮らす中年の男女(リリー・フランキーと緒方たまき)は、病んだまま朽ちていく。だから、夫は彼女のために田舎で暮らすムコ(彼は昔、緒方と付き合っていた)を呼び出す。そのせいで、ヨメは心の安定を失う。

少年は田舎の村から自分の住む都会の町へ帰っていく。田舎での日々を通して心を回復し、現実に戻ることにする。だが、彼らはみんな一人になったら弱い。だから、彼のその後が不安だ。ただ、少年はヨメと出会い、恋をして、自信を持つ。誰かが彼を支える。

きいろいゾウなんていないけど、きいろいゾウに支えられて、彼女は生きている。心が壊れてもゾウは彼女を支えてくれる。なんとかギリギリである。ゾウだけでなく、お月さまや、犬、ソテツ、さまざまな動植物が応援してくれるから、危ういバランスをとることが出来る。でも、それだって、今後どうなるか、わかったものではない。でも、そんな風にして、人はみんな生きている。

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